番外編/短編/過去拍手文/

□岸辺露伴の妹
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ぼくには可愛い妹がいる。そりゃもうこの銀河で一番の可愛さだ。この岸辺露伴が認めてるんだ、間違いないだろう。

本来なら両親がやるべきことなんだが、銀河で一番可愛い妹を、ぼくが手塩にかけて育てている。ぼくが育てた方が将来的に間違いないからね。それに、銀河で一番可愛い妹は、ぼくとお揃いでスタンド使いだ。もしもの時のためにと、ぼくと一緒に杜王町に住んでいる。

一つ屋根の下、親に邪魔されずに、銀河で一番可愛い妹と一緒に……何て幸せで果報者の兄なんだろう。仕事も順調、銀河で一番可愛い妹を毎日見て触れて舐めて。

しかも!今日は!銀河で一番可愛い妹の学校帰りに一緒にカフェとか!制服デートとか!銀河で一番可愛い妹の制服……ああ、サイコーだ、今、人生の頂点に立っていると言っても過言ではないッ!ぼくは幸せでそれをまだまだ欲しがる愚か者だーッ!!


『…………』

「ははは、ごめんごめん。つい幸せいっぱいになってしまって我を忘れてたよ。兄としてあるまじきだな。さて、メニューは決まったかい?……え?パンケーキ?しかもアイスも?おいおい、それは今日の朝……わかったわかった、ごめんよ、お兄ちゃんが悪かったよ。好きなものを食べていいからゴキゲンを直しておくれ」

『……』

「あはは、食べ過ぎて太ったらどうしようとか気にするんだな。お前はぷっくりしてても銀河で一番可愛いよ。お前に勝る可愛さなんて存在しない。……え?結婚出来なかったらどうしよう?いやいや、むしろ結婚する必要なんて無いね。お前は独身で居るべきだ。大丈夫、ぼくが死ぬまで面倒みてあげるから。もう二度と結婚なんてバカげた事を考えるなよ。お前が結婚とか……うわあああああ!!」

『……』


絶望シチュに頭を抱えて叫んだら銀河で一番可愛い妹に怒られた。しかもぼくが叫んだせいで近くに座っていた空条承太郎がぼく達の存在に気づいてしまった。

クソッ、話掛けるんじゃあないぞ!ぼくは今、銀河で一番可愛い妹とデートをしているんだ!しかも制服!こんな奇跡滅多にないんだから向こうへ行けよ!シッシ!

という目で見ると、スゥっと目をそらされて他人のフリをしてくれた。やれば出来るじゃないか、空条承太郎!


『……』

「いやいや、あんな人知らないし。本当だって。ぼくの知り合いじゃないよ。あんなガタイのイイ強面の誰か一人くらい殺した事がありそうなマフィアみたいな知り合いなんて居ないからね。むしろ知り合いにもなりたくない」

「誰が殺人鬼のマフィアだ」

「やれば出来る子じゃあなかったのか、空条承太郎!!」


せっかくの奇跡の制服デートを邪魔してきたせいで、銀河で一番可愛い妹の興味は兄ではなく厳ついオヤジに移ってしまった。

でも、シュンと落ち込むぼくを見かねたらしく、承太郎さんは「すまねぇな」と言って席に戻っていった。


『……』

「……そうだよ、どうせぼくは嘘吐き兄だよ。やめてくれよ、真実を話すから大嫌いなんて言わないでくれ。あの方は空条承太郎さん。とある事件がキッカケで知り合いになったんだ」

『……』

「ほらー!そうやってすぐにセンサーが働くんだもんなぁ!あの人は絶対にダメ!妻子持ち!しかも家庭を省みない仕事大好き人間!捕まえた魚に餌なんて絶対あげないぜ。遠くから見守ってる〜とか、離れてても想いがあれば大丈夫〜とか、そういう不確かなモノを信じてるタイプだ。あんなろくでもないオッサンでお前が幸せになれるなんて到底思えないし、あんなオッサンに銀河で一番可愛い妹をくれてやるつもりはない!」

「おい、センセー、さっきからケンカ売ってんのか?」


またも邪魔してきた空条承太郎。しかも今度は同じテーブルに座りやがった!どうしてこうも邪魔をするんだ!


『……』

「いいのいいの、お前は黙ってなさい。こんなオッサンにお前の可愛い声を聞かせる必要なんて無し!」

『……』

「挨拶しないとお兄ちゃんに迷惑かけちゃう?まったく、お前はイイコだな。銀河で一番可愛くて銀河で一番優しいよ、本当に……こんなに立派に育って……ぅぅ……」

「なぁ、センセー、質問があるんだが」

「何だ」

「この女「おんなァ?」……彼女、さっきから一言も喋ってないのだが、何で会話が成立しているのだ?」

「アッハハ、承太郎さんはおかしなことを言いますね!銀河で一番可愛い妹の事ですよ?目を見れば分かります!」

「そうか、俺はけっこうヤバイ事に首を突っ込んだみてーだな」

「じゃあ、さっさと帰って下さいよ。あなたのせいで妹の興味がオッサンにいっちゃったんですよ。もう最悪です」

「変なの見せられた俺が一番サイアクなんだが」

『……ふ……』


ポツリと言った空条承太郎の言葉に妹が反応してしまった。この世の全ての闇が消し飛びそうなほど眩い笑顔!ああ、可愛い!今の笑顔をカメラに撮りたい!そして拡大してポスターにして寝室のベッド上の天井に貼り付けたい!


『……すみません、……おかしくて』

「何だ、話せるのか」

『まぁ、面倒だから喋るのにが……』

「変な所で諦めんじゃあねーよ。最後まで喋ろよ。頑張れよ」

『……』

「どんだけ面倒くさがりやなんだ。色々な人間に会ったがここまで酷いのは初めてだぜ」


ぼくが銀河で一番可愛い妹に悶えてる最中に会話をしてたらしい。妹の生態が変なオッサンにバレてもうサイアクだ。

ここまでサイアクコンボを決めてるのに、サイアクコンボはまだ続くらしい。銀河で一番可愛い妹はオッサンを見て、サイアクコンボを発動した。そしてぼくの魂は銀河の果てまでブッ飛ぶことになる。


『仗助くんにそっくり』

「仗助は俺のオジだ」

『オジ?』

「奇妙だがな。お前は?仗助の友達か?」

『同級生で同じクラスでカノジョ?』

「あ?仗助の女だと?」

『仗助くんが言ってた。毎日お世話してあげてるから俺のカノジョだって』

「まるでペットの世話してる飼い主発言だな。言い様に扱われ過ぎだろ。いいのか、それで」

『……』

「いや、そこでメンドーになるなよ。確実に誤解を生むタイミングだぜ」

『いいよ別に、もうメンドーだも』

「"ん"の語尾くらい頑張れ」

『ん』

「そうだけどそうじゃねーよ。つーか、センセイ、大丈夫か?」

「お待たせしました!パンケーキです!」

『……あーん、……早くチョーダイ』

「マジか俺が食わせるのか。おい、センセイ、あんたがやれよ。あんたの妹だろ。おい、聞いて……ねーな」

『はーやーくー』

「……ったく、やれやれだぜ」


ぼくの妹が、銀河で一番可愛い妹が、あのくそったれの仗助と……サイアクだ。もう終わりだ。悪夢だ。

だから!こうなるから!学校に行かせるべきじゃなかったのだ!銀河で一番可愛いんだもの、モテないはずないだろ!きっと学校でくそったれの仗助と他の男に……あああああ!!

よし、一刻も早く退学させよう。今時の通信だってちゃんとしてる。家庭教師だって雇って……いや、銀河で一番可愛い妹と二人きりとか絶対に許すまじ。そうだ!ぼくが銀河で一番可愛い妹専属の家庭教師になればいいんだ。それなら何も問題なし。

ただ問題があるとすれば、ぼく自身が勉強を教えるほどアレではないって所だ。忘れちゃってるから復習しないとダメだな。


「そうだ、承太郎さんって一応有名な学者なんですよね?コイツに勉強を教えたいから俺に勉強を教えて下さい」

「おっと、そうきたか。それ二度手間だと思うぜ。俺がコイツに教えてやろうか」

「はぁ?嫌ですよ。銀河で一番可愛い妹とオッサンを二人きりにさせるわけないでしょ。何なんですか、妻子持ちのクセに。今度は女子高生に手を……それが28歳のオッサンのすることなのかーっ!!」

「……やれやれ、最近のガキは人への頼み方を知らねーらしいな。それじゃ、俺は行くぜ。じゃーな」

『パンケーキども』

「あーハイハイ、ドーモ」


空条承太郎は銀河で一番可愛い妹にだけ挨拶をして立ち去った。最近のオッサンは礼儀がなっとらん。

それよりも、勉強の件をどうしようか。まぁ、ほんの少し復習すれば問題ないのかもしれない。何せぼくは岸辺露伴だ。勉学なんぞ敵じゃあない!銀河で一番可愛い妹の為ならやってやる!それが兄ってものだ。


『……』

「ん?あの人もスタンド使いかって?そうだ、あの人もスタンド使いで最強と言われてる。……見たかった?止めとけよ、スッゲー厳つくてムキムキしてんだぜ。オラオラ言って破壊しまくってる。ぼくのヘブンズドアーの方が可愛い……いや、お前には負けるがな」

『……』

「え!?あの人にアレをくっ付けた!?あちゃー……でも大丈夫だ。お兄ちゃんが守ってやる」

『……』

「いやぁ〜、そんなに褒めるなよ〜、お兄ちゃん調子に乗ってお前の好きなプリンを買ってきてしまいそうだぞ〜、え!?買ってきたらもっと好きになる!?ほっぺにキスまで!?……マジか!?ちょっと待ってろよ!イタリアまで行って買ってくる!」


銀河で一番可愛い妹の頼みの為、ぼくはプリンを買いに行くために立ち上がった。そんなぼくを見て妹は笑顔で手を振ってくれた。

なんて幸せなんだ。果報者だ。その想いを噛み締めてぼくは妹の好きなプリンを求めに旅立った。

その数時間後、


「パスポートが要るね、忘れてた」

『あはは!空港行って気づくとか兄ちゃんウケる!か〜わいい〜!』


顔を真っ赤にして帰ってきたぼくを笑い飛ばしてくれた銀河で一番可愛い妹。あまりの可愛さにもう二度と妹から離れないと心の中で誓った。
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