キミの知らないウソ

□10話
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カーテンから差し込む光が眩しくて目が覚めた。その光から逃げるように寝返りを打つ。布団の隙間から冷たい空気が入ってきた。3月といえどまだ肌寒くて、ブルッと体が震えた。

あったまろうとミスタにすり寄ろうとしたけどやっぱりやめて、ミスタの可愛い寝顔をじっと見つめた。

昨日と同じ。目が覚めたら好きな人が隣に寝ている。それがどれだけ幸せなことなのか、ミスタが教えてくれた。

ものすごく大袈裟かもしれないけど、寝起きから好きな人が居る空間にいると、やっぱりそうしか思えなくて、寝たフリしているミスタにチュッとキスをした。


「……こ〜ら〜、寝起きっからなに襲ってんだ〜」

『おはよう』


やっぱり起きてたミスタにクスクス笑ってもう一度キスをした。


「おう、おはよ」


ふわあっと大きい欠伸をするミスタも可愛くて、緩む口元をそのままにして、今度こそミスタにすり寄った。

当たり前のように腕枕をして、背中に腕を回してくれる。ポンポンと子供をあやすように叩くそれにひどく安心して、私も欠伸をした。


「何時?」

『7時』

「1発イッとく〜〜?」

『ほらね、やっぱりミスタは発情期なんだよ。出したくてたまらない病気。本当は誰でもいいんじゃないの〜』

「こらこら〜、可愛くないことを言うもんじゃあないぞ〜」

『違うの?』

「違うって言われたいワケ〜?」

『もう!またそうやって!』

「お前だけですよ〜、だからゴキゲンなおしましょ〜」


またもテキトーにあしらうミスタにむくれたけど、昨日よりもイイ笑顔を向けてくれるから、それに釣られて私も笑った。

こんなふうに笑うなんて知らなかった。やっぱり昨日よりも今日って感じで、ミスタのことを知っていく。それがとても幸せでくすぐったい。

もっと私の知らないミスタを知りたくなって、『いっぱい教えてほしい』って言ったら、「もう1発イッとく〜〜?」と検討違いなことを言われたので、バラの片付けをしようと起き上がった。

一応昨日の夜に片付けた。花を一ヶ所に集めてシーツを替えた程度だけど。まだ生けれそうなやつとそうじゃないやつと選別をしてる途中で、また1発イッちゃって、結局そのままズルズル寝てしまった。


『……やっぱり残念だよ、せっかくのお花なのに』


散りに散りまくったバラの花びらが勿体ないと少し嘆く私を見て、ミスタは花びらを集めてバスタブにそれを投げ込んだ。


「大丈夫そうなやつは生けとけよ。そんで明日もこうやって朝から贅沢なバラ風呂に入ろうぜ」

『……あした?』

「おう、明日。一緒に居れる時は一緒に居たいとオレは思ってるけど、お前は?」

『うん、うん!明日!明日の朝も一緒に居る!』


【明日】、それがとても嬉しくて、ミスタの頬っぺたにキスをした。それから真っ赤な花びら浮くバスタブに浸かって、他愛のない話をして。


「今日の夜は一緒に映画でも……そういやテレビが無かったな。買っちゃおうぜ」

『それはダメ』

「んじゃ、オレがほしいからオレが買う。殺風景な家にオレが彩りを与えてやろう」

『いいの、そーいうのいらないの!お仕事の邪魔になっちゃう!』

「そうと決まれば今日は電気屋行こうぜ」

『人の話聞いてる!?』

「どこのメーカーにしよっかなぁ。やっぱりお高いけど日本製か、安いテレビか、悩むよなぁ」

『話聞いてよ!』

「聞いてますよ〜、今から1発イッときたいんだろ〜?」

『そんなの言ってないんだけど!?』

「はい、ここに座りましょう」


ミスタの足の間に座ると後ろから引っ付かれた。やっぱり裸同士の触れ合いは慣れない。というか、腰に当たるモノが気になって仕方がない。何か気のせいじゃなければ押し付けてきてる気もする。

これに反応しちゃったら、それこそ強引な感じで1発イッとくコースだし、ここは気のせいだと思うことにして、ミスタの発情を静めよう。


『あ、あの!し、新入り君!あの子けっこうイイ子だったよ!』

「ふーん、話したのか?」

『うん!』

「何の話するワケ〜?」


あの子ってばギャングスター目指してるから極秘情報を教えてくれだって!勇気あるよね〜ってことを言えるハズもなく、かといって嘘をつこうにも頭の回転が間に合わず、ほんの数秒の間を空けて返事をしてしまった。


『……井戸端会議〜』


仮にもギャングのミスタがそれを見逃すハズもなく、何かを疑う様子で、「ほ〜う」と言った。額から汗がタラリと垂れた。


「まっ、別にいいんだけどね〜、オレにも話せない仕事もあるだろうし〜、お前の方がリーダーから手厚い信頼を得てるし〜、でも仕事とプライベートは、わきまえてるつもりだぜ」


その割にはすっごいトゲのある言い方してくるじゃんって言ってやりたいけど、ここは早急に話の話題を変える必要がある。苦笑いで違う話題を振ろうとしたら、ミスタが耳たぶをガブリと噛んできた。

『何すんの!?』って怒って振り返ってもなに食わぬ顔で、今度は頬っぺたにキスをしてきた。本当に一体何なんだ。


「あんまりよぉ、危ねぇーことに首突っ込むなよ。いや、マジで心配して言ってんのよ、オレは」

『ああ、そういうね。だからって噛んでいい理由にはなりません!』

「もうお前を食べたくてよぉ、我慢出来ねーの。お預け終わりにしてそろそろ1発イッてもいい?」

『残念、タイムアップ。支度しないと遅刻しちゃう。でも、噛みグセがついたミスタにはちょうどいいお仕置だね』

「ええ、そうくるのかよぉ、じゃあもう二度と噛んだりしねーよぉ。だからさ〜1発イッとこうぜ?大丈夫大丈夫、すぐ終わるから」

『また、すぐに終わるの?』

「またって言うな!!」


出来ることならこのまま二人で1発イッちゃって、他愛のない話をしながらボケッとしていたいけど、そうもいかないのが現実だ。

お風呂での温もりが冷めないまま、いつもの道を二人で歩いて、いつものレストランへ向かった。


*****


『おはよう!』

「う〜っす」


ナランチャ君とフーゴさんとアバッキオさんは、私とミスタを見るなりニヤァってしたけど、気にしないで席についた。ジョルノ君とブチャラティさんはこっちに目もくれず新聞を読んでいる。

こういう恋愛事情はリーダーに報告した方がいいの?それとも秘密?言っても気を使わせるだけかもだし、しばらく様子を見てた方がいいのかも。それに、仕事とプライベートを混同しちゃダメ。オンとオフの切り替えは大事。

そう言い聞かせてレストランのメニュー表を開くと、隣に座ったミスタが椅子を寄せて腰を抱いてきた。それはもう恋人同士の距離感ってな具合に、ぴったりと。

みんなの前で、ましてやリーダーの前で何してんの!?って言いたいけども、あまりにも突然で、あまりにも自然に引っ付かれたから、大パニック。こっちはオロオロしてるのにミスタは平然と会話を投げ掛けてくる。


「お前何にすんの?やっぱりアップルジュース?」

『え、え!?う、うん!』

「オレ、ケーキ食いてーんだけどよぉ、イチゴとチョコのやつ。でも一人で2個は多いだろ〜?」

『そ、そうだね!どちらか一つでいいかもね!』

「だからさぁ、はんぶんこしよ〜ぜ。でもお前に食わせたら太っちゃうかな〜、オレはもう少しぽっちゃりの方が好きなんだけどね〜」

『……アハハ……』

「でも可愛いもんな〜お前って。オレしか知らないお前がいると思うとホンット心苦しいぜ〜」

『…………』

「あーあ、早く夜になんねーかなぁ、こんなにも待ち遠しいとかヤバくな〜い、ゾッコンってやつ〜?」


人の気も知らないで一人で会話を続けるミスタを制したのは、ブチャラティさんだった。


「当て付けか。小さい男だな」


ポツリと言った言葉にミスタが反応する前に、ブチャラティさんはケータイ片手に席を外した。そして、ナランチャ君、フーゴさん、アバッキオさん、ジョルノ君が次々にこう言った。


「本当に呆れるほど小さいよね〜」

「小さすぎですね」

「小せえ」

「話に聞いていた以上の小ささですね」

「わああ!」

『ああ、ミスタ!』


またミスタ潰しが始まってしまった。どう考えても今回はミスタが悪いけど、イジケてテーブルに突っ伏したミスタを抱きしめてたら、ブチャラティさんがケータイ片手に戻ってきた。


「そんな小さい男は放っておけ!みんな準備しろ!行くぞ!」


何やら不機嫌な様子だから、ふざけるのはここまでにして、脳内をお仕事モードに切り替えた。まだオンオフを調整するのは難しいけど、真面目にお仕事をしようと思います。
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