番外編/短編/過去拍手文/
□御猫様の恋の駆け引き事件簿〜特別編〜
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大スベリロマンス事故を起こしたジョースケ君は半泣きになりながらも、「うまいっス、骨身に沁みます」って言っている大量に作ったご飯を食べてくれた。
食事をしたあとは、お茶でも飲みながらのんびりすることに。ソファーはこんなにも広いのに、ジョースケ君は私の後ろに座って、引っ付いて離れない。
なんで引っ付いてくるのかっていう理由を知ってるけど、それだけは触れちゃダメな話題だ。だから引っ付いてくるジョースケ君を知らんぷりしてる。でも居心地の悪さを感じて、テレビをつけた。
野生動物のドキュメンタリー番組をやっていて、ジョースケ君は映像を見ながら「通訳して!」って言ってきた。
「あれ何て言ってんの?」
『今度こそ俺のイチモツで狙い打つぜ!』
「……ソッスカ」
『どうせまた早「もういいっス!」……』
「……俺にはちょっと早かったっス……」
だろうよ、恥ずかしいだろうよ。でもキミの顔を真っ赤にして悶える姿はキュンってするね。イイね、純情不器用っぽくて。そーいうの見慣れないから新鮮で良きかな。
「……ちょっと番組かえようぜ!このままだと俺もガオーってなっちまうかも〜、アハハハ……」
『動物の交尾で興奮したの?』
「するわけねーだろ!!」
『そうだよね、ジョースケ君が興奮するのは人間用のエッチなビデオだけだもんね』
「そうそう、巨乳の美人なお姉様が出てくるやつ〜〜」
『ちっぱい派だと思ってたのに!うそつき!』
「お前のちっぱいは別格〜〜、エロオヤジに内緒で俺が育ててあげよっか〜?」
『誰がちっぱいじゃーー!!』
ジョースケ君と仲良く会話してると、ポケットにいれてたケータイが震えた。取り出して見ると承太郎さんからメールがきていて、「来月半ば、5連休」って!
その内容でテンションウナギ登り。『やったー!楽しみ!』って返事をして、思わずニコニコ笑顔でケータイ画面にキスしてしまった。
しまったことに、後ろにはジョースケ君が引っ付いているわけで。メールの内容を含む一連の流れを見ていたであろうジョースケ君は、背後からとんでもねえ空気を醸し出してる。
「まっ、別に俺がとやかく言うことじゃねーんスけどね。部外者の俺が、あんたら夫婦の話に口出す権利なんてないし〜」
そう思うんなら遠回しのイヤミ言うのやめてほしいって思っても本人に言えるわけもなく。この空気をどうにかしようと冷や汗ダラダラで考えてると、ジョースケ君の腕にギュッと力が込められた。
「……ハル」
耳元で名前を呼ばれて、ビクッと反応してしまった。この空気は非常にマズイ。本当にマズイ。マジでどうにかしなければ!って焦ってると、今度は何故かジョースケ君がビクッと反応してた。
しめた!これだ!『雰囲気だけてビクンビクンしちゃったのぉ〜?』って、いつも通りふざけたこと言えば万事解決!淀んだ空気は一掃される!
んじゃさっさと一掃してやろうと、顔を上げてジョースケ君を見る。でもジョースケ君は、リビングの窓の方を死んだ目で見ていた。
その視線を追っかけていくと、トリ吉君が窓の向こうにいた。スッゲー形相でコッチを睨んでる様は、やっぱりどこぞの誰かさんを思わせる。ジョースケ君もそう思ったんだろう。「ストーカーはどこからでもわいて出て来やがる」と小さい声で言ってた。
でも、トリ吉君の出現によって空気は一掃されたわけです。だから今のうちに逃げようと、すぐに窓に駆け寄って、窓越しでトリ吉君に声をかけた。
『ありがとう、トリ吉君!』
「だからお前は無防備過ぎる」
『えー、そんなことないよ!』
「俺を心配させんなって言ってんだぜ」
『……トリ吉君』
窓に手をついてたら、その私の手があるところに羽を置いてきた。窓越しで手と羽が触れ合う。この手とキラキラな空気をどうしたらいいんもんか分からず、ただトリ吉君を見つめた。
「俺たちを隔てる障害があったとしても、そんなもんいくらでも飛び越えて、俺がお前を守ってやる」
『……』
「……ってのは、言い過ぎかな。でも、なるべく守る、それは本当だ」
トリ吉君は羽を納めて、くるっと背中を向けて立ち去ろうとした。でも、ピタリと止まって、一言こう言った。
「あまり妬かせるんじゃあねーぞ、俺を」
そしてトリ吉君は大空へ羽ばたいてった。
『……あうッ、あうッ、あう〜〜ッ(*/□\*)』
トリ吉君に痺れた私は、その場で悶え苦しんだ。何だあの男前は。トリのくせに何でこうも男前なの?人間の雄、ましてや大スベリロマンス連続事故を起こしてるあの人の立場がまるでないじゃない。
でもロマンスのお手本になりそうだし、トリ吉の男前で素敵な言葉を教えてやろうとジョースケ君を見れば、ソファーに横になってグースカ寝ていた。
『だからあんたはダメなのよ┐(´д`)┌』
出来れば用意してある部屋のベッドで寝てほしいけど、グースカ寝てるジョースケ君を起こすのも忍びない。いつも使ってるブランケットをかけて、ジョースケ君の寝顔をジッと観察。
ツンツンとぽっぺたをつついたら、「うう」って唸ってて、犬みたいで笑ってしまった。でも、その声のせいでジョースケ君の瞼が開いた。
「……んー……ハル……?」
『……ごめんね、起こしちゃった?』
「……ハルだぁ……」
『うお』
ジョースケ君がぐいっと腕を掴んで引っ張ってきた。どうやら一緒に寝てほしいらしく、ブランケットの中に入れようと頑張って引っ張って。でも、「うう〜、なんで入んねーの〜、入ってくれよ〜〜」とイジケたように唸って、またグースカと夢の中へ。
その何か妙に可愛い行動に、仕方ないなぁって感情がわいた私は、ブランケットの中へ侵入。寝ぼけながらもギュッと抱きついてきたジョースケ君は、「……ホンモノあったけー……」って呟いたあと、ガチリと固まった。それはもうガチリと。カッチコチに。
目の前には目をパチクリしてるジョースケ君。私も、仕方ないなぁって感情なんかじゃ済まされない今の状況を改めて再認識して目をパチクリさせた。だってこれは、ジョースケ君の想いを知ってるからこそ、絶対にやっちゃいけないことだもの。
「……」
『……』
「……えっと、……何してんスか?」
『……あー……、……ひと肌恋しい、みたいな?』
絞り出した言い訳はサイテーなもので、それでもジョースケ君は、「ネコの気まぐれでラッキーなこと起きた!」って屈託のない笑顔を私に向けた。私はもはや汚れた人間に成り果てたんだなって思った。
なにこの子超イイコ過ぎて眩しさすら感じちゃう。何で想いを弄ばれたのに真っ直ぐ純粋でいられるの?何かそんな魔法でもあるの?優しさで世界を救うの?優しい世界でありますようにって?
でもジョースケ君なら言いかねない。だってこんなにも優しいんだもの。日向ぼっこしてるみたいにポカポカで、心があったかくなって。だから私はジョースケ君を……
『……ジョースケ君……』
何かよく分かんないけど、自分の想いがガッとキテ、ジョースケ君の頬っぺたに手を伸ばしてた。
そっと彼に触れると、指先から彼の熱が伝わって。じんわりとあったかくなっていく感じが彼の心と同じ。優しくて暖かい。そう思うと、とても愛しくて、もっと奥底からそれに触れたくなった。
「……ハル……」
ジョースケ君の手が私の頬に触れた。そっと撫でる手の優しさにすり寄って、とんでもねえ言葉が転がりでそうな、その時、ジョースケ君が口を開いた。
「1億と二千年前から愛してるとは言わないけれど、1億と二千年経ったとしてもお前を愛したい」
『……』
「……」
『……』
「……」
『トイレ行ッテキマス』
寝起きのくせに流暢に、何か本当に理解出来ないことを言われたから、ダッシュで部屋から出て行った。すぐさまトイレに駆け込んで、あの人に電話。すぐに出てくれる辺り、今日は暇してるのかもしれません。
「なんだよ」
『1億と二千年前から愛してるとは言わないけれど、1億と二千年経ったとしてもお前を愛したい』
「たった1億と二千年ぽっちで愛を語るんじゃあねえ。未来永劫、お前だけを愛してやる」
『あうッ(*/□\*)』
「つーか、仗助のヤツ大丈夫か。報われない恋で頭がイカれちまったとしか思えねーんだが」
『私も承太郎さんのキザな言葉でイカれちゃいたい』
「テメーはもう十分イカれてるぜ」
『でも足りないの』
「来月まで待ってろ。嫌っていうほど、俺をくれてやる」
『あうッ(*/□\*)』
「じゃ、切るぜ」
やっぱり超男前の返しはひと味違う。1億と二千年前から愛してるとは言わないけれど、1億と二千年経ったとしてもお前を愛したいっていう謎の言葉の返事があんなにも素敵になるんだもの。あうッ(*/□\*)
今日は承太郎さんのキザな言葉乱発でホクホクし過ぎて溶けちゃいそう。早く会いたいな。超男前なお顔を拝見しながら、あうッ(*/□\*)
なんてホクホクした気持ちで、1億と二千年前から愛してるとは言わないけれど、1億と二千年経ったとしてもお前を愛したいの返事でもしようと、リビングへ向かう。
「……うわあああ……あああ……うう……」
ソファーの上で転げ回って羞恥心と戦ってるジョースケ君を見て、やっぱり何かこう、猛烈にキュンってした。