番外編/短編/過去拍手文/

□御猫様の誕生日
1ページ/1ページ

4月4日はジョナサンの誕生日である。ジョージの書斎のソファーに寝転んで毎年恒例のプレゼント選びに頭を悩ませてると、一つの疑問が浮かんだ。

一人で考えても全く解決しない&是非とも解決したいネタなので、お仕事中のジョージに声をかけた。


『ジョージ、あのね』

「なんだい、御猫様。欲しいものがあるなら何でも買ってあげるよ」

『私の誕生日っていつ?』

「……はて?タンジョービ?」

『毎年ジョナサンの誕生日パーティーするけど、御猫様ってしてもらった事がないの。なんでだろーって考えてたら誕生日が分かんないって疑問に行き着いたの。私の誕生日っていつなの?』

「………………うわああああ!!!」


ジョージは絶叫しながら書斎を出ていってしまった。たまにこーいうことがあるので気にせずに居ると、ジョナサンの部屋から「うわああああ!!!」と叫び声が聞こえてきた。

そして、「「本当にごめんよ、御猫様ぁぁああ!!」」と絶叫しながら、二人が部屋に駆け込んできた。親子揃って騒がし……仲良しである。


「誕生日を忘れるなんてあるまじきだ!クソッ、父さんのせいで!」

「誕生日……誕生日……クソッ、ジョナサンが少しでも気づいてくれてれば!」


二人はソファーの前に座り込んで床をバンバン叩きながらお互いに罪を擦り付け始めた。


「しかし、誕生日か。何かいい日はないだろうか」

「2月22日は?ほら、ニャンニャンニャンって意味で」

「おお!それは何とも御猫様にピッタリの可愛らしい誕生日だな。では、2月22日のニャンニャンニャン、この日が御猫様の誕生日ってことにしよう!」

「っていうか、僕が御猫様の誕生日を決めたってことだよね!うわー、どうしよう!記念日だ!カレンダーにメモしとかなきゃ」

「ふむっ、せっかく誕生日が決まったんだし、今年のジョナサンの誕生日に合わせて御猫様の誕生日も一緒に祝うのはどうだろう?今までの分を込めて盛大にしようと思うのだが」

「賛成!!父さんにしては素晴らしい案だよ!」

「……こうしちゃおれんな。どっかのジョナサンに負けないように、御猫様の誕生日プレゼントを用意しなければ!」

「名指しはやめてよ。でも、そうだね!僕も父さんに負けないプレゼントを見繕わなければ!」

「小遣いはやらんぞ」

「ホンット大人ってえげつない」

「一銭もやらんぞ」

「……マジで?」


台風のような親子はまた言い合いをしながら部屋から出て行った。色々とツッコミたいことがあるけど、ジョナサンが誕生日を決めてくれたことが嬉しくて、口がニヤニヤしてしまう。

2月22日が御猫様の誕生日。ニャンニャンニャンの日。忘れっぽい私でもずっと覚えていられる数字。ジョナサンが誕生日をプレゼントしてくれた。理由はアレだけど、ジョナサンがくれたのだ。嬉しくないはずないじゃないか!


『ニャハハ、照れるにゃ!』


ならば次のジョナサンの誕生日は、このお礼も含めてプレゼントしよう。ちゃんと心を込めて。……私の想いが届くように。

ってことで、誕生日当日。今年のプレゼントは、ジョナサンからのリクエストで、御猫様特製手作りケーキです!

このケーキを作るためにジョージのコネを使って、某有名店のパティシエの方に教わりました。基本的に御猫様は器用だからチョチョイのチョイです。

でも、ケーキだけじゃ味気ないので、お高めの万年筆も一緒に渡すことに。いつもながらのハイテンションで喜んでくれてコッチも嬉しくなりました。


『ジョナサン、誕生日おめでとう!』

「ありがとう、御猫様!キミと夫婦に『あれ!?あそこにいるのはロリコンのトムさんだ!』……んー……そうくるかー……」

『トムさん、何でここにいるの?警察呼ばれたいの?人生終わらせたいの?そっか、死にたいんだね!』

「……お、御猫様が……純白のドレスを着て……うわあああ!!天使だ!皆の者、ここに天使様が降臨なされてるぞー!!」

「「「「うわあああ!!御猫様天使過ぎてもう死にたいィィイイ!!」」」」

「ウソだろ、あんなオッサン達に持ってかれるとかサイテーな誕生日だ。あまりのショックで万年筆が武器と化しそう」


今回の誕生日パーティーは来客が多い。何でも御猫様の誕生日も合わせて……という裏情報を聞きつけたロリコン共が集まってしまったらしい。

もはや誰の誕生日か分からないけど、外面の良さを発揮して、ジョージと一緒に挨拶回り。これぞ御猫様のお仕事である。


「ど、どうです?是非ともうちの息子と縁談でも!嫁も私も猫好きでしてね〜」

「いやいや、まだ早いですよ。まだ子供です」

『早いとかじゃなくて嫌だよ、この人ハゲてんじゃん。ってことはハゲの遺伝子を受け継いだ息子でしょ?ムリムリ、セックス中にハゲてる頭を見て笑わない自信が全くないもん』

「セッ……セッ……セッ……くぅぅっ!!どうかこのハゲめと結婚して下さい!!」

「『おい、息子と嫁はどうした』」


ワイワイガヤガヤヒューヒューと騒いでパーティを楽しむ。飲んで食べて踊ってハゲとオッサンとロリコン共を罵って、さすがに飽きたのでバルコニーに出て少し休憩することに。

バルコニーにある椅子に腰掛けてボケーッとしてると、ジョナサンが声を掛けてきた。


「お疲れ様。今日も中々の毒舌っぷりだったね」

『毒舌じゃないよ。嫌われても構わない人達だから、心の底から思った素直な意見を述べてるだけなの』

「あの人達も大概だよ。変態過ぎて気持ちが悪い。御猫様は僕の御猫様だっていうのに無駄なアプローチしてバカみたいだ」

『うん!御猫様はジョナサンの御猫様だもんね!』

「こんなツマラナイ所なんて抜け出して僕と一緒にデートしようか。っていっても、屋根の上なんだけど」

『喜んでー!!』


屋根の上でもデートはデートだ。ジョナサンと一緒に居られるだけでも嬉しいってのに!

ニマニマしながら立ち上がると、ジョナサンは私を背負った。バルコニーの壁から屋根を目指すらしい。

人類最強の御猫様のパワーを使えば、ジョナサンを担いで屋根まで登るなんて朝飯前だ。でも、今回はジョナサンの男気に任せるのが正解だと思う。

だから、落ちないように……というか、ここぞとばかりにぎゅっと抱きついて、ジョナサンの首に顔を埋めた。

大好きな匂いが鼻を掠める。変態臭いし恥ずかしいけど、それをいっぱい吸い込んで記憶に焼き付けた。何でだろう、普段忘れっぽいけど、これは忘れちゃダメだと思ったんだ。


「(何で匂い嗅いでるの!?ってか……唇が当たってるッ!?柔らかい唇が……うっ、うわあああ!!僕の理性を試すような真似は止めてくれー!!)」

『……この匂い、……大好き』

「(……え?……本体の僕は?……匂いだけ?……そっかぁ、……そーくるかー……)」


想いのすれ違いが起きてることに気づかないまま屋根の上に到着。

ジョナサンはテキトーな場所に胡座をかいて座った。その隣に座ろうとすると、ポンポンと太ももを叩いた。何やらドレスが汚れるといけないからこの上に座れってことらしい。


『でも、……足、キツくない?』

「キミの素敵なドレスが汚れるより全然いいよ。ほら、早く座って。……キミにプレゼントがあるんだ」

『……うん……』


好きな人にデートに誘われるし、好きな人の足に乗るとか今日は幸せか!って、ドギマギしながらも、せっかくのチャンスだから勇気を振り絞ってジョナサンの上に座った。

向き合う勇気は無かったからジョナサンに背中を向けて……だけど、後ろからぎゅっとしてきたジョナサンに心臓が破裂しそうだった。

しかも!首に顔を埋めて!クンクンって匂い嗅いで!気のせいでなければ唇が当たってるッ!柔らかい唇が……うわあああ!!


「(ナニコレ超イイ匂い!キャンディーの匂いがする!もう食べちゃいたい!ど、どうしよう!食べてイイ!?もうガブッて食べてイイ!?)」

『……えっと、……プレゼントは何?楽しみだな!』

「(またお預けかぁ、食べたかったのに残念)」


恥ずかしさを誤魔化すように問いかけるとやっと首から顔を離してくれた。


「……そろそろ時間かな。……空を見てて」

『空?』


顔を上げるといつもと変わらない星空が目に映った。だから何だよってツッコミをいれようと口を開きかけた時、スゥッと空に流れ星が。


『……あ、……ああ!!』


それも一個とかじゃなくて、個数なんて分からないくらい、沢山の星が真っ暗な空に流れてる。

もっとカワイイ反応すれば良かった!っていう反省は後でするとして、今はこの素晴らしい景色を目に焼き付けないと!


「今日は流星群が見れるって聞いたから……プレゼントになるか分かんないけど、これが僕のプレゼントだよ!」

『すっっっごく素敵!流れ星がいっぱいだから願い事し放題!素敵なプレゼント、ありがとう!』

「何を願うの?」

『んー……、またこうやって……来年も!その先も!ずっとずっと!ジョナサンと一緒に流れ星が見たいです、ってお願いしてみるね!』

「そんなの僕が叶えてあげるから他のお願い事にしなよ」

『……お、おおう』


サラッととんでもねえ事を言ってのけたジョナサンにポンッと顔を熱くさせてしまった。

だってそれってずっと一緒に居るってことで……あれ、実は両想い?あれれ?私が思ってる以上に上手くいってる感じ?これってこのまま好きって伝えたら……なーんて、恥ずかしくて言えないけど!

でも、本当に今の願い事を叶えてくれるんなら何を願おう。今の私の願いなんて、ジョナサンと一緒に居られることを願うので精一杯なのに。


『……本当に、……綺麗だね』


願い事を考えてる間にも、沢山の星が流れていく。何かしないと勿体無いけど何も浮かばなくて、流れる運命の星をじっと見つめていた。


「……さむー……あっためてー……」


つむじに顎を乗せてギューッと抱きついてきたジョナサンにクスクス笑った。


『……あ、そうだ!』


ジョナサンのあったかい温もりに包まれて考えた願いは本当にしょーもなくて、これは言えたもんじゃないなと自分自身に笑ってしまった。


「どうしたの?」

『んー……本当に叶えたい願い事は人に言っちゃダメって事を思い出したの』

「ええ!!?」

『だからこうやって目を閉じて心の中でお願い事をするの。【運命の人が現れますように】って』

「いや、言っちゃってるよ!?一番叶えなきゃいけない願い事が駄々漏れだよ!?」

『あらほんと』

「じゃ、じゃあ、今の願い事を訂正するって事を、僕は願う!」

『……何か……そうなってくると有り難みが無くなっちゃうね』

「……まぁ、……そだね」

『……流れ星がなくても……また来年も一緒に星空を見ようね!』

「もちろん!」


また黙って二人で流れ星を見た。何だかグダグタになっちゃったけど、今日という日は幸せだ。

好きな人に誕生日をもらって、好きな人と誕生日をお祝いして、好きな人のプレゼントが流星群だなんて、こんなの死ぬほど嬉しいに決まってる。

まぁ、星に祈って願いが叶うかどうかなんて分からないし、願いを叶えるなんて本人の努力次第なんだろうけど、少しでもこの想いが届くように、


『(両想いになりますように)』

「(想いが通じますように)」


沢山の流れ星が流れる中、本当に叶えたい願い事を心の中で呟いた。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ