運命の輪舞曲

□13話
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ブチャラティ様のチームを抜けて3日が経った。ボスと改めて交渉したら、「迷惑かけなければ好きにしていい」というお言葉を貰えた。

一番心配していたミスタに電話でそれを伝えたけど、やっぱりいい返事はしなかった。ブチャラティ様も「そうか」の一言だけ。

みんなに会えないのは寂しいけど、心は軽くなった。あのままブチャラティ様と過ごす方がしんどくて。一人で過ごしてた方がマシなレベル。でもこのタイミングで一人は絶対に勘弁だ。


『……ゴホッ、……あー……』


熱が出た。頭が痛いし、関節も痛い。寒くてたまんないし、家に食べ物も飲み物も何も無い。仕方ないから気力を振り絞って買い出しに行ったけど、余計悪化した。

市販の薬を飲んで寝たけど、その効き目を上回るスピードで熱も上がっていく。これ以上はヤバイって思って、知り合いの先生に来てもらった。


「風邪だね。まだ今から上がると思うよ」

『……んー……』

「注射は病院じゃないと出来ないから、坐薬でも入れようか」

『……ざやく……?』

「熱を下げるお薬だよ」

『……んー……』

「四つん這いになれる?」

『……んー……』


言っておくけど頭が回ってない。先生に言われるまま四つん這いになって、ようやくざやくが坐薬ってことを理解した。

坐薬はお尻から入れるお薬。つまり、お尻の穴を丸出しにして、先生に見られ触られ挿入されてしまう。とんでもねえことですよ、これは!


『おしりやだ!はじめてがせんせいでおくすりとかいやだ!』


あっれ、今ちょっと違うことを言った気もしなくもないけど……いや、あってるあってる。その通りよ。


「いや、お薬入れるだけだからね?怖くないよ、痛くもないし」

『やーだー!おしりやだ!はじめてはブチャラティさまがいいの!』

「あのね、卑猥なことをするわけじゃあないんだよ?辛いのを取ってあげるの。そこんとこ分かってる?」

『じぶんでするの!どっかいってよ、このへんたい!』

「あーはいはい、自分で入れるのね。ったく、お薬は置いとくからね。熱が上がったり、異変を感じたらすぐに電話すること」

『うん、うん』

「じゃあ、ちゃんと坐薬入れて大人しく寝るんだよ」


何とかお尻を死守出来た。先生が出て行ったあと、ものすっっっごくキツいけど、シャワーを浴びて全身を綺麗にした。タオルが肌に当たるだけで皮膚が痛い。何かもう悪化しまくり。でもこれでようやく楽になれると、坐薬を手に一人で四つん這い。

改めて思う。坐薬って怖くない?

だってお尻よ、お尻。お尻の穴に何か入れるって超怖いんだけど。未知過ぎて恐怖なんだけど。しかも自分の手で入れるってどんな度胸試し?無理でしょこんなの。

でもそれを差し引いても、高熱で魘される現実が待ってるわけで、やっぱり恐怖に打ち勝って入れる方がずっとマシ。よし、入れよう。ケツ穴に入れてスッキリしよう。


『……んー……ん……んんっ……』


当てることが出来ても奥に突き刺すことなんて出来なくて、変な汗がタラタラ出てくるし、寒いし、全裸で四つん這いとか何してんのって思うし、寒いし、フラフラするし、頭が痛いし、お尻違和感だし、何かもう、何かもう!


『くそっ、こんなもんおしこんでやるぜ』


腹を括ってグッと指に力入れても全然奥に入っていかないし、むしろポロッと坐薬落としちゃうし、寒いし、頭が痛いし、四つん這いすらしんどいし、何かもう、何かもう!

フラフラする身体を動かして、ベッドまで戻った。ケータイを手に取って、履歴を出す。私は泣きながら電話を掛けた。迷惑だと思われてもいい、助けて欲しい人はただ一人。


「どうした」


ブチャラティ様だ。


『たすけて』

「何があった」

『しんじゃう』


本当に死にかけてるのかも。フラッと倒れていく身体を支えきれなくて、そのまま床に倒れてしまった。その拍子にケータイを落としてしまって、最悪なことにベッドの下、しかも奥まで滑ってしまうという事態に発展。

意識はあるから頑張って手を伸ばしてみたけど、何せダブルベッドだ。手が届くはずないじゃない。何かもう、何かもう!


『……やだっ……やなのぉ、たすけて……たすけて……おねがい……』


もう嘆くしかなかった。賢い坐薬の入れ方について聞こうって電話を掛けただけなのに、結果的に振り出しに戻るとか。やっぱり泣きながら電話を掛けたから迷惑だったんだ。迷惑だと思うブチャラティ様の心がケータイを落とすっていう事故に発展したんだ!

よく分かんない理屈を捏ねて、ならばいっそこのまま死んでしまおうと、全裸のままベッドに潜り込んだ。

もうこれ以上動けない。腕も上がらなければ手も動かせない。しんどい、本当にこのまま死ぬんじゃないか。グルグルと頭が回る。目を開ければ目も回ってて、これマジで死ぬかもって思ったら、寝室の扉がバンッと開いた。


「……はぁ、……はぁ」


はぁはぁしたいの私なんだけど、ブチャラティ様は息を荒くしながらベッドに近づいてきた。……あれ?ブチャラティ様だ。なんだ、どうした。何があった。


『……どうしたの』

「……熱が出たんならそう言え。電話通じないし」

『……あ、そうだった』

「どうし……ッッ!!?」


ようやく記憶が戻った私はベッドから抜け出して、お薬の袋を手に取った。そしてベッドに戻って、坐薬をブチャラティ様に渡した。


『あのね、おしりのあなにはいらないの、せんせいはいやだからじぶんでがんばったけどこわくてはいんないの、どうしたらはいるのかききたくてでんわしたの』

「お、おおう」


ブチャラティ様は何故か戸惑ってた。もしや賢い坐薬の入れ方を知らないのかも。そうなるとまた振り出しに戻るわけで、いつまで経っても高熱のままだ。それだけは嫌だ、こんなのもう耐えられない!


『しらないならかえって!』

「いや、これは専門外というか、知る知らないの問題を越えてるような気がするんだが。……先生に電話しようか」

『やーだー!はじめてがせんせいとかぜったいにいや!』

「はじ、はじめて!?」

『だっておしりのあなとかみられるんでしょ!?さわされるんだよ!?そうにゅうまでされちゃう!いやだもん!はじめてがせんせいでおくすりとかぜったいにいや!』

「何の話をしてるんだ、お前は!」

『ブチャラティさまがおこったー!!』


こっちは真面目に頑張ってるのに怒られたことがショックでわんわん泣いた。今まで泣けなかった分、ここに来てぶわっと溢れた。


『やっぱりブチャラティさまはわたしがどうなろうとしったこっちゃないんだ!どうでもいいんだ!ひどいよ!さいてー!』

「何なのだ、一体オレにどうしろと」

『はじめてはブチャラティさまがいいの!それいがいはやなの!おくすりでブチャラティさまがいいの!』

「だから、何の話をしてるんだ。病気とそれは別物だろ。少し落ち着け」


冷静に言われると……確かに何の話をしてるんだろ。お尻も処女だから初めてはブチャラティ様だって思ったけど、病気とそれは別物。むしろブチャラティ様にケツ穴見せる方が恥ずかしいってか死ぬレベル。


「ういーっす、邪魔するぜ」

「あらら、熱でも出たんですか?」


ようやく落ち着きを取り戻したら、今度はミスタとフーゴさんが寝室に入ってきた。当たり前のようにベッドに近づいて、フーゴさんはおでこに手を当ててきた。ってか何で居るの?鍵は?


「高いですね。薬は飲みましたか?」

『ううん、まだ』


そうだ、元々は賢い坐薬の入れ方を聞こうとして電話したんだった。この際もうフーゴさんに聞こう。


『あのね、せんせいがざやくだしてくれたの。でもはじめてがせんせいでおくすりはいやでブチャラティさまにでんわしたの』


まだ説明の途中だけど、ミスタとフーゴさんがものすごい勢いでブチャラティ様を見た。ブチャラティ様は首をブンブンと横に振って、「やってないぞ!オレは何もしてないからな!」と言ってた。


『でもね、ブチャラティさまにたのんでもはなにもしてくれなくて、おこられたの』

「どう対処していいのか分からなくて焦ったんですよ。じゃあ、まだお薬は入れてないんですね」

『うん』

「よし、オレが入れてやる」


ミスタは張り切って坐薬を手にした。でもブチャラティ様に取り上げられた。


「お前のような下心がある変態に任せるわけないだろ」

「とかいって、本当は自分が入れたいだけじゃないの〜?」

「お前と一緒にするなよ、この童貞犬」

「えー、オレは是非ともやりてーけど。理由はどうであれアイツに触れるいいキッカケだし〜」

「病気のアイツに何をするつもりだ。ダメだな、お前に任せるくらいならオレがやった方がマシだ」

「なんだよ、やっぱりテメーがやりてーんじゃねーかよ、ムッツリだなぁ、リーダーさんは」

「お前、少し調子に乗ってないか?」

「えー、何のこと〜」


二人の意味のない口論が始まりそうでオロオロしてると、フーゴさんがあやつ様を降臨させて二人に詰め寄った。


「さっきからうるさいです。静かに出来ない人は出て行って下さい」


あやつ様の恐怖を知ってる二人は黙って部屋から出て行った。そしてフーゴさんはあやつ様を降臨させたまま、坐薬片手に「四つん這い」と一言。この際フーゴさんでも何でもいいから、モゾモゾと四つん這いになった。


「ったく、あなたって人は……坐薬くらいで大袈裟なんです。あとパジャマくらい着なさい。だから悪化するんですよ」

『んひゃう!はだか見られちゃう……そこも……見ちゃやだ!だめ!』

「はいはい、見てもどうも思いません。それじゃ、いちにのさんで入れますからね。力を抜いて下さい」

『んぅ、がんばりゅ』

「いちにのさん」

『……んんッッ、中に、フーゴさんフーゴさん!ナカにゆびッ、これっ!』

「はいはい、抜きますよ」

『んんっ、やだ!ぞわって……っ、ああ!』

「へえ、意外とアリな人なんですね」

『ふわああ』


お薬がナカに入っていく変な感覚があるけど、これで終わったって思うと気が抜けてバタンッと横になった。フーゴさんはパジャマを着せてくれて、お布団まで掛けてくれた。


『もうかえるの?』

「ちゃんといますから、ゆっくり寝てて下さい」

『うん、ありがとう』


安心したら眠気がきて、目を閉じたら速攻で眠ってしまった。


「フーゴ、ちょっと話があるのだが」

「抜け駆けはよくねーよ。しかもスタンド使ってまで普通やるか?どんだけ変態さんなの、お前」

「えっ!?違いますよ!ただの看病で、スタンドも勝手に」

「あ"あ"あ"あ"」

「また裏切りやがったな、パープル・ヘイズめ!!」


寝室の外で、裏切り者のパープル・ヘイズがあってるとは思いもしませんでした。フーゴさん、せっかくの優しさをフォロー出来なくてごめんなさい。
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