キミの知らないウソ

□17話
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理由は不純だけど、私なりに覚悟を決めてギャングになった。男が中心の世界、バカにされることもあった。セクハラだってあったし、そーいう任務だって回されたりすることもあった。

でも【女】って枠に囚われないよう、私なりに努力した。【女】を理由に任務遂行を断ることも、【女】を理由に逃げることもしないで、ここまできたのだ。

分かってくれていると思っていた。ブチャラティさんはそこを分かった上で、私を評価してくれていると、そう思ってたのに!

結局ブチャラティさんも同じ。【女】だからと、私の嫌いな言葉を投げつけた。しかもそれだけじゃ止まらず、追加で1つ。


「評価を落としてるのはお前自身だ。オレに否定されたくなかったら無傷で帰ってこい。話は終わりだ。……いいか、これはリーダーとして命令してるんだぜ」


堪忍袋がブッツンしたのは私の方だ。ピクピクつり上がる口元をそのままに、『了解しました』と返事をして、亀の外に出た。

ついさっき移動手段に使ってたトラックが運悪く事故って、近くにあったパーキングで代わりの乗り物を探してる。早い話、代わりの車を盗んでいる。

それを手伝ってたんだけど、お手洗いに行きたくなったので、パーキング内に小さいお店に行こうと、歩みを進めると、慌てた様子のミスタが走ってきた。


「オイコラ、どこ行くんだ」

『トイレ』

「あのな、オレたちは追われてんだぜ。勝手な行動は控えろよ」

『じゃあ、今からミスタが護衛役ね』

「まだゴキゲンナナメなワケ〜?」

『うるさいで〜す』


八つ当りっていう自覚はあるけど、どうしても腹の虫が治まらない。だからミスタに目もくれず、早歩きで建物へ。公衆トイレなんて便利なモノは無いから、従業員用の扉から勝手に侵入して、トイレに入って用を済ませる。こういうのは堂々としてればバレないものだ。

ふぅとスッキリした所でトイレの鍵を開けると、待ってましたとばかりに、ミスタが中に入ってきた。

驚く私をよそに、ミスタは私を便座に座らせて、何故か濡れたハンカチで首をゴシゴシと擦ってきた。何なんだ。


「あんまり言いたくねーけどよぉ、……お前は後方に回れ」


後方に回れ、つまり、もうでしゃばるなってことだ。何なの、ブチャラティさんの次はミスタって。確かに恋愛脳で注意力は散漫状態だったけど、氷のおかげでギリギリ死ななかったんだ。結果オーライ。心配してくれてるのは分かるけど、ギャングよ、これでも!女の子扱いされる為にギャングになったワケじゃあない!


『ミスタまでそう言うんだね』

「お前女で弱いんだしさ、オレたちに任せてりゃいいんだって」

『……なにそれ、女で弱いから邪魔だってこと?』

「いや、そうじゃねーよ。なんつーか、オレたちだって男なんだぜ。やっぱり女を守ってこそ男が上がるーって、何か自然とそう思っちまうんだよ」

『頼んでないし守れてないじゃん』

「その通りだけどよぉ、可愛くねーことを言うもんじゃねーよ」


バチンとデコピンをされてしまった。おでこを押さえて痛みに顔をしかめる。やってくれたミスタをキッと睨んだら、キッと睨み返されてしまった。


「心配かけさせんなって、ガキじゃねーんだから分かるだろ」


ミスタの言わんことも分かる。私がミスタの立場なら心配で心配で……というか、すでに2回も怪我してるミスタが心配だもの。だからこそ夢が出来た。

それが叶うまでは死なないことを信じて待つことしか出来ないけど、でもミスタは私の夢を知らないから、そこに温度差すら感じる。

そりゃそうだ。つい先日付き合ったばかりだもの。知るわけないんだ。私の想いもプライドも、知らなくて当然なんだ。


『気をつける』


全然納得出来てないけど、絞り出せた返事がそれだけだった。ミスタはため息を吐いて、首の皮を摘まんでギリリとつねってきたではないか!


『痛い!痛い痛い!』

「どこぞの誰かにキスマーク付けられてんぞ」

『へ?』

「リーダーにグチグチ言われたくなかったら、そういう隙を見せんな。だから【女】って言われるんだぜ」

『……』

「さっさと戻るぞ」


ミスタは私の手を取って無理矢理歩き始めた。もう何も言えなかった。反抗する心をポッキリ折られた私は、黙ってミスタについていく。

みんなの所に戻ると、みんなと外れた所にジョルノ君がいた。何か様子がおかしいので、ミスタの手を振りほどいてジョルノ君がいる方へ向かった。


『どうしたの?』

「……ちょっと、敵が現れまして。あ、もう大丈夫です。殺ったので安心して下さい」


なに食わぬ顔でとんでもないことを教えてくれたジョルノ君。また名誉挽回のチャンスを奪われてしまったことに、はぁっとため息を吐いて、そばにあった塀に座ると、ジョルノ君も隣に座ってきた。


「あなたはあなたの出来ることをやっている。それでいいと思います」

『女は危ないから後方に回れ〜とか言わないんだ?』

「何で言う必要があるんですか?あなたは覚悟を決めてギャングになった。その覚悟と勇気があれば、誰がなんと言おうと立ち向かえるはずです」

『……何で』


あの人に一番言われたかった言葉を、ジョルノ君が口にするなんて皮肉もいいところだ。でも全くその通りだから、ぐうの音も出ないぜ。


『私の夢のためだもんね!よし!』


気合いを入れる為に自分の頬をバチンと叩いた。


『落ち込む前に手柄を立てる!次は必ず無傷で帰る!失った信頼は絶対に取り戻してみせる!……やることいっぱいだけど、とにかく頑張る!』

「じゃあ、あなたの夢を半分持たせて下さい」


ジョルノ君の手が私の手に重なった。本当にこの新入りは生意気だ。あの人に言われたい言葉を平気で言ってくる。ジンッと沁みることが悔しくて、思いきり頭突きしてやった。しかしこれは私にも甚大なダメージが!


「い、石頭ッ」

『そっちこそ!』

「こういう時は、女らしくすべきです!」

『なにそれポッと赤くしろってこと?ムリだよ、私の赤みはミスタの為にあるの!』

「僕の為にあっても別にいいでしょう!」

『よくないわよ!』


二人でおでこを押さえて唸る。よく分かんないけど何か笑えてきて、ケラケラ笑い声を上げた。笑うだけ笑うと妙にスッキリ。やることが出来た私は立ち上がった。

「ブチャラティは亀の中です」と、行動を察してくれたジョルノ君にお礼を言って亀の中へ。ソファーに座ってるブチャラティさんの前に行き、ガバリと頭を下げた。これはケジメだ。

あの言葉に納得したわけじゃない。でも言われるようなミスをしたのは私の失態。そこに気づけた。だからもう二度と失態は晒さない。それのケジメ。


『生意気な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした!』

「……もういい、頭を上げろ」

『はい』


言われた通りに頭を上げると、さっきと打って変わって微笑んでるブチャラティさんと目があった。

リーダーに対してあんな生意気な態度をとったのに、それを許してくれる辺り、やっぱり素敵なリーダーだ。この人についてきて本当によかった!


「罰として一週間オレの命令を厳守。その生意気な精神に、上下関係ってやつをたっぷりと教え込んでやる」


やっぱり口喧しいリーダーはイヤかも。


「まず最初の命令は、オレに気を使って言いたいことを我慢してるのに、どっかの誰かさんに八つ当たりされたクソ野郎が居るんだが、そいつの機嫌をとってきてくれないか。平気そうにしてるが、誰よりもお前を心配している」

『……ブチャラティさん……』

「行ってこい」

『はい!』


恋愛にハマるなとか言ってたのに、チャンスを与えてくるの、どうかと思う。でもやっぱりブチャラティさんのそういうところも素敵だ。

尊敬の意味を込めて、もう一度ブチャラティさんにお辞儀をして、亀から出ていく。ジョルノ君がまだそこに居て、やっぱり行動を察してくれた。


「彼ならあっちです」


ジョルノ君が指差した方を見ると、車の影に隠れてるミスタがいた。本当にたまたまバチッと目が合うと、ミスタは、「よっこいしょ」と、怠そうに立ち上がった。

近くにいたナランチャ君、フーゴさん、アバッキオさんに何か言われたらしく、「うっせーよ!」と大声を出して一掃。ムスッとした表情のまま、こちらに向かって歩いてきた。

私もすぐに駆け寄って、『ごめんね!』と謝ったけど、それ以上の言葉は紡げなかった。ミスタは私を抱えて、何故かパーキング内にある建物へと歩きだしたのだ。


『ミスタ?』

「便所」

『えっと』

「……」


それ以上何も言うなって、雰囲気で分かるから、黙った。さっきと全然違うミスタの雰囲気に飲まれたんだ。

ミスタはさっきと同じトイレに入り、鍵を閉めて、私を便座におろした。そして目の前にしゃがんでじっと見てくる。その目とギスギスした空気がイヤで口を開こうとしたら、先にミスタが口を開いた。


「別に怒っちゃねーよ。キスマーク付けられようが、ブチャラティやジョルノに役目取られようが、その穴埋めでお前が来ようが、オレはそんくれーじゃ怒ったりしねぇ」

『……ミスタ……?』


ほんの数十分前とは全然違うミスタの空気にゴクンと喉を鳴らした。ミスタは顔に手を添えると、その喉にガブリと食い付いてきた。

歯を立てるんじゃなくて、唇で肉を挟んでジュッと何度も吸い上げて。甘い痛みがゾクリときて身体をブルッと震わせた。


「……平気なふりしてるクソ野郎のゴキゲンとってくれんだろ?じゃあ、今ここでヤらせてくれよ」

『ちょっと……ッ』

「まっ、こーいうのを八つ当たりともいうけどね〜」

『……怒ってるの……?』

「ぜ〜んぜん、怒ってねーよ。ほんのちょびっと腹立つだけ〜」

『ウソつき!怒ってるんじゃん!』


このままミスタの好きにさせちゃダメって分かる。早く戻って任務を……って、分かってるのに、分からないふりをして、八つ当たりってやつを受け入れた。
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