運命の輪舞曲
□6話
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2回もキスしたんだもの、これ間違いなくイイ感じ。私のワガママで困ってもーーその続きはなかったけど、高確率で両想いっていう自信がある。
でもブチャラティ様の言ってた、「さっさと捨てろよ、こんな男」って言葉も、あれから感じる微妙な壁も、私に向ける寂しそうな笑いも、凄く気になる。
聞いたって教えてくれないだろうけど、それをどうにかしない限り、ブチャラティ様は絶対に告白を受け入れないと思う。まさに難攻不落の男だ。でも残念。私は諦めが悪いんです。
今日はフーゴさんと一緒に仕事をすることになった。任務は、【とある物をお届け】だ。目的地まで車で一時間掛かるけど、運転はフーゴさんだし、私は助手席でナビしてればいいだけ。ちょっとしたドライブ気分だ。それに相談もしやすいぞ。
『フーゴさんフーゴさん』
「何ですか」
『難攻不落の男を落とすにはどうしたらいい?』
「知らないです」
『相談くらいのってよ』
「嫌ですよ、面倒臭い」
『私の愛を応援する優しさは持ってないわけ!?』
「無いです、皆無です、残念でした」
今すぐはっ倒したいほど生意気なフーゴさんだが、今は車の運転中だ。事故られても困るし、今は見逃してやる。
「大体ですね、両想いの自信はどっから出てくるんですか」
『キスしたから?』
「キスくらい好きじゃなくてもするでしょ」
『いやいや、しないでしょ。キスもその先も好きな人だからするんだよ』
「好きじゃなくても出来ますよ。人間誰しも持ってる性欲ってやつです」
『そっか、フーゴさんは誰彼構わずヤりまくるサイテーな男だったんだね』
「見境なく抱いたりしません。美人であとぐされのない賢い女性を選んでるつもりです」
『あーやだやだ、真剣に恋愛したこともない人が偉そうに恋愛の助言とか、あーやだやだ』
「お昼はハンバーガーにしましょうか」
『また話聞いてない!少しは構ってくれてもいいじゃん!』
「ランチを決めたら続きを聞いてあげますよ」
『じゃあハンバーガーで!』
「それじゃあ、キスしたああああ!!!?」
『ひいいいい!!!!?』
フーゴさんの突然の叫びに心臓が飛び出るどころか、車体が反対車線に飛び出てしまった。しかも前にはトレーラーが!
『前!!フーゴさん、前!!』
「うわああああ!!?」
ギリッギリで元の車線に戻った。マジで死ぬかと思った。九死に一生を体験してしまった。まだ心臓がバクバク鳴ってるのに、フーゴさんは前方を見ながら大きな声を上げた。
「ブチャラティとキスしたんですか!?」
『えっ、うん』
今そこにリアクションすんの?ってツッコミしたいけど、本当に驚いてるので素直に返事した。
『あ、でも内緒だよ?フーゴさんだから話したわけで、みんなには秘密ね』
「さすがに言えませんよ。言ったところで信じてくれません」
『でもフーゴさんは信じてくれたね』
「あなたがその手の話で嘘を吐くと思えませんから」
『それもそっか!さすがフーゴさん、分かってる〜』
「付き合い長いですからね。しかし、とうとうそこまで進歩したんですね。薬を飲ませて弱ったところを襲うなんて……いつかあなたならやると信じてました」
『薬なんて盛ってないし何かもう色々と失礼!』
「冗談はさておき」
『とんだ冗談だね!?』
「あのブチャラティがキスまでしといて、それ以上の進展がないとなると……やっぱりただの出来心じゃあないんですか?フラッときてヤってしまった。しかも相手はチームの部下。責任を取らざる得ないが、チーム内での恋愛沙汰は遠慮したい。というか好みのタイプが違う。でも相手は気のある素振りばかりで断りづらい。そうだ、時が過ぎるまで待っていよう。諦めてくれるその日まで。……で、イマココみたいな感じですかね」
『……』
確かに、あながち間違ってなさそうな推理にぐうの音も出なかった。
「もしかして……キスされたからって両想いとか勘違いしてませんよね?そこまで子供じゃあないですよね?」
『ぐう』
ぐうの音を出したくなるほど、とんでもなく恥ずかしい。まさにフーゴさんの言う通り、キスをしたってだけで両想いってのは子供過ぎる考え方だ。
いやでも!あのブチャラティ様がフラッときてキスをするなんて考えられないんだもの。そこも真面目な人だもん。多分。
「はぁ、いいですか?人間の性欲ってのは野蛮なんです。実際、誰とだって出来るんです」
『私は出来ないもん!そーいうの無理なの!』
「出来ますよ、嫌でも出来ます」
「あ"あ"あ"あ"」
あやつ様が降臨なされた気がする。耳元でスッゲー唸ってる。というかもしや真後ろにいる?助手席の頭の部分のアレのやつ掴んでない?いやそれどころか後ろから頬っぺたに手を添えられてない?カプ、カプセルが見えるんだけど。視界にとんでもねえカプセル写ってんだけど!?
『ひいいいい!?フーゴさん、助けて、今すぐ助けて!』
「キスさせてくれたら助けてあげます」
『最低か!!?』
「させてくれないなら目的地に着くまでずっとこのままです。おっと、動かないで下さいね。動くと割れます。とても簡単に割れるんです、これ」
『はぁ、はぁ、はぁ』
「あ"あ"あ"あ"」
車内に私の荒い息とあやつ様の唸り声が響く。さすさすと頬を撫でてくるあやつ様の手に全身がガタガタ震える。フーゴさんに助けてと視線をやっても、前方を見ながら運転してるので目が合うこともない。
フーゴさんとは付き合いが長い。何年も同じチームでやってるんだもの、色々と分かってるつもり。フーゴさんがこの手の冗談言うわけないもの。
「キス、してくれますか?」
キスをしたら解放、そんなのキスする道しか残されてないじゃん。死ぬかキスするかの2つに1つじゃん。あーいいよ!ブチュッとやってやるよ!キスし終わったら絶対に殴ってやる。そんで一万回は唇洗って新品状態に戻してやる!
『さぁ、どんと来い!そして私の唇に触れられることに心から感謝しろ!』
「もっとグタグタ言ってくると思ってましたが、意外と決断まで早かったですね」
『私は生きたいの!』
「では、いきますよ」
「あ"あ"あ"あ"」
これからのことを見たくなくてぎゅっと目を閉じた。変な流れとはいえ、フーゴさんとキスする日が来ようとは思いもしなかった。フーゴさんでもキス的イベントが起きるんなら、ナランチャ君やアバッキオさんともキス的イベントが起きちゃうんだろうか?
ナランチャ君とキスとか絶対に無理なんだけど。アイツ何か下手そう。普通に歯とか当ててきそう。あーその点アバッキオさんは上手そうだ。遊んでた方はひと味違うのかしら。でもやっぱりブチャラティ様のキスが……
『……っ』
ふっとあのキスを思い出した。わああっと叫び出してしまいそうなほど、全身が熱くなった。まだ、こんなにも覚えてる。それがすごく……
そんなことを考えてたら、あやつ様の唸り声が後頭部を越えて、目の前で聞こえ始めた。出来れば目を開けたくないけど、唸り声の位置があまりにもおかしいから、勇気を出して目を開けた。
『うわああああ!!?』
逆さまに写るパープル・ヘイズ様に大絶叫。そしてフーゴさんにもの申した。
『お前がやるんじゃあねーの!!?』
「え?」
『え?じゃねーよ!キスだよ、キス!何でスタンド使ってキスしてんの!?直接来いよ!卑怯だぞ、そんなの!』
「嫌ですよ。何であなたとキスしなくちゃあならないんですか」
『はああ!?死ぬかキスするかって脅しかけてきたのそっちじゃん!』
「あー、そうですね。それであなたは簡単にキスを選びました。これでよく分かったでしょう?好きな人でなくともキスが出来るって」
『もしやそれを分からせるために?』
「ブチャラティを一途に想うのなら、死ぬ気で拒否しないとダメですよ。すぐにブレブレになる所、直すべきです。あっ、バーガーショップありますね。あそこで休憩しましょうか」
『ぐう』
「ぐうの音も出ないほど負かされて悔しいからって、嘘のぐうはダメです」
『フーゴさん、生意気過ぎる!』
「褒め言葉、ありがとうございます」
こっちは何にも笑えないのに、何がそんなに楽しいのっていうくらい、フーゴさんが上機嫌になった。ハンバーガー奢ってくれたし、帰りにシェイクも買ってくれた。
それから無事に任務が終わって、いつものレストランに帰り着くまで、珍しいくらい上機嫌が続いた。
『何でそんなに上機嫌なの?』
「内緒です」
車を停めて、レストランまで歩いて行ってると、店先でナランチャ君とアバッキオさんと合流。二人ともフーゴさんを見てギョッとしてた。
「なになに、何でそんなに上機嫌なわけ〜?」
「お前、変なもの食わせたんじゃあねーだろうな」
『何でそこで私が疑われるのよ!どうせするならブチャラティ様にするに決まってんじゃない!』
「いやー、フユがあまりにも簡単にキスさせてくれるもんですから、面白くて面白くて」
「……キス?」
「……キスだと?」
ここはもうレストランのいつものテーブル席の一歩手前って所だ。いつ誰に聞かれるか分かんないのに、とんでもないタイミングで、とんでもない爆弾を落としたフーゴさん。爆弾の中身を知ったナランチャ君とアバッキオさんはまたギョッとしてた。
私は拳を握り締めて俯いてたから知らなかったけど、でもとりあえず言わんことがあるので声を上げた。
『それがてめえのやり方かあああ!!』
「キス、だと?」
ブチャラティ様の声が後ろから聞こえてピシリと固まった。心臓まで固まった。空気も固まった。爆弾を投下したフーゴさんは知らん顔、ナランチャ君もアバッキオさんもどこ吹く風どころか、「マジで?」って言わんばかりに凝視してくる。
そして肝心のブチャラティ様は……
「ドラマの話ならあとにしろ。ちょうど新しいメンバーが入ったところだ。一緒に飯でも食おう」
有り難いことに勘違いしてくれてるようなので、キスの件は終わりにして、新メンバーが加入してきた件について、楽しく談笑しながらご飯を食べたいと思います。