キミの知らないウソ

□8話
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ブチャラティさんが新しい仲間を連れてきた。名前はジョルノ・ジョバーナ。15歳でギャングになるなんてどんな人生だって気になったけど、私も人のことをいえないので気にしないことにした。

フーゴさん、ナランチャ君、アバッキオさんは新入り君を警戒している。ミスタも同じく。だから同じテーブル席に座っていても、何かを探り合うような会話ばかりで楽しくないし、かといって新入り君に話し掛けようもんなら四人に睨まれてしまう。

特にミスタなんて酷いもので、挨拶の時に話しただけで、「何で警戒しねーの?そんなんだからオレに抱かれるんだぜ」とか、ワケわかんないことを言い出す始末。しかもトイレに立った時に、わざわざトイレの中まで入ってきて!

新入り君がみんなから信頼されるまで待っていた方が身のためだ。自分本意で申し訳ないけど、もう二度とトイレであんなことされたくないんだもの。

そんな殺伐とした空気を気にしたらしく、リーダーであるブチャラティさんが、今日の予定をぶっ込んできた。


「今日は挨拶がてらジョルノと街へ行こうと思う。誰か一緒についてきてくれ」


フーゴさんもナランチャ君もアバッキオさんもミスタもそっぽ向いて知らん顔。リーダーからお言葉なのに!って言う前にブチャラティさんと目が合った。絶対に巻き込まれたくないからバッと逸らしたけど、すでに遅かった。


「アキが来い。帰りは夕方になる。今日は解散するなり好きにしていいぞ」


出来ることなら断りたいけど、リーダーから命令は絶対っていうか、ブチャラティさんの命令は絶対なので席を立つ。隣に座ってるミスタからスッゲー睨まれた。


「お前の帰りを楽しみにしてるぜ」

「仕事とプライベートを混合してるとかナイわ〜」

「本当に情けない男ですね」

「小さい男だな」

「うわあ!!」


壊れたミスタにあたふたしてたけど、「そんな野郎、放っておいても害はないだろ!さっさと行くぞ!」と、ブチャラティさんに怒られたので、心苦しいけどミスタを置いてレストランをあとにした。

でもやっぱり気になるから何度もレストランの方を振り向いて、でもスタスタといつもの倍のスピードで歩くブチャラティさんに置いて行かれそうだったから、急いで歩幅を合わせた。


『ブチャラティさん、どうしたの?』

「別に」


珍しく返事も素っ気ないし、新入り君も不思議そうにブチャラティさんと私を観察してるし。


「あ、そーいうことか」


何かに気づいた新入り君はこれまた物珍しそうにブチャラティさんを見て、「意外です」と一言。この言葉にブチャラティさんの歩みが止まった。でもすぐに歩き出して海の見える公園へ。

誰も居ない広場のベンチに腰掛けた。私も隣に座ったら、目の前に突っ立ってる新入り君に睨みをきかせた。


「お前に忠告だ。オレのプライベートに関して詮索するな」

「僕は何も言ってませんよ。あなたが勝手に僕の予想を肯定しただけです」

「生意気なことを」

「ところでブチャラティさん、この子を連れて来たってことは……」

「お前の夢に一番近い人物だ」


ブチャラティさんの一言でピンッと空気が張り詰めた。私といえば、さっきからの空気についていけてないので、ケンカにならないかオロオロするばっかり。

二人の顔を交互に見て苦笑い。でも新入り君が、本当に真剣に、こちらがかしこまってしまうほどの圧で、「僕の夢はギャングスターになることです。あなたが知ってる全てを教えて下さい」と言ってきた。

ギャングスターって、ボスの玉座を狙ってんの!?ってストレートに聞きたいけど、その言葉を口に出す危険性を知ってるから、ブチャラティさんに、『マジ?』って聞いた。何も言わずに頷いた辺りでお察しだ。

出来れば関わりたくない。ボスの玉座を狙ってるってことは、パッショーネを裏切るってことだし、何よりもそんなことがバレたら死が待っている。

死ぬことは怖くない。そんなの今さらだ。あの時、私は死んだ。それにこれからの人生を覚悟してギャングになったんだもの。今さらなんだ。この恐怖はまた別のもの。


「あの時誓ったお前の忠誠をオレは信じている。もちろん何かあれば、お前だけは助けるつもりだ」


ブチャラティさんが信頼した人に悪い人はいない。新入り君の能力やらを買ってるからブチャラティさんも協力しているんだと思う。だからこそ私も協力してあげたいんだけど、残念なことに、ボスについても、ボスの側近が誰かについても、何も知らない。

せっかく恩を返せると思ったのに、何も出来なかった。ブチャラティさんが頼ってきてくれたのに、何も出来なかった。役に立てなかった、それが一番怖かった。


『あの、ブチャラティさん』

「いいよ、大丈夫だ。知らないんだろ?」

『……うん、……ごめんなさい』

「こちらこそ困らせたみたいで悪かった」

『あ!でも、前のチームにいたリーダーと先輩なら……』

「……名前は?」


本当は言っちゃいけない名前だ。絶対に誰にも話すなと先輩に口止めされてる。もし誰かに話したら裏切り者の烙印を押して檻に入れて飼い殺してやると。でも、私の忠誠心は、ボスでもなく、先輩でもなく、元リーダーでもない、ブチャラティさんに捧げた。

大丈夫、何も間違ってない。そう覚悟して口を開いたけど、「待って下さい」と新入り君に止められた。


「名前を知ったとして、その人を調べようがありません。ボスに繋がる情報は遮断されているにも関わらず、この子はそれを知っている。本当かどうかも疑わしい名前を調べる、その行為が罠かもしれません」

「確かにジョルノの言う通りだな。ボスについての情報は誰も知らない。あの人なら知っているかもという情報ですら消されている。にも関わらず、お前は……」

「でも僕は、ラッキーなことに、キーパーソンのいるチームに入ったんですね」

「そういうことだな」


いやどういうこと!?ってツッコミたいけど、何か話は終わったみたいなので、黙ることにした。色々と覚悟してたけど首が繋がった気分だ。帰ったら命再び祝賀会でも開こうかしら。


「それにしても、まだ若いのにスゴい人なんですね」

「ああ、コイツの意地の強さと忍耐力はピカ一だ。相当な頑固者、負けず嫌い。気が強いばっかりでオレも骨が折れるよ」

『そんなふうに思ってたの!?』

「いいや、お前は努力家だ。ギャングになる覚悟と勇気、それに伴う努力、オレはお前を尊敬してる」

「へえ、何でギャングに?」

「好きな男を追ってきた」

「わお、ストーカーですね」

『愛の力と言ってくんない!?』

「ちなみに相手はミスタ。嫉妬には気をつけろよ、アイツ意外と小さい男だぜ」

「へぇ、小さい男のどこが良かったんです?」

『うっさいよ!!お黙りなさい、新入り君!!』

「怒っちゃいましたね」

「図星だからだろ」


最近ミスタ潰しでも流行ってんの!?って言いたくなるくらい、酷い扱いだ。でも何が起きても、例え道を踏み外しても、最低なクソ野郎に成り下がっても、私だけはミスタの味方だ。

しかし、ブチャラティさんでこの扱いだもの、残してきたミスタが心配だ。きっと今頃あの三人にいじめられて、「うわあ!!」って、柄にもなく泣いてるに違いない。


『もう用事終わったんでしょ?レストランに戻っていい?』

「ああ、構わない」

『じゃ、新入り君とデート楽しんで!もう頬っぺた舐めちゃダメだよ!』

「……」

「……」

「……忘れてくれ」

「……何のことですか」


微妙な空気になった二人を置いて立ち去ろうとしたけど、花束のお礼を言ってないことに気づいて、ブチャラティに『お花ありがとう!』って言った。

でも返ってきた返事は予想していなかったもので、それを想像すると、1秒でも早くミスタに会いたくなって、もっと好きになっちゃって、レストランまでの道のりを全力で走った。
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