キミの知らないウソ

□5話
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アイツにキスをした。どういう理由で作戦を変更しようか考えてるとき、近くにアイツの顔があって、茹でたタコみてーに真っ赤になってて可愛いって思ったら、何か勢いでヤってしまった。

何とか誤魔化してもキスをした事実は消えない。いっそのこと『責任とって!』とか言ってくれると、「じゃ、付き合っちゃう〜?」って言えるんだけど、アイツは泣きそうにしながらも淡々と仕事をしていた。こっちが泣きそうになった。

そうじゃなくて、本当はお前が好きで、可愛いからキスしたワケであって、だからそんな顔すんなって言いたいけど、今さら言えるワケもなく。これ以上何を言っても傷つけることに変わりないし、それを理由にして作戦を変更。昨日はあまり話すことなく解散した。

今日、アイツは来なかった。

どう考えてもオレのせいだ。自意識過剰ではなく、マジで泣きそうなの我慢してたの知ってるし。どうしよう。このままじゃマジで嫌われちまう。でも今さら何て言って謝ればいいんだ。

ってな感じで冷や汗ダラダラかいて、どうやって謝ろうか考えてると、スッゲー笑顔のブチャラティが、「何か知らないか?」と聞いてきた。


「知らね」


ナランチャ、フーゴ、アバッキオ、ブチャラティ、四人全員がオレをじっと見て、でも何を言うワケでもなく、オレを除け者にして談義を始めた。


「総じてクソ野郎が後先考えず勢いだけでキスをしたせいだと思ったんだが、どうやら違うらしいぞ」

「じゃあ、何だよ〜、総じてクソ野郎にキスされて誤魔化されてウレシイから今日来てないってことかよぉ〜、それって感性やばくな〜い?」

「もしそうなら恋愛について色々と教えた方がいいんじゃないんですか。このままだと、総じてクソ野郎にボロボロにされちゃいますよ」

「つーか、ブチャラティがアイツをもらってやれよ。もう不憫で見てらんねーぜ」


好き放題言いやがってぇって怒りたい気持ちは山々だが、名指しされていない&この談義に加わったら最期だ。一生懸命口を閉じることにしよう。


「オレじゃアイツを幸せに出来ない」

「何で〜?」

「アイツは、クソ野郎……好きな男と一緒に居たい、その為にアイツは全てを捨ててギャングになった。その覚悟を無駄にしたくないし、オレの出る幕じゃない。アイツの幸せを見守る側で十分だ」


やっぱりいつでもどこでもかっこいいブチャラティ様は、涼しい顔で紅茶を飲んでいる。ナランチャ、フーゴ、アバッキオのオレを見る目がより痛いものになった。「この差┐(´д`)┌」って言わんばかりの顔してオレを見てきやがる。

何なのこのチーム!そうやってオレのなけなしの自信っつーのを潰して楽しい!?けっこうすましてるけど心のなかで泣いてんだぞ!限界点越えてんだぞ!


「アイツを幸せに出来るのはクソ野郎しか居ないと、オレは思ってる」

「いやぁ〜ムリでしょ〜」

「ムリですね」

「ムリだな」

「わああ!」


もう澄まし面するゆとりもなくなって、テーブルに突っ伏してバンバンとテーブルを叩きながら喚いたら、四人にため息を吐かれた。


「一番泣きたいのはアイツだろうに」

「総じてクソ野郎のせいで、明日もアキが来なかったらどうしよ〜」

「それは心配ですね」

「あのマヌケな顔が無いと寂しいもんだな」


シーンと静まり返った。恐る恐る顔を上げると、四人がすっげージト目でオレを睨んでた。今この場にオレの居場所は無い。いっそのこと逃げてしまおうと立ち上がると、アバッキオに腕を掴まれた。


「お前がアイツに殺しをさせなかったことについては、褒めてやる」

「……アバッキオ……」

「オレもそれに関してはアバッキオと同じ意見だよ。やっぱり女の子だからね〜。荒っぽいことはヤってほしくない」

「……ナランチャ……」

「まったく、あの子に対して甘くなりましたね。あの幸せなマヌケ面がそうさせるんでしょうけど」

「……フーゴ……」

「ミスタ、お前に【仕事】だ。アイツの家に行き、今日の出来事を報告してこい」

「……ブチャラティ……」


何だかんだいってもこいつらは、仲間思いのイイやつらだ。だからこそ……とか思ってると、カチャッ、ガーーッ、と機械音が聞こえた。オレの真後ろにオレがいた。

ニセ者のオレは椅子に座った。何やら銃の手入れをしている模様。そんで一言、「へいへい」と、素っ気なく誰かに言った。


『今度一緒にドライブ行こうよ』

「何でオレがお前とドライブ行かないといけないわけ〜?」

『今日の罪滅ぼし?』

「つーか、さっさと帰れよ」

『………………うん、ばいばい』

「じゃーな」


これは昨日のアイツとの別れ際のシーンだ。任務が終わったあと、ここに戻ってきて、二人で茶を飲んで、何か言いたそうだったけど何も言わずにアイツは帰った。

しかしアバッキオのムーディ・ブルースの再生技術は何度見ても感心。よく出来てんなぁ。な〜んて呑気に思ったのは一瞬で、ニセ者のオレは次の瞬間、大声で叫んだ。


「うおおおお!アイツの唇すっげー柔らかかった!めっちゃイイ匂いした!何なのあの感触!オレの方がはまっちまう!もう1回したい!いや1回といわず何回もしたい!好きな女とキスするってこういうもんなの!?こんなにドキドキすんの!?オレって素人童貞みてーなもんだから全っ然分かんねえ!ああああ!!今日絶対風呂に入んねえ!顔も洗わねえ!」


悶絶するニセ者のオレをオレは止めることは出来ない。ただ、今のオレは恥ずかしいを飛び越えた境地にいる。だから真顔でニセ者のオレを黙って見ていた。そんなオレに四人は引いていた。


「どうしよっかなぁ〜、今日のキスでもオカズにして……じゃあねえだろおおお!!どうすんの、オレ!めっちゃ傷つけてんじゃん!アイツ泣きそうだったじゃん!ああもう!!こんなにもアキが大好きなのにーー!!」


ニセ者のオレは叫ぶだけ叫んで消えた。オレもニセ者のオレと同様、この場から消えようと思い、テーブル席を離れた。


「……その、……ご、ごめんよ、ミスタが素人童貞だったなんて知らなかったんだ」

「……その、……すみません。何と声を掛ければいいのか僕には分からない……」

「……すまねえ。ほんの悪ふざけのつもりが……お前を傷つけちまった」


ナランチャ、フーゴ、アバッキオのフォローは何のフォローにもなってないが、これもいつものこと。だからオレは黙って一歩を踏み出した。

もう、いいや。もういい。プライドも何もかも失った。これ以上、失うものなんてない。そうだろ、オレ。キレイな花でも買って、アイツに言ってやろうぜ。こんな野郎共じゃなく、アイツに、好きだって言っちまおうぜ。そして癒してもらおう。この傷ついた心を癒せるのはアキだけなんだから。

覚悟を決めたオレは、もう一歩を踏み出した。でも、何故かブチャラティが駆け寄ってきて、本当に言いにくそうに、さっきのオレをフォローしてくれた。


「……その、……風呂は入って行けよ」

「わああ!」


ブチャラティのフォローに大泣きしたオレは、猛ダッシュで家に帰って風呂に入り、花屋に直行した。

花屋のおっちゃんにも、「なんだい、彼女にプレゼントかい。アーハッハ、似合わねえ!」って爆笑されて、やっぱり告白すんの止めようかと、アイツの家に着くギリギリまでずっと悩んていた。
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