番外編/短編/過去拍手文/

□ライオン化
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ディオ討伐を終えて、御猫様チームも上手いこと起動に乗り出した。

たまにある演習で御猫様の威厳を、どこぞの進撃や、どこぞの幼女戦記の如く撒き散らし、御猫様の地位を確実なものにした。もはやその貫禄足るや……すみません、嘘つきました。今もただのプリチーな御猫様です。


『にゃんにゃー、にゃにゃんにゃー』


鼻唄歌いながら今日も元気に空条邸をウロウロ。御猫様は暇なのだ。

承太郎さんはベンキョーがどーたら言って相手にしてくれない。ホリィさんは承太郎パパとデートで留守だ。

そういえば、承太郎パパはジョージと同じくらいアレなキャラだった。大のネコ好きらしく、「ああああああ!!?ホリィィィ!!ネコが!ネコちゃんがーッ!!」と初対面で絶叫されて写真を大量に撮られた。あの時の承太郎さんの何ともいない表情は忘れまい。

それよりも今はこの時間をどう潰すかが問題だ。あの地獄のような真っ白空間から解放されたんだもの、色とりどりの景色を楽しみたい。

でも勝手に散歩すると承太郎さんに、「そんなに俺と離れたいのか?」とか「俺が嫌いだから約束を守らねーのか?」とかネチネチ言われてメンドーなことになるのは確実。散歩して遊びたいだけなのに……ベンキョーの息抜きで散歩にでも誘おうかしら。いいね、それ!そうしよう!


『じょーたろーさーん!!』


大声で叫びながら部屋に戻れば、くそ分厚い本片手にラジオを聴いてた。しかもゴロリと寝転んで。


『ベンキョーしてないじゃん!』

「してるぜ」

『これのどこがベンキョースタイルなの?』

「一通り読めば暗記出来る」

『なんと!天才肌!じゃあ、散歩行こう!』

「問題デス、俺は今何をしているデショウカ?」

『ベンキョー!でも、一通り読めば暗記出来る天才なんでしょ?散歩くらいしても大丈夫!』

「シッシッ、一人で遊んでろ」


ネコを追い払うかのような態度にムッとしちゃいますが、ここで引いたら散歩に行けない。だからうつ伏せに寝てる承太郎さんの腰に乗ってオネダリ開始した。


『行こうよ〜、ベンキョーしなくても合格出来るって〜』

「ほーう、お前を養うための努力をしてる俺の邪魔をするってワケか。ならば努力するのをやめよう。この日が原因で無職のダメ男になったら全てお前のせいだ」

『ごめんなさい』

「分かればいい」


マジで邪魔するなってことだから大人しく部屋に居ることに。承太郎さんの隣に腰掛けてブラシを手にしたら、承太郎さんはノソノソ起きて代わりにブラッシングを始めた。


『ベンキョーは?』

「これは俺の仕事だ」

『そうなの?』

「そうだぜ。つーか、マメにブラッシングしてもすぐに毛玉が出来るな」

『ネコっ毛でふわふわだからね〜』

「刈るか」

『この悪魔ーっ!!』


恐ろしいことを言った承太郎さんからソッコー離れて、ふわふわの尻尾を隠すように抱きしめた。


『にゃんてこと言うにゃ!これは自慢の尻尾にゃ!』

「手入れが面倒だ」

『お前の都合かにゃ!?だったら手入れは自分でするにゃ!』

「手入れは俺の仕事だって言ってんだろ」

『だったら刈らずに責任持って手入れしろにゃ!』

「それが面倒だって言ってんだよ、人の話を聞けよ」

『お前が聞けよ、ネコの話を!!』


あまりにも話が噛み合わないからフゥーッと威嚇した。承太郎さんはやれやれと言わんばかりのため息を吐いて、紙とペンを用意して何かを書き始めた。その紙にはこう書いてあった。

【尻尾の毛に伴うデメリットについて】
1、抜け毛が風呂場の排水口にたまりやすい。→掃除が面倒。
2、抜け毛のせいで部屋、主にベッドが毛だらけ。→不衛生。掃除が面倒。
3、抜け毛が服につく。→コロコロが面倒。
4、風呂の時、浴槽に毛が浮く。→詰まる原因。掃除が面倒。
5、風呂上がりの濡れた尻尾が中々乾かない。→乾かすのが面倒。これが原因でセックスまでの待ち時間が長い。
6、ブラッシング時、抜け毛が舞い散って、手や服、部屋が汚れる。→掃除が面倒。
7、もはやデメリットしかない


『お前もうネコを飼う資格がにゃいにゃよ!!?』


承太郎さんの珍回答に叫ばずにはいられなかった。でも、承太郎さんは私に紙とペンを渡してきた。


「次はお前の番だ。その尻尾のメリットを教えてくれ。納得いくメリットだったら刈るのをやめる」


これは書くまで諦めないパターンなので、紙とペンを受け取り、【尻尾の毛に伴うメリット】を書いていった。

【尻尾の毛に伴うメリット】
1、ふわふわで癒される
2、ふわふわでかわいい
3、ふわふわでサイコー
4、ふわふわで幸せ
5、幸せ過ぎて萌え
6、みんな幸せ萌え
7、つまり、みんなが幸せな世界


「これで納得出来た方が奇跡だぜ。はい、刈るの決定。こんなこともあろうかとペット用バリカンとハサミを用意していて正解だったぜ」

『元から刈る気満々じゃあねーか!』


まったく意味の無かったメリットデメリット談義だった。


『絶対にイヤ!これは自慢の尻尾なの!何で酷いことするの!?こんなことする承太郎なんて大嫌い!』


これはさすがに横暴すぎる。だから怒ってそう言えば、承太郎さんは心なしかシュンと落ち込んで、一冊の本を渡してきた。ネコの専門雑誌だ。付箋がしてあるページを捲ると、一匹のネコの全身写真が載ってあった。

超かわいいニャンコ。名をノルウェージャンフォレストキャットという。長毛でふわふわなハズなんだけど、ふわふわの毛が無かった。いや、あるにはあるけど、尻尾の先の毛以外が無いって感じだ。……だから何だって感じなんだし、この写真のニャンコと私の尻尾の関連性がないんだけど。

承太郎さんの伝えたいことが分からなくてチラチラ目をやると、今度は質問をしてきた。


「ライオン好きか?」

『うん、好きだよ。ネコ科の王様、超リスペクト。強くてカッコイイ。ハーレムサイコー。真似したい』

「この尻尾にしたらお前の好きなライオンになれるぜ」

『にゃんで?』

「その尻尾をライオンみてーにするだけでアラ不思議。ライオン様に早変り」

『にゃっ!!!?』


もう一度写真を確認すると確かにライオンの尻尾みたいになってる。次に自分の尻尾を確認した。ただのネコの尻尾だ。

これがライオンになる。つまり、ネコの尻尾でネコだと判断される御猫様がライオンの尻尾になれば……尊敬するライオン様に大変身ンンン!!?


『ナニソレやりたい!刈る刈る!御猫様辞めてライオン様になる!』

「ほら、ここに座れ」


承太郎さんはレジャーシートを敷いた。その上に座ると、バリカンのスイッチをオンにしてヴィィィッと刈り始めた。


『出来るの?』

「天才をなめるんじゃあねえ。スッゲー可愛くしてやるぜ」

『楽しみだな!ライオン!』

「お前なら子ライオンだな」

『えー!!大人ライオンがいい!』

「尻尾動かすなよ」

『はーい!!ヽ(*´∀`)ノ♪』


御猫様は出世してライオン様になったのだー!って、ホリィさんとパパに見せてやろう。あと写真を撮ってジョセフに送って……ジョナサンのリアクションも楽しみだ。

ルンルン気分で毛を刈り終えるのを待ってたら、「出来たぜ」と。ワクワクしながら尻尾を確認すると、ライオンの尻尾になってた!しかもイラストとかでみる三角形風なやつ!


『きゃー、御猫様ってばライオン様に大変身!!』

「初めてにしては上出来だな。やれやれ、自分の才能とセンスが恐ろしいぜ」


シュタッと立ち上がって尻尾をフリフリ動かしてみた。どっからどうみてもライオンだ。私の超リスペクトしてるライオン様と同じだ。

あまりにも嬉しくて後片付けしてる承太郎さんにポーズ付きで声を掛けた。どんなポーズなのかは想像にお任せだ。


『ガオー!!』

「……」

『ライオン様だぞ!』

「……あー……あー……あああ……あああ……」


何故か顔を手で覆って唸りだした。どうした?と声を掛けようとしたら、スゥッとモヤった何かが現れた。ジョナサンだ!


ー「やぁ、おはよう、御猫様!今日もとても可愛い……あれ?何か今日の御猫様、いつもと違うね。何だろう、何……し、しししし尻尾がッ!?御猫様の尻尾がライオン仕様になっている!!?」ー

『ガオー!!』

ー「う……うう……うわああああ!!ナニコレ超可愛いィィ!!可愛すぎてヤバイ!ライオンになった御猫様ヤバイ!なんてことをッ!承太郎くん、キミはなんてことをしてくれたんだァァアア!!」ー

「これについては俺も反省してる。こいつのライオン化は絶対にやっちゃいけねーことだったのだ!クソッ、いつ誘拐されてもおかしくないぜ!!」


何かがヒートアップしてる二人をポケーと眺めてると、タイミングよくホリィさんとパパが帰ってきた。

すぐに走り出すと、「待て!お前はここにいろ!親父を殺す気か!」と承太郎さんが追い掛けてきた。

それをシカトして玄関まで行くと、二人はいつもの笑顔で「「ただいま」」と。ライオンになったことを報告しようと、尻尾をチラチラ見せながらポーズをした。


『ガオー!!』

「……尻尾が……ホリィ……空条家の家宝であるネコちゃんの尻尾が……」

「キャー、超可愛いィィ!御猫様がライオン化してるぅ!写真と動画撮らなきゃ!ああん、もう一回やってみて!ガオーって!」

『ライオン様だぞ、ガオー!!』

「……はぅ……」

「あなた!!?」

「……言わんこっちゃねぇ……」


パパが倒れてしまった。ライオン様の威嚇ボイスにこんなパワーが秘められていたとは思いもしなかった。でも、ここまで皆のリアクションがいいと楽しいぜ。


『ガオー!!』

「この可愛さ、もはや神様だ。ライオンの神様だ。もうわたしはライオン無しで生きることは出来ないよ」

「ハイハイ、あなたもライオン様の虜ってワケね〜」

『ガンプラ買ってガオー!!』

「おーよしよし、かわいいね、パパが何でも買ってあげるよ〜、明日は一緒にショッピングに行こうね〜」

『やったーヽ(*´∀`*)ノ』

「「いや、仕事は?」」


ってことで、ライオン化した数日の間、ライオン様になって騒ぐ皆(主にパパ)をからかって遊んで好き放題してた。でも、やり過ぎてしまったらしく、承太郎さんから禁止令を出されてしまった。

元を辿れば承太郎さんが持ち掛けてきた話なのに!やっと憧れのライオン様に出世したのに!やっと好き放題しても絶対に怒られないポジジョンを手に入れたのに!こんなの酷い!!


「ライオン化は禁止」

『何で!!?』

「ライオンよりネコ派」

『はい、ウソー!!ネコの時とデレ度が違うもん!そのくらいわかります〜』

「……お前とのスキンシップ(ブラッシング)を楽しみたい。あれは俺にとって幸せな時間だった」

『……ライオンの方がワガママ出来るからイヤだ!』

「俺がおまえをとことん甘やかしてやるからネコに戻れ」

『……ホント?』

「ネコでも大好きだぜ、お前のこと」

『にゃー!!承太郎さんからのお願いなら仕方にゃいにゃ!御猫様復活にゃー!』


こうして、御猫様のライオン化は終わりを迎えました。今後この先ライオン様になることは無いと思います。

ですが、私は知ってます。この時のライオン化御猫様の奇跡の写真を手帳に挟んでたまにニヤニヤしながら眺めてる二人のことを。

今度はワガママを自重して、ライオン好きの二人をからかって遊ぶのはアリかもしれません。
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