キミの知らないウソ

□18話
1ページ/1ページ



「今のこの状況を理解してないのは、ミスタだけですね」

「猿以下っていうんですよ、あなたのような行動を」


パーキングの便所で八つ当たり。スッキリしたものの、ちょっぴり時間を食っちまったせいで出発が遅れてしまった。

盗んだ車に乗り込んで(ボスの娘、ブチャラティ、ナランチャ、アバッキオ、アキは亀の中)、運転してるジョルノと助手席に亀を持って座ってるフーゴにイヤミを言われてる。

どう考えても時と場所を考えずに盛っちまったオレが悪いし、素直に二人のイヤミを聞いてる。まっ、今のオレはゴキゲンだから〜って理由もあるけど。

かわいかったなぁ、声を我慢してる姿も吐息も、ぜ〜んぶ抱きしめてやりてーって思うくれー、かわいかった。さっきヤったばっかだっつーのに、もう恋しいとか!マジでゾッコンだぜ。


「はぁ、早く任務終わんねーかな」


そしたらアキと落ち着いてセックス出来るのにって思ってるオレに、フーゴが舌打ちをした。でも黙って窓の外の景色を眺めてる。代わりにジョルノが話し出した。


「あのですね、ミスタ。あなたは勘違いをしています。この任務で終わりじゃあないんです。まだ、彼女の夢は終わらないんです」

「あいつの夢?なにそれ」

「まだ話し合ってなかったんですか?」

「やめろ、ジョルノ。それ以上は二人の問題だ」

「しかし、誰かが間に入らないと……二人はこのままです」

「それならそれでいい。二人には二人のペースがある。僕たちは本題に触れずにミスタ潰しをしていれば問題ないんだ」

「そう、ですね」

「いや全然よくないんだけど!?何でそんなにもオレを潰そうとするわけ!?いや〜んな感じ!」


ズイッと運転席と助手席の間から身を出して二人に言っても、深いため息を吐かれて終わり。本当に、いや〜んな感じだぜ。


「……おっ!オレの天使は何してるのかな〜〜」


フーゴが持ってる亀の鍵を覗き込むと、ブチャラティと真剣にあっち向いてほいをしていた。アキが天井を指差して、その動きにつられたブチャラティが上を見上げた。

絶対に見てはいけないものを見た気がしたので、亀から目をそらして、後部座席に深く腰掛けた。

良かった、亀の中じゃなくて。あんな所に居たら絶対に爆笑する。そんで二人の餌食になっちまう。あーあ、相変わらず仲がよろしくて……でも、あいつはオレのもの。

プライド捨てて手に入れたんだ。役目を取られようが、新しいライバルが出現しようが、誰にも渡さねぇ。うわっ、どんだけゾッコンなんだよ〜、自分で自分の恋心に引いちまうぜ〜。


『ねえ!あっち向いてほい、しよう!』


オレの天使のカワイイ声が聞こえてきたから視線をやると、亀から頭を出してた。


「気持ち悪ッ」


生首に見えるそれに引いたフーゴは、亀をオレに放り投げてきた。亀から生えた生首天使を優しくキャッチして、頭を持って引っ張る。どうせなら隣に来てほしいし、オレが一緒に遊びてーし。

でも、引っ張っても亀から出てこない。カワイイ生首天使は、『痛い!痛い!』と喚いてる。亀の鍵を覗くと、ブチャラティのスタンドがアキの足を引っ張って邪魔してた。

ブチャラティ本人はシラッとした顔でソファーに座ってるっつーのに。ほんとたまにガキくせーよな。でもオレの天使は返してもらうぜ、ブチャラティ!


「うおおおお!!」


絶対に負けてたまるもんか!と、気合いを入れて引っ張った。


『ち、ちぎれる!首が、イッちゃう!』

「首がちぎれてもジョルノが居るぜ!」

「さすがにそれは修復不可能ですよ。遊ぶのは構いませんが、治せる範囲にして下さいね」


ちっともビクともしねーから、けっこうマジで引っ張った。アキの首からゴキッて音が聞こえたので、ピタっと引っ張るのを止めた。


『まだ引っ張ってるの、誰!?そんなに私を殺したいの!?』


オレが引っ張るのを止めたって知らねぇブチャラティのスタンドに、「プー」ってバカにして笑ってやった。でもブチャラティは涼しい顔して一言。


「アバッキオのスタンドが暴走しているみたいだ」


やっぱり一筋縄ではいかねーなって思った。


『え、え!?アバッキオさん!?』

「ああ!?……あー……、そ、そうだ、オレだ、疲れてんだよ。ちょっと寝かせてもらう。あとは頼んだぜ」

『そっか、じゃあ仕方ないね!』


何も仕方ないことないし、犯人ブチャラティだし、これ見よがしにアバッキオの野郎は逃げたし、つーかオレが諦めるまで絶対に引かないパターンじゃね?ってことに気づいたから、生首天使を押し込む形で、潔く亀の中に入った。

椅子の上に立ってたアキはバランスを崩して、後ろに倒れてる。ヤッベー!ケガする!って、手を伸ばして腕を掴む。掴んだ感触はあったけど、それを引き寄せる前に床とぶつかってしまった。


「イテテ」


痛むところを擦りながら起き上がると、アキを抱き抱えるようにして倒れてるブチャラティの姿があった。『ほえ〜』と呆けてるアキはいつものこととして、またも役目を奪われたオレは「グスン」と涙を濡らした。


「大丈夫か」

『うん、ありがとう』

「気をつけろ。まだケガが治ったわけじゃないんだ」


ブチャラティはアキを横抱きにしてソファーまで運んだ。ナランチャ、アバッキオ、ボスの娘が、「この差」と言わんばかりの視線を寄越してくる。

そんな目で見られても、オレだってスマートにやりてーのよ。何故か毎回うまくいかねーけど。でも今のオレはメンタル強くなってっから、絶対に引かねえ!


「そうだぜ〜、お前抜けてっからマジで心配よ〜、彼氏のオレとしては!」


アキの隣にドスッと座る。その権利があるオレは、堂々と腰に腕を回してグイッと引き寄せた。困ってるアキに気づかないフリをして、ピッタリ密着。これぞ彼氏であるオレの権利だ。

フフンと鼻で笑いながらブチャラティに視線をやると、スッゲー爽やかな笑顔をしていた。


「こらこら、ミスタ。さっきの説教じゃあ伝わらなかったのか?任務中は自重しろ、そう言ったんだが」

「ええ〜、そうだったっけ〜?」

「あはは、まだ老化してるのか?」

「そうなんだよ〜、ちょっと足腰疲れててさぁ、……あ!そういうことじゃあねーよ、この疲れはアレなのよ、アレ」

「そうか、アレか。なら仕方ないな」

「だろ?」


真顔に戻ったブチャラティ。これ以上このネタは掘り下げないと確信したオレは、ドヤッとナランチャを見た。ナランチャは何も言わずに亀の外に出た。「そんな!裏切りよ!」と、ボスの娘が声を荒らげたけど、無言で立ち上がって、クローゼットに引きこもった。

この亀の部屋には、寝たフリ続行中のアバッキオだけ。ここぞとばかりにチクチク説教してくるんじゃねーかなぁって思って構えてたけど、オレの予想は大ハズレ。ブチャラティは穏やかに笑ってた。


「独占欲むき出しになるほど、素直になったんだな」

「……ブチャラティ」

「良かったよ、本当に。……コイツには幸せになってほしいからな」


アキの頭をグリングリンと回す勢いで撫で回してる。その表情は、まるで愛する人を……、くそ!これだからブチャラティには敵わないんだぜ!コイツのとる行動全て、負けた!って思わされる。惨めったらありゃしねぇ。いかに自分が小せぇかが浮き彫りになっちまう。

でも、だからこそ、ブチャラティを尊敬してんのも、本当だ。負けたくねえって思える、……負けてばっかだけど。


「幸せにする自信なんてこれっぽっちも無いけどな」

「そう気負うな。お前が居ればコイツは幸せだ。それだけでいいんだ。アキ、そうだろ?」

『うん!』

「だからミスタ、お前はアキの想いを大切にしてやれ。きっとそれが幸せになる法則というやつだ」

「幸せになる法則、ねぇ」


そんなもん、それこそジィさんバァさんになっても分からねぇ法則だ。相手を想うその想いを大切にする。それが出来たら苦労しねぇっつーか、理想論過ぎるっつーか。

いや、やるよ?そりゃその通りだし、そうなるように努力はするつもり。まぁ小難しいこと考えんの好きじゃねーし、オレはハッピーに生きれたらそれでいいや。


「へいへーい、頑張りま〜す」

「なんだその気の抜けた返事は。もっと将来のことを考えろ。アキばかりに負担を背負わせてどうする」

『その件は、ミスタに関係ないの!』

「まだ話してないのか!?」

『昨日の今日だよ!?この任務が終わったら話すよ。落ち着いてゆっくり話し合いたいし』

「……話し合う気はあるんだな?」

『あるよ』

「じゃあ、いい。話し合いの結果を楽しみにしておく」

『ダメだったらどうしよう』

「その時はジョルノに鞍替えしろ」

『やだよ、アイツ生意気だもん!』

「でも、大きいぞ、いろいろと」

『……いや〜んな感じ!』


いやいや、彼氏のオレを差し置いて何の話してんの!?特にジョルノとか意味ありげでイヤ〜んな感じ!ってツッコミを入れる暇なく二人の会話は続けられていく。

割り込むのもなんだし、つーかテンポ良い会話が腹立つというか、さっきの仕返しされてんじゃね?って思ったけど、オレしか知らねえこともあるって思うだけで、心が救われるってもんよ。あーあ、オレってば大人で心ひろ〜い!

そろそろ見張りに戻ろうと思い、黙って立ち上がると、アキが服を摘まんで引っ張ってきた。今さら何の用ですか〜?って意味を込めた笑顔で見下ろす。めっちゃオロオロしててマジで可愛くて何かもうギューっと抱きしめたくなった感情をグッと堪えて、「どした〜?」と声をかけた。


『……あ、あの!バラをくれたじゃない?あれって……100本だったり……?』

「ん?ああ、100本だぜ」


オレの返事に、ブチャラティとアバッキオが「ぶッくッ」と吹いた。聞き間違いじゃあなければクローゼットと亀の外からも笑った声が聞こえた。

ところ構わず正直な自分に嫌気と羞恥を覚えたけど、ムーディブルースでのあの時の方がもっとずっとアレだったから、今回のオレは無傷で済んだ。いや、そんなことよりもアキだ。


「バラがどしたの?」

『えっとね、……今は話せないけど、もし話し合いで……その……応援してくれるなら、……その時は8本のバラが欲しいなぁって……思っちゃったり?』

「8本?別にいいけどよ、8本でいいの?何なら追加で100本でも1000本でもいいんだぜ」

『8本がいいの!約束だよ!?』

「へーへー、分かりました。んじゃ、オレは見張りに戻るぜ〜」


手をヒラヒラと振って亀の外に出る。後部座席に出たオレを、ナランチャとフーゴは指差して大爆笑。


「あははは!ミスタにバラってマジで似合わねえ!似合わなすぎてカワイソ〜!」

「身を呈したギャクですね!いいと思います!そのギャクであの子が笑顔に……あははは!」


遠慮ねぇ笑いに頬をひきつらせたけど、何か今さら&いつものオレ潰しよりマシだから、二人を知らん顔して銃の手入れをすることに。ただジョルノが、「これ絶対に分かってませんね」とボソッと呟いてたのが気になった。

「何が?」って質問しようとしたけど、ジョルノに対するイヤ〜んな感じが取れなくて、やっぱり知らん顔して銃の手入れを続けた。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ