運命の輪舞曲

□11話
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祭壇の前でキスをした。


「誤解される前に言っておくが、……初めてだからな」


キスをされる前に言われた言葉に放心しちゃって。でも、重なった唇の柔らかさと感触は、私の記憶にイヤでもこびりついた。

お礼に写真をいくつか貰った。想いが通じ合ったばっかりで結婚式をしたっていう事件は一生の思い出になると思う。

みんなにも報告した。やっとかよ!って反応に驚いたけど、その日の夜、みんなが祝ってくれた。アバッキオさんとブチャラティさんは、みんなの輪から外れて、結婚式の写真をじっくり眺めていた。

「オレたちは、いつ死んでもおかしくねーからな。写真でも……アイツの花嫁姿を見られて……本当に、よかった」

この時、アバッキオさんの目は潤んでいたらしい。だからいつか本物のウェディングロードを歩くときは、アバパパと一緒に歩こうと決めた。

本当に幸せだ。いっぱいゴタゴタしちゃったけど、こうしてブチャラティさんとお付き合いさせていただいて、みんなからも祝ってもらえて。これからは、スレ違いに気を付けながら、焦らずゆっくり二人の愛を育んでいこう。そう心に誓った。

の、結果がこれです。


『相談その1、あれからキスをしてないんだが』


いつものレストランの個室、いつもの席について各々好きなことをしてるメンバーに相談した。


「知らな〜い」

「知らないです」


興味なさそうに返事をしたナランチャ君とフーゴさん。ことの重大さを理解してないようなので、詳しく説明してみた。


『やっとお付き合い出来たのにキスすらナシだなんて……もしかして私って雌としての魅力がないの?』

「あはは!雌って!性悪凶暴女にそんなもんあるわけねーだろ!んがあッ!」


隣の席のミスタが腹かかえて爆笑し始めたので、思い切り足を踏んづけてやった。やっと黙ってくれたので再度説明してみた。


『このままじゃ、セックスすら程遠い関係になってしまう!嫌よ、プラトニックなんて!私は濃密な関係を築きたいの!エッチでちょっぴり変態なブチャラティさんを見てみたいの!もっと求められたいの!どうやったらセックス出来るの!?キスから始まるセックス生活なんじゃないの!?キスだけじゃフラグは立たないの!?どうやったらブチャラティさんの裸を……ッ、は、はは裸をッ!!』


セックスやら裸を妄想してしまって、色々な意味で切羽詰まってしまった。これ以上言葉にならないので、テーブルをバンッ!と叩いたら、ミスタが背中をポンポンと軽く叩いてきた。


「どーどー、落ち着け」

『はぁッ、はぁッ、お、落ち着けない』

「つまり、お前はブチャラティとセックスしてーんだよな?そーいうことならオレに任せろよ」

『ほんと!?協力してくれるの!?』

「おう!」


何だかんだで優しいミスタが協力してくれるんなら百人力だ。『ありがとう!』って大喜びで抱きついたら、ドサドサッと何かが落ちる音がして、そのあとすぐにブチャラティさんのロケットパンチがミスタに直撃。ミスタはぶっ飛んでった。


「仲間の女に手を出すような、行儀の悪い犬を仲間にしたつもりはないんだが」


ここでミスタに構うとめんどーなので、近くにあった雑誌でも読むふりして今からを回避しようとした。すでに雑誌はナランチャ君とフーゴさんとアバッキオさんにとられていて、あああ!と内心絶叫してる私の隣の席にブチャラティさんが着席。ポンッと肩に手を置かれて、これからを覚悟した。


「ミスタと抱き合っていた理由を聞いても?」


にこやかなご様子のリーダー様に苦笑いを返すと、「理由を言え」と、これまた素敵な笑顔を向けられた。

あなたとセックスしたくてみんなに相談してました、なんて言えるわけない。かといってミスタに抱きつく正当な理由も思いつかない。

もう苦笑いで誤魔化すしかない最悪な状況の中、復活したミスタが後ろからガバッと抱きついてきた。


「コイツ、お前とセックスしたくてたまんねーんだって」


ちょっとほんと何言ってるかわかんないから苦笑いのままピシリと固まった。


「キスもしない、セックスもしない、それでも男かよ。ほら、コイツの小さい口にアレを突っ込んで」

「あ"あ"あ"」


とんでもねえ声が聞こえてミスタもピシリと固まった。ゆっくりと振り替えると、ミスタの背後にパープル・ヘイズ様が御光臨なされていた。

ミスタはブルブル震えながら大人しく席についた。でもパープル・ヘイズはミスタの後ろにスタンバイ。もうこれでミスタはおふざけ出来なくなった。余計なことをいうからだ、ざまーみろ。

それよりもブチャラティさんの反応だ。ミスタの余計な一言のせいで、何か耳が赤いし、「……そ、そういう話は、その、二人のときに……」とか言って、照れてるし。

『ああああ!!照れモードきたーーッ!!』って叫びたいところだけど、とんでもないことを暴露されたせいで、恥ずかしい気持ちの方が勝ってる。

だから俯いて、真っ赤になってるだろう顔を隠してたら、ナランチャ君がとんでもないネタをぶっ込んできた。


「ブチャラティってさぁ、フユが初恋の相手なんだろ〜〜?」

「そうだな」

「ってことはさぁ〜、ハジメテだったりするわけ〜〜?」


なにその気になるネタ!って思い、ばっと顔を上げてブチャラティさんを見ると、質問の意味を理解してないのかポカーンとしてた。でも段々と赤くなっていき、最後には手で顔を隠して俯いてしまった。

ハジメテで間違いなさそうなんだが、「違っ、これは違う、あの、そういうんじゃなくてだな」とか言ってオロオロしてる。その様子がかわいくて、ニヤニヤしながら横腹をツンツンしたら、その手を握り取られた。


「話がある。行くぞ」


さっきまでの照れはどこへやら。真剣にそう言われて、半ば引っ張られる形でレストランをあとにした。



*****



オレの久しぶりの恋は、報われることなく散っていった。

でもそれは元々覚悟していたわけで、今さらどうってことないっつーか、無事に二人が引っ付いてくれて本当に良かったと、心から思っている。

結婚式事件の写真を見たときはさすがに堪えたけど、それでもやっぱり、アイツの幸せそうな笑顔のためなら、そう思えば何とか乗り切ることが出来た。

だから大丈夫。オレはもう少しアイツの幸せの手助けをしていよう。大丈夫、そのうちこのやけにズクズクする胸の痛みはとれる。大丈夫、大丈夫。


「明日、ハジメテの感想とか聞かされんだろーなー……」


二人が出て行ったあと、テーブルに突っ伏してグチったら、アバッキオが背中をバチンと叩いてきた。


「二人の邪魔をせずアシストに回るって決めたのはお前自身だろうが」

「そうだけどよぉ」

「まっ、アイツに惚れた時点で失恋は覚悟してたんだろ。今さら落ち込むな」


アバッキオの言う通り、失恋は確定みてーなもんで、恋ごころの火っつーのを消さなかったのはオレで、自業自得ってやつ。分かってる、そのくらい。でもやっぱり見ちまうんだ、夢ってやつを。

もしアイツと付き合えてたら。もしあの日我慢しなかったら。もし本気で口説いていたら。隙あらば、もしもの妄想で、頭の中が埋め尽くされちまう。そんだけマジだったんだなぁなんて、ちょっと浸っちまったり。

そもそもオレが敵う相手じゃなかった。リーダーに勝てるハズない。器量も何もかも向こうのが良いに決まってる。つーか二人の付き合いの長さも勝てっこねーし。13歳からの付き合いとかなにそれ。割り込む隙なんて全くねーじゃん。

あーあ、あのときキスくらいしてたら運命的なやつが変わってたのかな。それともこうなる運命だったのか。なんだそのくそったれな運命。時でも戻して運命変えてやろうかチクショウ。


「ああああ!ダメだ、アバッキオ。オレけっこうマジで傷ついちまってるわ」


見守ってるとか、本当に良かったとか、良いことばっかり言っても、結局は全然納得出来てないっつーか、全然受け入れてない心がある。矛盾もいいとこだ。


「そりゃそうだろ。アイツに対しての想いが本気じゃなかったら、このオレがぶん殴ってるぜ」


アバッキオは当然のようにそう言って紅茶を注いでくれた。ずっと二人を見守ってるってのは知ってる。でも前々からそれ以上の何かを感じていた。そこを掘り下げるべきか迷ったけど、オレもその気持ちはよく分かるから、あえてスルーして、注いでくれた紅茶に口をつけた。


「本当に性悪女だな」

「お前もまだまだガキだな。手が掛かるくれーが女ってのは可愛いんだぜ」

「そりゃ好きな女限定だろ。好きじゃねーと女のワガママに付き合ってられねーし」

「……」

「そっかそっかぁ、アバッキオ先輩も惚れた女に弱いってわけねぇ〜〜、どうする〜?男二人で失恋話でもしちゃう〜?」

「おい黙れ新入り。茶、飲ませんぞ」

「本当に申し訳ありませんでした」


まだ自分の想いを精算出来ねーし、これからも矛盾した想いと戦ってくことになると思う。それでもやっぱり、アイツの幸せの為ならどんなことだってしてやると、そこだけは譲れなくて。そこにオレは、心を収めることにした。
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