キミの知らないウソ
□19話
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ヴェネツィアまでもうすぐって時にボスからの司令が届いた。次の司令は、サンタ・ルチア駅前の像の中にあるOA‐DISCを手に入れろとのこと。
そこに車で行く方法は、一本の道路というか橋を渡って行く方法のみ。橋を渡った近くに駅前の広場、今回の目的地である像がある。
安全を考慮して、ジョルノ君とミスタが駅前のDISCを取りに行き、残りのメンバーはボートに乗って駅へと行くことになった。
ボートの見張りは、ナランチャ君が適任ってことで、待機組となった私はソファーに座って祈りを捧げている。
ミスタが危ない仕事を任せられるのは、どう考えてもミスタのセックス・ピストルズが一番適任だから。これが仕事だし、それに命かけるってことも理解している。でも不安で心配で胃に穴が開きそうだ。
ミスタのためなら盾にだって何だってなれるのに、祈ることしか出来ないなんて!ああ、今すぐ亀から飛び出してミスタの安否確認したい!バシッと決めたカッチョイイ感じのミスタを写真に納めたい!それを部屋の壁に飾りたい!セックス・ピストルズと戯れたい!
やっぱり夢を叶えるためにも、ボスの情報を知ってそうな元リーダーとドッピオ先輩に会って探りを入れた方がいいのかも。その情報をジョルノ君に横流しすれば、一気に夢へと近づくわけだし。
とりあえず任務が終わるまで勝手なこと出来ないし、任務が終わったらブチャラティさんとジョルノ君に提案してみよう。ダメって言われそうだけど、ゴリ押しすれば頷いてくれるハズ。
今のうちにゴリ押しの言い分を考えておかなければ!でもミスタが気になって集中出来ないし……恋愛脳になりすぎて使い物にならないよー!!
「……あの……」
内心喚いてるとボスの娘さんが声をかけてきた。『どうしました?』と苦笑いで返事をすると、とても言いにくそうに質問をしてきた。
「あの、ワキ……ゴホンッ、拳銃持ってる人って、あなたの彼氏?」
『誰の彼氏がワキ何だとゴルァ』
間違いなくケンカ売ってので、喜んで買ってやると笑顔で返事をすると、ブチャラティさんに首根っこを掴まれた。
止めてくれるな!ってブチャラティさんを睨んだけど、「任務中だ」と怒られてしまい、撃沈。戦闘意欲を無くしたので、シュンと落ち込んだまま、ボスの娘さんの質問に答えた。
『そうです、イイ匂いのするミスタは私の彼氏です』
「……結婚したいの?」
『まぁ、はい』
「ふーん、物好きもいるのね」
やっぱりどう考えても間違いなくケンカ売ってるから、ブチャラティさんに、『買ってもいい!?』って視線を送った。でも首を横に振られたから、もういっそのこと黙ってることにした。
でも、ミスタの話題をヤツらが見逃すはずもなく、リアクションが面白い本人がいないのにも関わらず、今流行りのミスタ潰しが始まってしまった。
そーいうのは本人がいる時にやってほしい。「わああ!」って喚くミスタに便乗して抱きつけるのに、本人が居ないんじゃ話にならないよ。
「ダメンズ好きっていうらしいですね」
「ああ、納得。そういう野郎の世話するの好きっぽいよな」
「何でも受け止めるのが愛って勘違いしているからだろ」
フーゴさん、アバッキオさん、ブチャラティさんの会話をスルーして、アップルジュースを口に含む。ターゲットがミスタじゃなくて私になってるし、こーいう時は黙ってた方が正解。絡んだって良いことなんて何一つもないもの。
「まだ将来について話し合ってないんでしょう?アイツがそれを呑むとは思えませんけどね」
「将来について意識すればこっちのもんだろ。何せアイツも恋愛脳、何言われても喜んで頷くぜ」
「そうだな、柄にもなく100本のバラをプレゼントするくらいだもんな」
「あーははは!バラを持ったミスタ、見てみてえ!」
ブチャラティさんのお言葉に爆笑しながらナランチャ君が参戦。それに釣られたらしく、フーゴさん、アバッキオさん、ブチャラティさんも笑いはじめた。ホント失礼なやつらだ!
「ミスタのバラにも驚いたが、アキの逆プロポーズにも驚いた。遠回し過ぎて伝わってないだろうけどな」
「ああ、追加の8本ですね」
「8本って何かあんの〜?」
『ナランチャ君、こっちはいいから見張りしてなよ!』
「そうですよ、ナランチャ。あとで教えてあげますから。今は任務優先です」
「ちぇっ、絶対に教えろよな〜」
やった!一人撃退した!って喜ぶのはまだ早い。フーゴさん、アバッキオさん、ブチャラティさんはニヤニヤしながら私のリアクションを見ている。これ以上はもう喋りませんって意味を込めて、プイッと顔を背けた。
今度はボスの娘さんと目があって、ボスの娘さんもクスクス笑っていた。何なの!ミスタならまだしも私を潰すのやめてくんない!?って叫びたいけど我慢。関わると私の羞恥が潰されてしまう。
だからテーブルに置いてある雑誌に手を伸ばしてページを捲った。でも隣に座ってたアバッキオさんがそれを取り上げて、何故か肩に腕を回してきた。逃がす気ゼロみたいだ。
「なぁ、アイツ上手いのか?」
『アバッキオ先輩、セクハラで〜す』
ブチャラティさんの手の甲を指で掴んでつねってみたけど意味はなかった。むしろ悪化した。
「任務放り出すほどハマってんだろ?どんなもんか教えろよ」
『イヤ〜ん』
「イッたりしてんのか?」
『……イヤ〜ん』
直球過ぎる質問に返答が少し遅れてしまった。
「な、なんですって?」
「マ、マジか?」
「おいおい、嘘だろ」
フーゴさん、アバッキオさん、ブチャラティさんは何故か冷や汗を流しはじめ、三人で談義をはじめた。
「大きさは関係ないというミスタの説は正解だったんですね」
「くそッ、次は下手くそってワードで遊んでやるつもりだったのに!」
「まぁ、アイツは……しつこそうだからな」
「ああ、確かに」
「なるほどな」
三人とも全然検討違いなこと言ってるから思わず『違うよ!』って返事をしてしまった。ニヤァっと口元を歪めた三人に、しまった!って思っても、もう遅い。何が違うのか話すまで離してくれないと悟ったから、羞恥覚悟で口を開いた。
『その、……しつこいとかそーいうの全然ないし、……すっごく優しくてすっごく気持ちいいし、……気を使ってくれてるというか、……愛情を感じちゃうというか、……ミスタじゃないとダメっていうか、……イクとか分かんないけど、気持ちいいの!だからミスタのこと悪く言うのやめてよ!』
何かもう最後の方はヤケだったけど、言い切ってやった。でもすっげー恥ずかしくて、めっちゃ熱くて変な汗出てくるし、ニヤニヤしてる三人から逃げたいけど逃げれないし、最終手段として、顔を手で覆って羞恥にまみれた顔を隠した。
「妬けるね〜」
「妬けちゃいますね」
「妬けるな」
また参戦してきたナランチャ君、フーゴさん、アバッキオさんの言葉に、またカアッと熱くなった。何かもう嫌だって叫びたくなるほど恥ずかしくて。それを煽るかのように、今度はブチャラティさんが隣に座ってきて、頭をポンポンと撫でてきた。
「悪い、悪い。遊び過ぎたな」
『リーダー、これは立派な集団セクハラです!』
「でも、暇潰しにはなっただろ?ナランチャ、そろそろ駅前だ。二人の反応は?」
もしかしてと思うんだけど……胃に穴が開きそうなほど、ミスタを心配してた私の気を紛らそうとしてくれてたんじゃ……いや、絶対そうだ!
普通の話題じゃ食い付かないからミスタの話題を振って、イヤなことを考えないようにしてくれていた。きっとボスの娘さんも気を使ってくれてたんだと思う。
だから様子を伺おうとあんな質問をして、それにみんなが便乗して。ホントこのチームには敵わないや。
『ありがとう』って言葉が喉まで出かかったけど、いきなり部屋の中がガクンと揺れて言えなかった。
「うわあ!滑った!」
どうやらナランチャ君が亀を落としそうになったみたいだ。ソファーから落ちそうになるほどグラッと傾く身体に、思わずブチャラティさんの服を掴んで、そのままの勢いで押し倒してしまった。
それまでなら全然いいのだけど、何がどうしてこうなってしまったのか分からないけど、何故かブチャラティさんとキスしている。
いや、いやいや、これは事故だ。倒れた勢いでぶつかってしまっただけで、故意にキスなんてしない。でもヤっちゃってる。がっつりムッチュッとしている。リーダーであるブチャラティさんとキスを……ふおおおお!!?
『ご、ごめんなさい!!』
すぐに飛び起きて部屋の隅まで逃げた。でもブチャラティさんは何事もなかったかのように起きて、「それより二人は?」とナランチャ君に現状を聞いていた。
やっぱりリーダーってなると、ああいう事故が起きても動揺しないんだ。いつも冷静に、それが幹部のあるべき姿なのだと見せつけられた気分だ。
私に足りないのはそういう精神力。そこを強くしないと、いつまでも夢を叶えられないのかもしれない。よし、ブチャラティさんの冷静な精神力をお手本に、もっと強くなるぞーー!!
『ナランチャ君、ミスタいた!?もう出てもいい!?』
「アキは見ちゃらめぇええ!まだ亀の中にいてええ!!出てきちゃらめなのぉおおお!!」
『えーやだよ、ミスタがしんぱい……!!?』
実はちょびっと耳を赤くしていたブチャラティさんに気づくことなく、亀の中から出た私は、新たな衝撃的事実を前に、頭の中を真っ白にしてしまった。