キミの知らないウソ

□22話
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アイツがブチャラティを特別に想っているのは、仲介してくれた恩があるから。ブチャラティへの義理立ては、アイツなりのお礼なんだと、理解してるつもりだ。

ブチャラティがオレたちに「ボスを裏切った」と言った時も、アイツは迷いもせずにブチャラティのそばにいた。

オレがそちら側に行くかも分かんねーのに、オレが行かなかったら2度と会えなくなるのに、一切の迷いもなく、ブチャラティのそばに。

ああそうだよ、妬いたさ。心底悔しかった。言い方悪いけど、オレを捨ててブチャラティを選んだような、サイテーな気分だ。

アイツはそんなつもりでブチャラティを選んだんじゃないって理解してる。今こそ恩を返すときって、一人奮闘したんだろうなぁって、……分かってる。

でも、その感情をどうにかこうにか落ち着かせようとしてんのに、例の二人はオレを煽ることしかしねーの。

ボスを裏切ったって情報はもうすでに組織内に回っている。一分一秒でも時間が惜しいってのに、ブチャラティは、「5分だけ時間をくれ。コイツと話したい。お前らは飯でも食ってろ」って言ってきた。

リーダーからの要求だし、オレたちはボートが見える距離にあるレストランへ入り、テラスで朝メシをとることに。

二人はボートに乗ってコソコソと何やら楽しそうに話してる。それはもう仲睦まじく、ベネツィアの朝日が二人の幸せを包み込んで、まるで恋人同士のようにピッタリと寄り添って。

お願いだから、朝っぱらから映画みてーなワンシーンを眺めてるオレの気持ちを察してくれ!っていう念的なモノを送ることしか出来ず。

でも邪魔するわけにもいかねえっていうか、それやったら大人げないと思って、グッと我慢してるオレってめっちゃ大人だわ。誰か誉めろ。

つーか、こういう時こそ、いつものくだらねえ話で盛り上がってくれたら、余計なことを考えずに済むってのに、ナランチャもアバッキオも知らん顔。チクショウ、空気読んでんじゃあねーぜ。


「チッ」


遠くで仲睦まじく話してる二人に舌打ちして、酒でもがぶ飲みするかのように、水を口に含む。するとナランチャが申し訳なさそうに聞いてきた。


「ねぇ、ミスタ」

「あ?」

「今のお気持ちは?」

「もはや最低だよ!」


申し訳なさそうにしてるくせにえげつない質問しやがって!そうじゃなくてもっと楽しい話題にしろ!空気読め、この野郎!って目でナランチャを睨むと、今度は笑顔で聞いてきた。


「なんで最低と思ったの?やっぱり寝とられたから?でもまだ二人は寝てないし、寝とられじゃないよ、ダイジョーブ」


いや何でここでオレ潰しが始まろうとしてんの!?今は止めてくれよ!残りのHP10しかねーんだ。赤文字クラス突入してっからスペル攻撃だけは止めてくれ!


「うるせえ黙れナランチャ!それ以上オレの傷を抉るんじゃあねえ!」


そう叫ぶとナランチャは肩を竦めた。それやりたいのオレ!ってツッコミをいれる前に、今度はジョルノが口を開いた。


「小さい男はモテませんよ」

「じゃあテメーのゴールドエクスペリエンスでどうにかしてくれよ!」

「ごめんなさい、本当に申し訳ないです」

「わああ!」


何かもう耐えきれずに、顔を伏せてバンバンとテーブルを叩いた。


「振られても力強く生きてこーぜ」


隣の席のアバッキオ君が、いちいち肩に腕を回して、わざわざ慰めてくれた。そのありがた迷惑な優しさに涙が出た。


「……ねーもん……」

「あ?」

「オレ、振られてねーもん!」


まるで小学生のガキのように声を荒らげてしまったオレ。みんなの反応が恥ずかしくて顔を上げれない。でも、いつまでも無反応だから勇気を出して顔を上げた。


「……そ、そうだよね、……まだ、だよね」

「……すみません、……先走っちゃいましたね」

「……ホント悪りぃ、……まだ、大丈夫だもんな」

「わああ!!」


みんなの同情の眼差しに耐えられなくなったオレは、この場から逃げようとした。でもボートから戻っくるブチャラティが目に入って、不貞腐れた態度全開で!大人しく座ってることに。

ブチャラティはそんなオレを見て、ものすごく申し訳なさそうにしながら、「すまない。2分だけだが……時間をやる。すぐに終わる話だが……覚悟決めろよ」と言ってきた。

それを聞いたナランチャ、ジョルノ、アバッキオは、「!?」とショックを受けた顔で口元を押さえてた。ホントそーいうの止めてくんない!?


「オレは話したくないんだけど〜」

「……これが最後になるかもしれないんだ。……アイツの覚悟を聞いてほしい」

「……最後ってどういう意味〜?」

「……お前には悪いと思ってる。本当に……こんなことになって……すまない」


いや本当にどういう意味!?って聞き返したくなるほど、ブチャラティは申し訳なさそうに頭を下げてきた。あのブチャラティが頭を下げるって……本当に考えたくないんだけど……やっぱりビンゴ?そーいうこと?

ちょっと待ってくれよ。オレってば今まで散々アイツに素っ気なくしてたけど、本当はマジでぞっこんで、心の底から大好きだって言えるくれー大好きなんだぜ。なのに何で……。


「こういう話をあまり急かしたくはないんだが、時間が……」

「あ?あ、ああ……悪りぃ」


何でオレが謝ってんだ!これは理不尽過ぎるだろ!って叫ぶ元気もなく、立ち上がってフラフラ〜っとボートへ。

何が悲しくて振られるためにオレが歩かなくちゃいけねーんだ。チクショウ。オレが好きって言ってたくせに。恋人になってたったの数日で裏切ってんじゃあねーぜ。それともあれか、ずっと前からブチャラティが好きだったって、今さら気づいちゃって〜恩人と好きを混合しちゃった!的な。ああ、納得。オレはかませ犬ってか。

まっ、元々アイツを救ったのはオレじゃなくてブチャラティだし〜、どーせ嘘で成り立ってた関係だったから、いつかこうなるんじゃねーかなぁってちょっと思ってたりして〜、……チクショウ。


「よう、話があんだろ」


本当は今にも泣いて喚きたいのをグッと堪えてボートのそばにしゃがむ。何かコイツといると耐えてばっか。あー、もうムシャクシャするぜ。こんなの全然ハッピーじゃねーよ。オレの人生にこんなの要らねーのに。


『えっと、あのね、ブチャラティさんのことだけど……実は……』

「どーでもいい」


まだ喋ってる途中だけど、それを遮って言ってしまった。一旦出ると何か不思議なもんで、オレの意思とは反対に、ズラズラ〜っと言葉が出てくる出てくる。それはもう嘘と暴言の嵐。


「つーかよぉ、真面目に何話しちゃってんの?何か色々と誤解してるみてーだけどよぉ、オレは遊び感覚のつもりでお前といるだけだぜ。そーいう重い話は勘弁してくれよ。オレが欲しいのは、もっとライトな関係ってやつよ。だからさ、お前ももっと気軽に遊んでいいんだぜ」

『……あの……』

「まだ分かんないの〜?お前とは遊びの関係だからオレのことなんて気にせず好き勝手しろって言ったんだけど〜」

『……』

「あーあ、つまんねーの。ここまで重いとさ、疲れるんだわ。いっそのこと関係終わらせようぜ〜っていうか、終わりで決定だろ。んじゃ、オレは先に戻ってるぜ。じゃーな」


何で思ってもないこと言ってんの。オレって実は二重人格者?確かに振られるの怖いけど、これはあんまりだろ。男として絶対にやっちゃいけねーことだろ。あんまりだろ。最低だろ。マジで総じてクズ過ぎんだろ。

でも、戻ったところでどうすんの?ごめん嘘でしたって謝ったあとに、アイツからの別れ話を聞くわけ?どーせあとでブチャラティがアイツを慰めるんだ。かませ犬はかませ犬らしく、二人が仲良くイチャイチャ出来るネタを落として……いやマジで総じてクズだな、オレ。だから好きな女に振られるんだよ。


「話し合い、終わったぜ」


レストランのテラスに戻ると、ブチャラティが安心したようにため息を吐いた。それすらも鼻につくオレは、笑顔を張り付けて、余計なこと(当てつけ)を言いながら、席に座った。


「ずっと好きだった女と両想いになった感想は〜?あ、別にオレのことは気にすんなよ〜、恋愛と仕事は割り切れるからよぉ、お前がリーダーで良かったと、彼女を盗られても!胸を張って言えるし〜」


笑顔で言えば言うほど、ブチャラティはポカーンとした表情になっていく。ナランチャとアバッキオは口元を押さえて「!?」とショックを受けた様子だ。

でも何かを察したジョルノが「まさか!」と立ち上がって、レストランから飛び出して行った。

その「まさか!」に、「はっ!?」と我に返ったブチャラティは、「最悪だ」と頭を抱えた。最悪なのはオレだっつーの。


「何が最悪だ、チクショウ」


オレは目の前にあった水をがぶ飲みした。


「違うんだ、ミスタ。そういうことではなく、……アイツは今から別行動をしてもらうんだ。それの承諾と……もしかしたらこれで最後になるかもしれないと、そう思って……」


ブチャラティのとんでもねえ発言に、飲みかけてた水を一斉に吹いた。


「あ!?ああ!?」


もはや言葉も出ないわ。


「アイツがオレのに心変わりをしたと勘違いしたのなら、それは間違いだ。今回、オレについてきてくれたのは、夢を叶えたいから……それだけだ」


ってことは、何?それだけのためにオレは勝手に勘違いして暴走して嘘と暴言の嵐をアイツに投げつけて総じてクズ野郎と悦に入ってたってわけ?


「……最悪だ……」


今度はオレが頭を抱えた。だってこれもう修復不可能。グッと堪えてアイツの話をちゃんと聞いてればこんなことにならなかったっつーのに!どう考えても自業自得!アイツの気持ちをムシして、アイツの想いを踏みつけた。違うそれは嘘なんだって言葉じゃ片付けられないくらい、酷く深く傷つけた。


「ちょっと、行ってくる!」

「急げよ」


その傷を埋めるモノが分からない。だけど走り出せずにはいられなかった。どうしても言いたいことがあるんだ。例え修復できなくても、本当の言葉を伝えたい。

レストランを出て急いでボートまで走る。でも、アイツの姿はもうなくて、ジョルノが一人突っ立っていた。

ジョルノはオレを見るなり、「あの子からの伝言です」と言ってきた。何の覚悟も心構えもしてねーのにって焦るオレに、ただ一言。


「ごめんなさい、ありがとう」


大切なものは失ってようやく気づくって誰かが言ってたが、全くその通りだ。恋人になって数日、まだお互いをよく知らないってのに、こんなにも大切だったのかって思い知らされた。

総じてクズ野郎の自業自得、恨むなら自分自身、先に手放したのはオレ。こうなった今の現状は、オレの責任。でもきっとアイツは自分のせいだと自分を呪ってるに違いない。


「やっぱり転んでもタダじゃ起きない、とても素敵な女性ですね。もっと好きになっちゃいました」

「あ?」

「いえ、あなたには内緒です。あと、これを」


そう言ってジョルノはオレに箱を渡してきた。なんだこれと中を開けてみると、コンドームが入ってた。


「なにこれ」

「あなたに返すって言ってました。全部使いたかったのに残念だと」

「……え、今?これ、今?」

「……日本製ですか?」

「そーだけどよ、お前もうちょっと空気読めよ!」

「1個は彼女が持っていきましたよ。ミスタの大きさを忘れたくないとかなんとか」

「アイツ何なの!?傷ついてんじゃねーの!?」

「本当に小さいんですね」

「わああ!!こんなにもお前が好きだって伝えたかったのに、それだけなのに!どうしてこうなったんだーー!!」


オレの心の叫びがベネツィアに響いた。このままアイツにも届けばいいのにと思ったけど、言葉足りず&暴走で痛い目みたくないから、とりあえず親衛隊に追い掛けられてる現状をどうにかしたあと、心を込めて告白しようと思った。
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