番外編/短編/過去拍手文/
□御猫様の恋の駆け引き事件簿〜特別編〜
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ジョーダンを言ったジョースケ君のせいで変な空気になってしまった。目の下のクマを察するに、きっとお疲れモードなんだと思う。
このままじゃあんまりだと思うから、海辺のビーチチェアまでご案内。心身ともにリラックスしてもらおうと、ジョースケ君を座らせて、家から御猫様特製フルーツドリンクを持ってきて、私もそこに座った。
「話には聞いてたけど、豪邸っスね〜」
『使いどころがなかった御猫様の預金を注ぎ込んだの』
「そうなの?てっきり俺は承太郎さんが出したのかと思ってた」
『あの人、学生の時から、「テメーの金は使わねえ」って信念の元、どうにかこうにかして養ってくれたでしょ。一切使うこともなくここまできたんだけど、さすがにそろそろ使わないとヤバくない?って話になって。ならいっそのことアイランド建築に使おうぜって言ってくれたの!スッカラカンになったけど、もう貯まっちゃってね、参った参った!』
アハハハハと笑いかけたけど、あまり楽しい話ではなかったみたいで、「ふーん」で終わってしまった。でも、さっきのスベリに関してはもう大丈夫っぽい。
ホッと安心したところで、特製フルーツジュースに手を伸ばそうとしたら、ケータイにメール着信が。ドリンクを取るのをやめてケータイを見ると、承太郎さんからだった。
「アイツは」って一言に、ほんの少しモヤっとしたけど、『きたよ』って送って、返事を待つ。すぐに「浮気厳禁」ってメールが届いた。『放置プレイしてるからイヤ』って送って、そこでメールは終わった。
「エロオヤジ?」
まだ返事くるんじゃないかって思ってケータイをじって見てると、ジョースケ君が声をかけてきた。何だかムッとしてる気がするから、『ゴホン』と咳ばらいをして、気を取り直して、『元気してた?』と話しかけた。
「おう、元気よ、元気。最近勉強してるんだぜ〜、たまにエロオヤジが英語で、しかも早口で何か言っててよぉ〜、多分つーか絶対俺の文句言ってるんだぜ。そーいうの腹立つからよぉ〜、見返してやろうって思ってさ〜」
『あはは、どうせしょーもないこと言ってんだろうけどね!キッカケは何であれ勉強は大事だよ!』
「勉強してなさそうなやつが言っても説得力ないぜ、いやほんと」
『御猫様は勉強してますよ。最近、日本の戦車について勉強してるの。やっぱり日本製は凄いの一言よ』
「あー、ジャンルは過激だけど、お前が楽しいなら何よりだと、ジョースケ君は思うことにした」
『なにそれ』
本当に何でもない話をしながら二人で海を眺める。杜王町のこと、康一君と由花子ちゃんのこと、億泰君とミキタカ君、スピードキング。懐かしい名前にあの頃を思い出して笑顔が止まらなくなった。
やっぱり人間って生息してるんだ。1ヶ月以上も幽霊とアイランドに居ると、もしかしてこの世界に生きてるのは私だけなんじゃ?それとも私が死んだの?って不安がたまに出てくる。
テレビをつけても、電話で人間の声を聞いても、それがホンモノの人間なのかどうか区別がつかないっていうか。まさしく夢の国だよ、アイランド。
「『あ』」
そんなこと考えてると、目の前の浜辺にトリ子ちゃんが降り立った。ジョースケ君を見ると、人差し指を口に当てて「シィー」って言いながら、空を指さした。
トリ吉君が空を飛んでいる。そしてすぐにトリ子ちゃんの元へ降り立ったんだけど、トリ子ちゃんはチョンチョンと歩いて逃げようとしていた。
「待てよ、トリ子!」
「来ないで!」
ははん、茶番劇か。って言いたくなったけど、チラッチラとジョースケ君がコッチを見るから、ケータイのメモ帳アプリを開いて、二人の会話を書き出していくことに。書き出す毎にジョースケ君が小声で感想を述べだした。
「浮気はしないって言ったじゃない!ワタシだけだって、……発情してところ構わずエッチしたくなっても、ワタシだけだって言ったのに!」
「……出来るの?あの体格差で?種が違うのに?」
「出来ねーよ、トリ子。お前と子作りは出来ねーんだ」
「だよね、そうだよね」
「だからあんたはダメなのよ!」
「うわ」
「……見てみろよ、トリ子。ここに綺麗な貝殻が落ちてるぜ」
「貝殻?」
「確かによぉ、アイツはこの貝殻みてーに綺麗で可憐な女だ。でもな……」
「……」
「この貝殻を送りたいと思う女は、トリ子、お前だけだ」
「……あんた……」
「俺の想いを疑うなら好きなだけ疑え。それでも揺るがねーよ、お前に対する愛だけは」
「……」
「……喋り過ぎちまったな。まっ、好きな女を泣かせちまった、つまらねえダメな男の話さ」
「待って!」
「……」
「……違うの、ごめんなさい。……酷いことを言ってしまったわ」
「……」
「……つまらないヤキモチよ。本当に、ごめんなさい。……好きよ、好きなの!ヤキモチを妬いてしまうほど、あなたのことを……」
「……聞かせてくれ、もっと。お前の想いをもっと聞きてえ……」
「……愛してる」
→そしてトリ吉君はトリ子ちゃんを頭の上に乗っけて羽ばたいて行った。
→オシマイ。
「『あうッ(*/□\*)』」
ジョースケ君と二人で、赤くなった顔を手で隠した。2匹のやり取りのせいでキュン死しそうだったぜ。さすがトリ吉君!やることなすこと超男前!
「つーか何であんなキザな言葉がスラスラッと出てくんの!?俺には絶対ムリ!」
『だからあんたはダメなのよ!』
「そもそもな、あれのどこがエロオヤジに似てるわけ?エロオヤジよりも貫禄半端ねーし、スッゲー男前だし、エロオヤジなんかと一緒にしたらハシビロコウさんに失礼だぜ。いや、一番失礼なのはお前だけどな!」
ジョースケ君の手が伸びてきて、頬っぺたをつまみながら、「誰がダメな男だって〜〜」とスッゲー優しく笑うジョースケ君に、つねられながらも微笑んだ。
「ったく、無防備に笑ってんじゃあねえ」
『オオカミさんになっちゃうの?ガオーって?』
「そうだぜ〜、だからジョースケ君のオオカミ心を煽るのは禁止〜、飢えてっからすぐに喰らいついちゃうぜ〜」
『そっか、それじゃ発情期のオオカミさんが発情しないように、そろそろお昼のご飯でも食べさせようかな』
「お前が作ってくれんの!?」
『もちろん!』
「やった!お前が作る飯、スッゲー好きなの!いっぱい食う!」
子供みたいにはしゃぐジョースケ君が何だか犬みたいで、可愛くてキュンってしてしまった。やっぱり犬ほしいな。今度承太郎さんに相談しよう。
「なに作ってくれんの?俺ね、オムライス食べたい!」
『そうなの?海老フライにしようと思ったんだけど』
「どっちも食べる!」
『高カロリーと高カロリーの組み合わせに物怖じしないんだね。若いっていいね』
「……あ、……ばあちゃん……」
『ばあちゃんはやめなさい!せめてババアでお願いします!』
ギャーギャー言いながらも、いつの間にか繋いであった手をそのままに、家の中へ。「リゾートホテルみてえ!」と、はしゃぐジョースケ君に笑って、キッチンへ向かおうとすると、何故かジョースケ君もついてきた。ほんとに犬みたいだ。やっぱり内緒で飼っちゃおうかな。
「何か手伝う」
『大丈夫だよ、ゆっくりしてて』
「んー、じゃあ、お前を見てる」
『なにそれ』
「つーか、なにこの大量のバラ。高そ〜」
『ああ、ごめん。リビングに飾ろうって思って忘れてた』
デカイ花瓶に入った大量のバラを持ってリビングへ。キッチンに戻ると、落としてしまったのか、一本のバラを持ったジョースケ君が「これ育ててんの?」って質問してきた。
『違うよ。承太郎さんが送ってきてくれたの。帰れなくて悪いって。悪いって思ってんなら帰ってこいって話だけどね!』
「ふーん、寂しいんだ?」
『うん、寂しいの』
「でも、俺がいるから寂しくねーだろ」
何の話だってツッコミする前に、ジョースケ君が後ろから抱きついてきた。何と言っていいものか分からず、でも今の空気に耐えれなくて、玉ねぎと人参の皮を剥くことにした。
でもジョースケ君は、一本のバラを持ったまま引っ付いて離れない。ずっと髪の毛にキスしてる。音を立ててする辺りが確信犯だ。ってか、こんなときこそジョナサンの出番なのに!いつもみたいに邪魔してよ、ジョナサン!
「……ハル」
『ッ』
耳元でジョースケ君の声がする。近すぎる距離にビクッと肩を揺らしてしまった。ここで何かラブ的なリアクションを起こしてしまったら即アウト。冷静に対処しないとダメなところ。
そう言い聞かせてるのに!
ジョースケ君は、私の肩を掴んで、無理矢理向き合わせた。どう対処していいのか全く分からない頭はぶっ飛んでて。目もグルグル回りそうな、その時、一本のバラを差し出して、ジョースケ君は言った。
「……バラの花言葉って知ってる?ロマンスなんだよ」
『……』
「……」
『……』
「……」
ちょっとよく理解できない空気になったから、ジョースケ君を放置してトイレへ。ケータイを取り出して、そういう人間の言葉に詳しいあの人に電話した。すぐに出てくれた。助かった。
「なんだよ」
『バラの花言葉って知ってる?ロマンスなんだよ』
「じゃあ俺と恋の物語を始めようぜ」
『あうッ(*/□\*)やだナニソレ超素敵な返事ね!ダメね、私ってまだまだ修行が足りないや』
「……つーか、仗助が言ったのか?」
『秘密!』
「秘密主義も悪くねーが、これ以上、俺をお前で一杯にさせんな。何も手につかなくなる」
『あうッ(*/□\*)』
「んじゃ、切るぜ」
やっぱり考えること全てが超男前だ。見た目からして超男前だし、たかが電話でこんなにもドキドキさせてくれるなんて。はぁ、生の承太郎さんでもっと聞きたい。早く会いたい。
乙女心がフル満タンになった&対処法が見つかったので、ジョースケ君を救済しようとキッチンへ戻る。
「……うわぁ…ぁ……ああ………やっちまったああ……」
真っ赤になった顔を手で隠して、羞恥心と戦ってるジョースケ君に、何かこう、猛烈にキュンってした。