番外編/短編/過去拍手文/

□御猫様の恋の駆け引き事件簿〜シリーズ6〜
7ページ/10ページ

ホテルに戻ってきました。部屋に入るなり承太郎さんは私を抱き上げて、さも当然のようにベッドへ押し倒してきました。

これはマズイと、寝返りを打ってゴロゴロ転がって逃げようとする前に、承太郎さんの逞しい腕が首に巻き付きついて、そのままゴロンっと寝転びました。

ヘッドロック決められてドキドキ。後ろから密着されてドキドキ。今からの流れにドキドキ。3つのドキドキが合わさる中、承太郎さんが声を発しました。


「さて、話し合いの続きといこうぜ」

『ぬふぅん』


話し合いも何もこれは脅しです。承太郎さんの意にそぐわない時は首を絞められちゃう感じです。しかし、痛いとキモチイイの間の絶妙なパワーで絞めてくる辺りがさすがです。テクニシャンです。


「契約の破棄はさせん。もちろん全ての契約のな」

『ぬぬぅ!?』

「そもそも、お前は俺の奴隷だろ?ご主人様の言うことは絶対、拾ってやった恩を忘れたのか?」

『…ぬぅ…』


それを言われるとぐうの音も出ません。承太郎さんの奴隷になることで衣食住を保証してもらえたのです。

もし奴隷契約を破棄しようもんなら、「俺が買ってやった服を脱げ。じゃあ、裸一貫で頑張ってクダサイネ」って言って、裸一貫で追い出すに決まってます。コッチの承太郎さんはそんなやつです。結果的に全ての契約に従うしかないとか……おお、恐ろしいご主人様じゃ。恐ろしくて震えてしまう。

でも、しょうがないです。衣食住の確保は大切だし、捨てられても困る。生き抜くためだもの。これは浮気じゃありません。無理矢理です。私の意思ではありません。

アッチの承太郎さん、哀れなネコをお許し下さい。コッチの承太郎さんにハメられてハメられちゃいますけど、私は悪くないのです。悪いのは、サイテーなシタゴコロをお持ちのコッチの承太郎さんであって、私は無実です。この人の脅しでこうなってしまったのです。でも、御猫様は何一つ悪くないけど先に謝ります。スミマセンッシタァァアアア!!


『ぬぬぅ、ぬぬ!』


答えが出たので、承太郎さんの腕をとんとん叩いたら、腕を緩めてくれました。


『いいです、分かりました!ご主人様の命令は絶対。奴隷は貴方に尽くします!』

「……やけにあっさり引くんだな。もっと粘るかと思ったんだが」

『粘っても意味ないじゃん。どーせイエスって言うまでヘッドロックするくせに』

「俺のことをよく分かってんじゃあねーか。エライ、エライ。褒めてやろう」

『どーもありがとうございます』

「ヨシヨシ、ヨシヨシ」


今度は何のスイッチが入ったのか、承太郎さんはゆるいヘッドロックをしたまま、頭に頬スリしてきました。まるでネコを愛でてるデレデレエロオヤジのようです。

しかし、ステップ3とステップ4がまさかの大失敗。片想い相手なら大成功で既成事実万歳なんでしょうけど、事情が事情ですので大失敗です。やり過ぎました。

それに関しては、もうこれ以上掘り下げてもしょうがないので、気を取り直して次のステップにいきましょう。【ステップ5、彼の趣味や関心事に共感してあげる】と【ステップ6、悩みを相談する】です。

はいきたこれ超簡単。何も考えなくてもすぐにクリアしちゃうやつですね。いつもと同じパターンで即キメちゃいますよ。


『承太郎さんは、ロリ系ネコ耳っ子マニアヤンデレストーカー変態エロオヤジ、略してロリキングなんでしょ?』

「あ?」

『ぐええ!!?ずみまぜん!!』


首に巻き付いてる腕がグッと絞まって、私が即キメされちゃいました。はいきたこれ超簡単って思ってたステップ5は言葉選びに気を付けないとダメみたいです。気を取り直してテイク2。


『コッチの承太郎さんはロリ系ネコ耳っ子マニアの性格ひん曲がった陰湿変態ドSですよね?やっぱり趣味や関心事は、女の子捕まえて奴隷にすることですか?』

「お前は俺のことをそんな風に見てたのか」

『え、え?違うの?』

「違うだろ、どう見ても」


どこがどう違うのか全く分かりません。初対面で奴隷契約を持ち掛けてきた辺りで変態さんです。それ以外の何者でもありません。でも、本人が違うというのなら仕方ないですね。コッチの承太郎さんは認める勇気がないのでしょう。


『じゃあ、…………超男前の超イケメン変態さん、何でそんなに奴隷にこだわるの?超怖いんだけど』

「…………それでオブラートに包んで言ったつもりか」

『にゃふぅ!?』


ヘッドロックから一転、脇下やら横腹をくすぐってきました。くすぐったくて、『ニャハハハ!』言いながら身を捩って、迫りくるくすぐり攻撃から逃げようとしても、承太郎さんの手は攻撃を止めません。


『ニャハハ!もう、か、勘弁にゃ!降参にゃ!死ぬ、くすぐったくて死ぬにゃ!』

「いっそ殺してやろうか。そしたらアホな脳みそもを少しは賢くなるんじゃねーか」

『なるわけにゃいにゃ!そんなんで賢くなる脳みそにゃら、もうすでに賢くなってるにゃ!』

「それもそうだな。自分でよく分かってんじゃあねーか。エライ、エライ」

『にゃん』


嬉しくないけど褒められました。くすぐるのを止めた承太郎さんは、今度は後ろから抱きついて私の手を握ってきました。後頭部に頬スリして、チュッとキスをして、甘えたモード突入です。

アッチの承太郎さんもよくしますが、これをするようになったのは、付き合って1年くらいです。昨日知り合ったばっかりのネコに甘えるなんて、コッチの承太郎さんはアッチの承太郎さんよりも甘えん坊なのかもしれません。

でも、甘えん坊な承太郎さんは嫌いじゃないです。威厳プンプン威風堂々な姿も大好きですが、この姿は御猫様限定。そう思うと、とっても愛おしいって思います。

甘える承太郎さんをニコニコ笑顔で受け入れて、繋いである手をギュッと握り返しました。皮が厚くゴツゴツしてて、自分の手と全然違う柔らかさ。男の人の手。それが自分の手を覆うように握ってくれてる。守られてるみたですごく安心します。

ニコニコ笑顔で手を繋ぎ合ってムギュムギュしてたら、承太郎さんがとんでもねえ爆弾を落としてきました。


「奴隷が欲しいワケじゃねぇ。……お前が欲しい。お前以外に興味がない」

『……』

「……ずっとお前に会いたかった。……こうやって触れて、……こうやって抱きしめたかった」


ガラにもない言葉&アッチの承太郎さんからじゃ滅多に聞けない言葉に、スッゲードキドキ。気のせいでなければ告白されたみたいです。

イエーイ、恋の駆け引き大成功!恋愛マスターは伊達じゃねぇってドヤ顔で喜べたらいいんですが、なんせコッチとアッチは別人。アッチに告白されるなら笑顔で受け入れてますが、コッチに告白されたところで返事に困ります。

ここは知らぬ存ぜぬで押し通そう。触れちゃいけない話題でもあるし、掘り下げたところでお互いに良いことないやつ。知らん顔が1番。大人の対応でいきましょう。


『……ああっと、……そういえば!悩みがあるの!聞いてくれる?』


今の告白を誤魔化すために【ステップ6、悩みを相談する】を発動。誤魔化しながら駆け引き続行とか御猫様賢すぎてもう!ってウハウハしてたけど、

「お前のためなら何だってしてやる」

と、承太郎さんの一言である意味御用。でも大人の対応で知らぬ存ぜぬ戦法を貫きましょう。


『えっと、……尻尾の毛がよく絡むの!』

「俺が毎日ブラッシングしてやる。だからここに居ろ」

『……あー……オムライスが理想通りのふわとろにならなくて……』

「お前の飯は世界で1番うまい、毎日食わせろ」

『…………ジョナサンが戻って来ない……』

「俺以外の野郎のことなんか忘れろ」


知らぬ存ぜぬでいきたくても何故か掘り下げたくないネタが戻ってきます。でも、何回やっても戻ってきそう&一応悩みを相談したので、もうこれでステップ6はクリアってことにしましょう。

次はステップ7とステップ8。着実とクリアしていってますね。コッチの承太郎さんでこんな感じなら、アッチの承太郎さんでやると、もっとすげえことになるかも。今度帰ってきたらやってみよう。今よりメロメロにしたらもっと小まめに帰ってきてくれるはず!

しかし、あの放浪癖というか、研究熱心過ぎて放置はやめてほしいです。旦那留守で元気がいいのが1番ですけど、せめて1年に1回、誕生日かクリスマスかお正月のどれかは帰って来てほしい。さすがの御猫様もここまでくると承太郎さん不足です。


『はぁ』


アッチの承太郎さんを思い出したらため息が出ちゃいました。


「まだ悩みがあるのか?」

『……アッチの承太郎さんが家に帰ってこないの』

「仕事だろ」

『うん、でも……寂しいなぁって。海洋生物研究する前に、ネコの気持ちを研究するべきだと思うの。このまま放置すると旦那様ポジションをジョナサンに盗られるんだからね!』


コッチの承太郎さんに言ったってどうしようもないのに、1回出た愚痴は止まることなくボロボロ溢れてしまいます。だからコッチの承太郎さんにグチグチ言って、結果的に一緒に居ないから寂しいってことに気づいて、でもそれは無理な話で。

やっぱり解決しない悩みにまた『はぁ』とため息を吐いたら、黙って聞いてた承太郎さんがひと言。


「じゃあ、俺と一緒にいようぜ。それでいいだろ?」


何もいいこたないし、掘り下げたくないネタがいきなり返ってきました。愚痴るとこうなるものなの?何でそんなに掘り下げてくるの?って考えがまとまるより先に、承太郎さんの手が顎を掴んで。

こっち向けって言わんばかりにグッと力を入れてきて。それに従って承太郎さんの方を向くと、やっぱりバチっと目が合っちゃいまして。

アッチの承太郎さんと同じ瞳、ジッと真剣に見つめてくる瞳、こんなにも真っ直ぐ見つめられると、絶対に拒否なんて出来ないけど、珍しく冷静にキリッとした表情で向き合いました。

めっちゃ流されそうだけど絶対に流されちゃダメだ。ちゃんと想いに向き合って、ちゃんとお断りしないと。空気は悪くなるかもだけど、もう少しでジョナサンが復活するはず。それまでの辛抱。大丈夫、空気は死んでも私は死なない!

意を決して口を開く。珍しくキリッとしてる私が言葉を発する前に、やけに真剣な顔付きの承太郎さんが言いました。


「一緒に風呂入ろうぜ」

『まだキリってる途中でしょうが!!』


怒らずにいられませんでした。


☆今回の教訓☆
【ステップ5、彼の趣味や関心事に共感してあげる】
→とんでもねえ爆弾に要注意。
【ステップ6、悩みを相談する】
→人の悩みはいつになったら尽きるのか、尽きないからこそ人は生を尊ぶのか。悩みがない人生は、砂糖が入ってないプリンのようだ。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ