キミの知らないウソ

□4話
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ギャングの仕事といえば、チームで担当する地区の治安維持やらお金の管理やら、その他のマフィアとの抗争やら、やるべきことはたくさんある。

今回のお仕事は、その他マフィアとの抗争だ。

パッショーネを捻り潰さんとするマフィアが、我々のテリトリーで好き勝手暴れまわってるとの情報を掴んだ。それを上に報告すると、【敵のリーダーを殲滅しろ】との命令が下った。敵のリーダーを殲滅ってことは、出来れば穏便に暗殺ってことで、さっそく私の出番である。

私のスタンドは暗殺向け。私を中心とした半径1メートル以内限定で、相手の動きを止めることが出来る。石のようにピシリと固まっている相手を蹂躙し放題。

ただし、息を止めてる間のみ。呼吸しようもんなら能力は即解除。連続して止めれないこともないけどリスクが大きい。一番の欠点は、相手の動きを止めていても銃弾や物などは普通に当たる。あくまで対ソロ限定。ターゲットの懐に侵入する為の相棒が必須だ。

その相棒を決めるのは、チームリーダーのブチャラティさんで、今回の相棒に選ばれたのは、ミスタでした。

気を使ってくれてありがとうと言いたいところだけど、こっちも命がけの仕事をしているわけで。好きな人が近くに居るのに集中出来るわけない。ブチャラティさんのことだから、それを案じて早く慣れるようにって意味もあるんだろうけど、それにしても荒療治過ぎる。

それに暗殺の相性も良くない。ミスタも暗殺向きのスタンドかもしれないけど、暗殺の種類が違うといいますか。例えるならミスタはゴルゴ的な暗殺で、一方私は気づけば背後に居た的な暗殺。種類もハメ技も全然違う。しかも今回の暗殺場所はホテルの一室。

ミスタは銃をバンバン撃って、それに気づいたマフィア達が騒ぎだし、その場は激しい銃撃戦になる。その横で、息を止めながらナイフでグサリグサリ。ムリだ。流れ弾が当たるに決まってる。

そのことをブチャラティさんに抗議したけども、「狙うのは一人だ」と。「ミスタと話し合え」と。「どうにかするのもお前の仕事だ」と。悔しいけどまったくもってその通りなので、相棒と一緒に暗殺を頑張ろうと思います。


『ううん、こんな感じでいいかな』


レンタカーを借り、ただ今ターゲットを尾行中で、ターゲットはモーテルで絶賛子作り中。それが終わるまで暇だから、今回のお仕事の報告書をまとめることにした。


「いや、ダメだろ。何だよ、これ」


せっかく書いた報告書を取り上げてダメ出しをしてきた。


『文句を言うならミスタが書いて』

「メンドクセーから絶対イヤ」

『じゃあ文句言わないで』

「だからってコレはないぜ〜〜」

『こういうの苦手なの』

「今までどうしてたわけ〜〜?」

『リーダーが代わりに書いてた』

「なるほど、道理で覚えないわけだ」


ミスタは報告書を私に渡すと、右手を伸ばして私が座っている助手席のヘッドレストを掴んだ。グイッと縮まる距離感に、魔法でもかけられたように全身がピシリと固まった。

これは何だ。何のご褒美だ。パニックになってる私の手からペンを取り上げて、報告書に何かを書き出した。


「今回だけ特別だぜ。ミスタ様が教えてやろう」


『ホント!?やった!ありがとう!』ってニコニコ笑顔で素直に言えればいいのだけど、突然のことに言えるはずもなく。しかもミスタの声が、匂いが近いっ。

今までにないくらいの距離感のせいで心臓がせわしく動いて、顔も熱いし、変な汗が出てくるし、息とか気になるし!でも、意外と肌がきめ細かくてキレイだなとか、やっぱりイイ匂いだなとか、もう少し近づいたらキス出来そうとか。至近距離じゃないと見れないモノをここぞとばかりに見つめてしまう。何かもう自分が気持ち悪い。


「聞いてんの〜〜?」


コクンコクンと2度頷く。ミスタは報告書を見てるから返事をしているって気づいてない。返事がないと思ったらしく、報告書に目を落としてたミスタがこちらに視線をやった。一瞬だけ目を見開いたけど、私から目をそらすことはなかった。

お互いの視線が混じり合う。ペンが落ちた音がした。そのペンを持っていた手が伸びてきて、私の右の頬を撫でた。

息が当たるこの距離も初めてだけど、さっきと違って妙に冷静な自分がいた。ミスタの顔が近づいてくる。それに合わせて瞼を閉じると、お互いの唇が触れ合った。

想像よりもずっと柔らかかった。啄むように動くそれは肉厚で、もっと触れていたいって思うほど、クセになりそうな感触。

だからっていうのも変だけど、ミスタの首に腕を回した。でもそのせいで正気を取り戻したらしく、バッ!と効果音がつきそうな勢いで離れた。運転席でハンドルに顔を埋めて「うわマジか」と呟いたあと、私をキッと睨んできた。


「能力使ってオレの唇を狙ったな」


誰もそんなセクハラなんてしてない。ミスタからしたんじゃん。って言いたいのを堪えて、苦笑いでコクンと頷いた。


「やっぱりな〜〜。お前ならいつかやりそうって思ってたわ」

『もっと早くにやれば良かった。時間の無駄だったわ。理性的に行動なんてしなきゃよかったと心底後悔よ』

「もうすんなよ」

『えー、気持ち良かったのに』


わざとらしく唇を尖らせてみたけど、ミスタは雑誌に目を落としていて、もう私を見ていなかった。何だかアホらしくなってやめた。

初めてのキスは、もっとフワフワでキューッて胸がときめくようなモノだと思ってたけど、色々とニガイ思い出になった。

でも、ミスタとキスをした。それは夢じゃない。まだこんなにも温もりも感触も残っている。セクハラ扱いされたけど、それでもいい。絶対に貰えないと思っていた温もりをくれたんだもの。これだけで十分だ。

それに、キスだけで騒ぐような年齢でもない。これは事故だ。何か魔が差したってだけで深い意味はこれっぽっちもない。「あー誰とでもいいからキスしてーなー」っていうミスタの発情に巻き込まれただけ。大丈夫、大丈夫。いつも通りにしていれば問題ない。それよりも今は仕事に集中。


『どうやって殺るの?』


冷静なフリをしてミスタに質問すると、ミスタは雑誌から目を離さずに口を開いた。


「オレが殺る。お前は車で待機」

『あのね、ミスタ。ターゲットを殺るのは私の仕事で、ミスタは援護を任されたと思うんだけど、違った?』

「状況が変われば作戦も変わるだろ」

『いつ状況が変わったの?』

「能力使ってオレにキスしただろ。心臓の負担になるからこれ以上はアウト〜」

『あ、あれは!』

「はい、作戦会議は終わり。ターゲットが来るまで……っと、噂をすればなんとやらだ。すぐに終わるから車で待ってろ」


反論する暇すらないまま、モーテルから出てきたターゲットを殺りにミスタは車から出て行った。


『キスはミスタからしたんじゃん!それを理由に私の仕事を奪うなんて!』


取り残された車内でブツブツ言っていると近くで銃撃音が聞こえた。計2発。ターゲットの分と一緒に居た女性の分だ。


「チョロイな〜〜」


今行ってもう帰ってきたミスタに『お疲れさま』と声をかける。「さっさと帰るぜ」と言って車を発進させた。

本当に呆気なく終わってしまった。彼の能力を考えれば確かに時間のかかる内容ではないのかも。VSゴルゴ、VS冴羽なら別だろうけど。やっぱりミスタも撃った弾丸に次の弾丸を当てるという神業が出来たりするんだろうか。もし出来るなら是非一度生で見てみたい。あれは神業だ。

いっそのこと自分で出来るようになるのも一つの手かもしれない。それにナイフより飛び道具の方が便利だ。先生ならここにいることだし、そうしてみようか。


『今度、射撃教えて』

「イヤ」

『何で』

「なんでも」

『残念、お仕事のスキルを上げたいのに』

「物騒なスキル上げんな。つーか、男でも見つけてさっさと引退しろ」

『なにそれさっさと死ねってこと?』

「何で死ぬんだよ」

『ギャングを抜けるイコール死だよ。自分で引き金を引くか、暗殺チームに殺されるか。元リーダーにそう教わったけど……知らないの?』

「知ってる」

『どうせあとに引けないんだからさ、お仕事スキル上げて生き残らなきゃね』

「そうだな」

『そうだよ』


薄暗い車内の中で、ミスタに教わった報告書の書き方を思い出して、報告書を書き上げていく。

ミスタとキスしたことを何度も思い出したけど、思い出したところで胸が痛むだけだったから、アレはもう忘れることにした。
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