番外編/短編/過去拍手文/

□御猫様の恋の駆け引き事件簿〜シリーズ6〜
8ページ/10ページ

『ハァ……ハァ……ッ、……もう……ムリ……』


荒い息がバスルームに響いてます。先に言っておきます。ヤラシーことは一切してません。

只今クッソ熱いお湯に浸かってます。もう本当に熱いです。全身から汗がダラダラと出て止まりません。

不本意です。

後ろから張り付いてる承太郎さんの足の間に体育座り。承太郎さんの手が私の膝辺りで組まれてます。包み込まれる体勢の時点でお察しです。コイツ逃がす気ゼロだ。

本当に不本意です。

あのあと、『一緒にお風呂とかムリ』って言ってトイレに逃げようとしました。でも捕獲されて強引に服を脱がされました。レイプ紛いなことをされてプンスカ怒る私に承太郎さんは言いました。


「主人の命令に背くってことは、解雇ってことでいいんだな。逃げるならドウゾご自由に。ただし、買ってやった服は返してもらうぜ」


ああもう!言わんこっちゃない!そうくるって思ってた!って感じだったので、色々と諦めました。

かなり不本意です。

超ゴキゲンな承太郎さんは超フキゲンな裸の私を担ぎ上げてバスルームへ。シャンプーされたり、身体を洗われたり、若干R指定入りそうなギリギリきわどいところを触られつつ、クッソ熱いお湯に入れられました。

これが今の不本意な状況です。

裸で恥ずかしい、キャーッ!とかどうでもいいの。めっちゃ熱いの。もう本当に熱くてヤバイの。熱いお湯苦手なのに、ここまで熱いと頭がモワモワするの。

今すぐ出たい。頭から水を被って身体を冷やしたい。冷たい水を飲みたい。コイツはっ倒したい。そうだ、コイツ倒してお風呂から出よう。初めて拳を上げることになるけど、仕方ないと思うの。だってこのままじゃ、私が殺されるもの。お風呂で気絶しちゃいそうだもの。


『……ッ……ハァ……すまぬぅ……』


そうと決まればってことで、一応謝罪をしながら拳をギュッと握りしめました。犯行がバレたのか、拳を握られました。


「そういえば、次のステップは【愚痴を聞いてあげる】だったな。俺のグチでも聞いてもらおうか」

『……ハァ……ハァ……』


恋の駆け引きなんてどうでもいいです。それよりも命の危険が迫ってます。


「ステップ8までやりきったら解放してやる。ちなみに冷蔵庫の中にキンキンに冷えたマタタビ入ってるぜ」

『んにゃう!……ハァ……ハァ……』


そうと分かれば話は早い。さっさとステップクリアしてキンキンに冷えたマタタビ飲んでやる!さぁ、来い!貴様のグチを全て受け止めてやるぜ!


「お互いハジメテ裸を見せ合ってるっつーのに平然としてるお前の態度が気に入らねえ。どこ触っても拒否しない、受け入れるがまま、誰にでもそうなのか?いや、そうに違いないぜ。お前は男の前だというのに無防備過ぎる。服を脱がされても大した反抗も見せないで、ほんの少し怒る程度。あんなもんで抵抗したなんて言わないんだぜ。もっと暴れろ。殺す勢いで殺れ。おっと、結果的に殺すことになっちまうが、まぁ、俺以外の野郎には殺るくらいの気持ちが丁度いいだろう。今度からは手加減なしで殺れよ。ったく、お前はすぐに誰彼構わず信用するからな。俺が居ない時は人間を信用するなと、いつも言ってるだろ。何でそれをすぐに忘れるんだ。そもそもパラレルワールド設定を信じるとか正真正銘のバカか、お前。いや、正真正銘のバカは言い過ぎかな。さしずめ可愛いバカネコってところか。ああもうここまで無防備無警戒だと今後が心配だぜ。いっそのことずっと一緒にいるべきかもしれんな。俺の仕事についてきてくれたら俺が守ってやれるし、安心安全間違いなしなんだが。いいな、それ。そうしようぜ。ある程度の学歴やら資格やら色々と必要なもんはあるが、俺が付きっきりでみっちり教えてやる。そうと決まれば、まずは引っ越しだ」


お経でも読んでんの?ってツッコミたくなるくらいグチグチブツブツ言ってる承太郎さん。コッチの承太郎さんはよく喋るといいますか、よくグチる方なんですね。そりゃアッチの承太郎さんもたまに壊れちゃう時もありますけど、ここまで酷く……アリマスネ。同じくらい酷いもんでした。

ってか、そもそも私が人のグチを大人しく聞くわけないじゃんって話です。人のグチなんて、勝手に言わせとけば勝手に直る、そんなもんなんです。

それに今のこの苦行を乗り越えれば、キンキンに冷えたマタタビが手に入る。ここが踏ん張り所です。頑張ります!


『ソーデスネ』


終わることないグチグチブツブツを右から左に受け流し、ボケーッと天井を見上げながら、熱さと吹き出てくる汗と格闘してました。


『んひゃう!!?』


ガブリッと肩を噛まれてしまいました。


「話聞いてないだろ」


テキトーに相づち打って誤魔化してたのに態度まで隠せなかったようです。これは失敬失敬。あまりの熱さに演技力が低下してたのですね。以後、気をつけます。

でも、せっかくのタイミングなので今のグチグチブツブツの流れを断ち切ろうと思います。これ以上はムリなんです。早くお風呂上がりたいです。


『つーか、まだグチるの?グチ多くない?アッチの承太郎さんと同じでコッチの承太郎さんも色々と溜まってんの?プークスクス、グチる男はモテないぞ!アッチの承太郎さんを見習えたまえ』


なるべく軽いノリでふざけた感じで言ったんですけど、「あ?」の一言で色々と諦めました。


「……まぁ、いいぜ。俺の話は、まったく、微塵も、一語たりとも聞いてなかったみたいだが、ステップ7はクリアってことにしてやろう。ほら、礼を言え。アリガトウゴザイマスって言えよ、この可愛らしいタコネコめ」


ガシッと頬っぺたを掴んできたせいで御猫様のプリチーなオクチがタコクチになってしまいました。何でお礼言わなきゃならないの?って言ってやりたいところですが、我慢です。ここは大人しく従うが吉。コイツが寝てる時に仕返ししてやりましょう。


『アリガトウゴザイマス』

「……さて、この調子で次のステップにいくか。残り一つでマタタビ。やれそうか?」

『ガンバリマス』

「次のステップは【積極的にボディタッチをする】。さてさて、おまちかねのスキンシップといきますか」

『………………セクハラァァアア!!?』


とんでもねえ流れに気づいてビックリした私は承太郎さんから逃げようと、前へ踏み出しました。勢い余って滑ってしまいました。

本来なら顔面がそのままお湯の中へって感じなんですが、たまたま伸ばした手が壁についてたおかげで助かりました。まぁ、壁に手をついて四つん這いに見えなくもない今の格好の方がヤバイですけどね。

これ以上ハレンチな姿を見せるわけにもいかないので、体勢を変えつつ、ススゥッと前へ進み、浴槽の端でまた体育座りしました。

でも、離れることによって、セクハラ許すまじ!アピールをしてるにも関わらず、承太郎さんは詰め寄ってきて後ろからまた引っ付いてきました。初めて承太郎さんをうっとーしいって思いました。


「奴隷のくせに一丁前に拒否してんじゃねえ」

『これ以上はダメ!セクハラが許されるのはアッチの承太郎さんだけなの!』

「……やれやれ、まだそんなこと言ってんのか。マジもんのバカだぜ、お前」


ものすごく呆れたようにそう言った承太郎さんですが、私には関係ありません。セクハラタイム突入阻止のため、全力を尽くすのみです!

きっと、殴ったり叩いたり、身体で抵抗しようもんなら確実に止められて倍返し。倍で済めばラッキーってところですね。何かしら理由をつけてセクハラ上乗せしてくるに違いありません。やはりここは言葉で抵抗が1番。

ロリキングは、言葉という名の呪文に滅法弱い。下手くそ、柔らかい、単発屋、昔の方が……、エロオヤジ、ロリコン、そういった呪文が弱点。ただし、乱発は禁止。最後の最後、シメの言葉に添えるだけで、最大級の威力を発揮するって、ジョナサンが教えてくれました。さすがジョナサンです。対大魔王呪文を編み出してるなんて、素晴らしいです。ただ問題があるとすれば、アッチとコッチは微妙に一緒で微妙に違うってところ。

でも、アッチの承太郎さん用の攻撃呪文ですが、アッチとコッチはそーいうところは同じみたいっていうか、パラレルワールド設定信じるとかバカが的なことを言ってたんで、きっと抜群の効力を発揮するでしょう。まぁ、物は試しってやつです。やってみて、それでダメならそれから考えましょう!

ってことで、顔面の汗を拭いながら『ちょっとキミに言いたいことがある。言ってもいいかね?』と話し掛けました。

「ドウゾ」と返事がきたので、私は、今の想いを言葉(呪文)に変えて、承太郎さんに思い切りぶつけました。


『アッチの承太郎さんはこんなことしません!そりゃ付き合ってその日にセックスしたけど、でも、それまで我慢してくれました!一緒に寝てもキスしても強引にセクハラなんてしてない……いや、してたかもしれませんけど、無理矢理じゃありませんでした!確かに数十年の歳月を経てロリキングになっちったけど、それは付き合いが長いから下心とエロ心を隠さなくて済むようになっただけであって。それなのにコッチの承太郎さんときたら御猫様と初対面のくせに下ネタエロネタばっかり!それもパラレルワールド設定なの!?そういうキャラでいくの!?ってかパラレルワールド設定ってなに!?全部演技だったの!?いつの間に演技力上げたの!?でもそれにしても順番が違うでしょうが!まずは両想い、それから恋人同士になってから下ネタエロネタ突入なの!色々と早すぎる!そんなんじゃあ安心して股を開けない!もっとドキドキときめかせてくれないと股なんて開かないの!いくら御猫様でも大好きな承太郎さん相手だからって甘くないんだからね!分かったのなら手を退かしなさい!そして奴隷なんてバカげた契約を無効にして、無償で御猫様の面倒をみなさい!そんで最後に1つ!!』


最後にトドメの呪文を言ってやろうと、バッと振り返りました。目と目が合って、よし言ったる!トドメ刺したる!と気合いを入れて口を開きました。でもそれより、とんでもねえ真実に今さら気づいて、今さら質問を投げ掛けました。


『パラレルってないの!?』


無表情の承太郎さんはめんどくさそうに頷きながら答えてくれました。


「いいから抱かせろよ」

『まだ質問してる途中でしょうが!!』


やっぱり怒らずにはいられませんでした。


【ステップ7、愚痴を聞いてあげる】
→承太郎さんのグチは長すぎる。過去最高記録。
【ステップ8、積極的にボディタッチをする】
→あれ?ボディタッチする側なのに、ボディタッチされる側になってない?あれ?
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ