運命の輪舞曲

□4話
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アバッキオさんが元気になった。なるべくお酒を飲みませんって約束もしてくれた。生活習慣を改めたおかげで肌ツヤも良くなったし、顔色も良くなった。まだ少し痩せ気味なのは心配だけど、これから徐々に健康を取り戻していくと思う。


『これで任務完了であります!』

「これは今回の報酬だ」


1週間の任務を終わらせて、まともになったアバッキオさんをリーダーに献上。仕上がりにご満足したようで、特別手当てを貰った。


『ボーナス出ちゃったから雑誌に載ってた化粧品でも買っちゃおうかなぁ〜って、そうじゃあねえ!』


給料袋をテーブルに叩きつけた。


『違うのお金じゃないの!お金の為にアバッキオさんを育てたわけじゃあない!お金じゃない何かが欲しかったのに……こんなのあんまりだーー!!』


今度はテーブルに突っ伏した。同じテーブルに座ってるフーゴさんとナランチャ君とアバッキオさんからため息が聞こえた。他人事かと思いやがって。

ちなみにブチャラティ様は給料袋を渡すだけ渡して何処かへ消えた。多分電話でもしてるんだと思う。お忙しい方だし。


『何のために1週間も好きでもない男と同棲したと思ってんのよ!好きでもない男の裸見せられても何一つ興奮出来やしないのに!』

「うわ〜、今のきっつ〜い」

「振られましたね、アバッキオ」

「うるせえ黙れ殺すぞ」

「あれ〜?もしや図星〜?」

「あなたも頭イカれてるんですね」

「黙れって言ってんだぜ、このクソガキ」

『うるさい!黙って私のグチを聞きなさいよ!』


一喝したら黙ってくれた。そうそうそれでベネ。私のグチタイムに横やりを入れるなかれって覚えたみたいだ。


『そういうのってお金じゃないじゃん。別に難しい任務ってわけでも、命狙われるような危険な任務でもないんだもの。むしろ報酬無しでもおかしくないわけだし。貰えないよ、これは』

「うん、そだね。じゃあ、これは」


テーブルにある給料袋に手を伸ばそうとするナランチャ君の手をパチンと叩き落として阻止。自分の懐に袋を納めた。


『報酬なんて要らないの。あの人から命令されれば報酬無しで何だってやるわ。そのくらいの覚悟を持ってあの人と一緒にいるの』

「何で!?要らねーならオレにくれよ!」

「説得力皆無ですね。懐に納めた報酬を戻して言うべきセリフです」

「矛盾もいいところだぜ。これだから女ってのはメンドクセーんだよ」

『お黙りなさい!!』


一喝したらまた黙った三人。よしよし、私の命令は絶対ってことを分かってきたじゃあないか。


『私はもっとこう、ドキドキするような報酬が欲しかったの』

「ドキドキ〜?例えば〜?」

「ナランチャ、やめなさい。これ掘り下げてもいいことないですよ」

「変態女の考えることだ、どーせセックスとかだろ」

『ふぎゃ!?』


アバッキオさんからとんでもないワードが飛び出して、ビックリして変な声が出てしまった。

だってまさか報酬に本番行為を要求するなんて思い付きもしなかったんだもの。やはり更生が必要だった方は発想も違う。そこも更生が必要だった。


『ダメだよ、アバッキオさん。そーいうことは好きな人とするから、相手が下手でもキモチイイの。分かる?テクニックより愛情。そこに愛があるから幸せなのよ。その歳で女心も分からないなんて、……たかが知れてるわね』

「おいおい、フーゴよぉ、フユって処女じゃねーの?」

「未経験のはずですが」

「処女のくせにオレに説教こいてんじゃあねーぞ。処女膜破って出直してこい」

『さっきから黙れって言ってるじゃない。聞こえてないの?鼓膜でも破れてるの?確認してあげよっか?』


懐からアイスピックを取り出した。また黙った三人に頷いて、話の続きをした。


『まぁね、ブチャラティ様が絡んだ時点で何されてもドキドキなんだけどね。何であんなにも素敵なの?素敵過ぎて毎日拝みたくなる……まさか神!?でも確かに神のように美しく輝いてるわ。眩しすぎて直視できない。見たいのに見れないなんて。ああ、恋ってジレンマ。焦らしプレイってやつかしら。……どうしよう、まだ未経験なのに高度な焦らしプレイされちゃってる。知らず知らずの内に大人になっちゃった』

「フーゴ、オレ腹へったぁ」

「そろそろお昼時ですね。何か食べましょうか」

「ブチャラティもそろそろ戻るだろ。もう少し待ってようぜ」

『聞けよ、お主ら!!』


一喝したにも関わらず、3人はやれやれって言わんばかりのため息を吐いた。でも今回は焦らしプレイで気分がイイから見逃してやろう。


『追加報酬、アレでもおねだりしよっかなぁ』

「まだ諦めないんですか、本当にバカですか、あなたは」


コーヒーを飲みながらルンルン気分で雑誌を開くと、フーゴさんがいつもの横やりを入れてきた。まったくこれっぽっちも成長しないやつだ。


「そもそも報酬は、給料の特別手当てとして貰ったんでしょう?」

『それはそれ、これはこれ、ですよ』

「たかがあれだけの任務で、それ以上の報酬を貰えると思ってるんですか?浅ましい女ですね」

『うるさいなぁ、ダメ元で言ってみても損はしないじゃん』

「あの人に余計な手間と迷惑をかけないで下さい。あなたと違って忙しいんですよ、リーダーは」

『最近嫌みが増えてきたね。どうしたの?反抗期?』

「僕は至極当然のことを言ってるだけです」

『かわいくない男は嫌われるよ』

「別に構いませんよ、あなたに嫌われるなら万々歳です」

『ほんっとかわいくない!』


フーゴさんのせいでルンルン気分が台無しだ。気晴らしに散歩でも行こうと思い、乱暴に雑誌を閉じて立ち上がると、タイミング悪くブチャラティ様がやって来た。


「言い合いでもしてたのか?店先まで声が聞こえてたぞ」

『別に何でもないですよ』

「フユが今回の報酬について愚痴ってたもので、少し説教してやってたんです」


フーゴさんこの野郎余計なこと言いやがってって睨んだところで既に遅し。「不満ならオレに言え」と、これについて掘り下げる気満々で、ブチャラティ様が席についた。


「報酬に不満があるとは、お前にしては珍しいな。十分な額は渡したと思うんだが、何か困り事か?」

『違う、違う!むしろ貰いすぎて申し訳ないくらいだよ!』

「じゃあ何に対して不満があるんだ」

「追加で報酬が欲しいみたいですよ」

『フーゴさん!!?』

「しかもお金じゃないものね〜」

『ナランチャくん!!?』

「身体でもないらしいぜ」

『アバッキオさんまで!!?』


ついに裏切りやがった三人を睨んでもやっぱり既に遅しなわけで、ブチャラティ様は真面目に悩みだした。


「化粧品でも欲しいのか?」

「多分違うと思うよ〜」

「金でも物でもないものって何ですかね」

「オレ達も知らねーからな」

「一体何が不満なんだ。言ってみろ。出来る限りのことはするぞ」


こうなるともうダメだ。追加報酬について説明するまで引かないだろう。でも何とかして誤魔化さなければ。フーゴさんが余計なことを言わなければ、ただの愚痴で終わってたのに!


『えっと、別にその……もう要らないから大丈夫だよ』

「あれだけ愚痴ってたのにぃ?」

『ナランチャくん、お黙りなさい』

「今さら引こうったって、そうはいきませんよ」

『フーゴさん、お黙りなさい』

「何だよ、やっぱりセックスが目的かよ」

『アバッキオさんってば、まだ更生が必要みたいね!どこでそんな言葉を覚えてきたの!』


ことごとく裏切る生意気3人組を睨んでも、ブチャラティ様がこの場にいる時点で、軍配は三人に上がってる。絶対にあとで説教するとして、今は、とんでもないワードのせいで固まったブチャラティ様をどうにかしなければならない。


『違うからね、ブチャラティ様!そんなことおねだりしないから!そーいうのは恋人同士じゃないとダメって知ってるから!』

「そ……そうだな、お前がそーいうことを報酬で……するわけないよな」

『そうだよ、アバッキオさんがテキトーに言っただけだよ!』

「じゃあ何だ?気になるから教えてくれ」

『ぬぅ』


今、自分で自分の逃げ道を完全封鎖した気がする。しかもこれ言うまで解放されないパターンだ。逃げようにも三人が結託してる時点で逃げ場ナシ。

もう腹を括ろう。いっそのこと潔く言ってしまおう。言ったら空気凍っちゃうし、どうせダメって言われるやつだもの。勇気を出して、マイソウル。ダメ元の赤っ恥覚悟で打っ放すの。


『あのね』

「何だ」

『頭を……』

「あたま?」

『ブチャラティ様に……あたまを……ナデナデされたくて』


しどろもどろになりながらも打っ放したけども、やっぱりシーンと空気が凍った。赤っ恥覚悟してたけど、変な汗も止まんないし、動悸もすごいし、何かもう居たたまれない。


『ご、ごめんなさい!別にどうしても欲しいってわけじゃなくて、されたいなって思っただけで……、トイレ!トイレにでも行ってこようかな!あはは、ずっと我慢してたの!』


ニヤニヤしてる生意気3人組から逃げるため、トイレへ駆け込もうと立ち上がった。でもすぐにブチャラティ様に腕を掴まれた。そして引っ張られるまま、本来の目的地であるトイレへ。

何だどうした何だ何だってハテナで埋め尽くされてる頭にブチャラティ様の手がポスンと乗った。頭を撫でてくれるらしい。


『……えっと……』

「……」

『……えへへ……』


どうしよう、舞い上がっちゃうほど本当に嬉しい。嫌なら断れるのに、叶えてくれたことが嬉しい。ブチャラティ様が触れてくれる、それだけで幸せ。


『ありがとう、嬉しい!』

「……こんなのでいいのか?」

『うん、幸せ!』


もう我慢できなくて、満面の笑みをブチャラティ様に向けた。でもその表情が目に焼き付いて、笑顔が引っ込んでしまった。


「……そうか。それは、よかったな」


何でだろう、何でこんなに、寂しそうに笑うんだろう。何でこんなに、寂しいと思ってしまうんだろう。
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