番外編/短編/過去拍手文/

□御猫様の恋の駆け引き事件簿〜特別編〜
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とんでもねえ告白のあと、大スベリ事故を起こしたっていうのに、ジョースケ君は何食わぬ顔で過ごしている。

沈む夕陽を眺めながらなんでもない話をしていても、ジョースケ君の視線を感じてとても気まずい。こんなのが1週間も続くとかマジで、うわああああ!!って感じだ。

なるべく平常心でいようと心に決めて、クレイジーダイヤモンドと知恵の輪をして遊んでる。

この知恵の輪は、承太郎さんとジョナサンが、「ボケに気をつけろ」、「ボケでもキミへの愛は変わらない」というメッセージと共にプレゼントしてくれたやつだ。ありがた迷惑なんだけど、けっこうマジで心配してるっぽいので怒るに怒れなかった。

でも、こーいう暇潰しにちょうど良いってことが判明したよ。無言でも空気悪くならないし。正座してカチャカチャしてるクレイジーダイヤモンドが可愛いし。


「……ドラ……」


でも、カチャカチャって音からガチャガチャに変わっていってる。知恵の輪が難しいようだ。


「……ドラッ!!」


結果的に知恵の輪をぶっ壊して、スタンド能力で直してた。知恵の輪の遊び方はそうじゃないんだけど、イライラするのはよく分かる。

承太郎さんなんて、ほんの少しカチャカチャしたと思えばポロッと外して、また元に戻してた。ジョナサンも同じく。


「くだらねえ。こんなんでボケ防止になるわけねーだろ」

「御猫様、まだやってたの?」

『こんなのできない!』

「こんなもんも出来ねーとは、お前の脳みそを心底疑うぜ」

「まぁまぁ、これは御猫様には無理だよ。教えてあげようか?」

『ふんがーーーっ!!!』


二人にバカにされて知恵の輪を引き裂いたあの日のことは絶対に忘れない!おっと、思い出してしまったばかりに、またも知恵の輪を引き裂いてしまった。拙者も未熟よのう。

壊れた知恵の輪を懐に戻して、沈む夕陽をポヤッと見てると、ジョースケ君が声をかけてきた。平常心、平常心。


「お前っていっつも何してんの?」

『ジョナサンと散歩したり、ジョナサンと映画観たり、それについてジョナサンと評価したり、ジョナサンと昼寝したり、基本ジョナサンと遊んでる』

「いやそれもうジョナサンが旦那ポジションに収まってんじゃん」

『でも、それでいいって言ってたよ。二人で出来なかったことをやれって』

「あの人の浮気のボーダーラインがいまいち分かんねーや」

『あの人が何かイヤだと思ったら』

「ああ、なるほど。それ分かりやすい。んじゃ、俺もジョナサン見習ってセクハラでもしようかなぁ〜〜」


ジョースケ君が勢いよく立ち上がった。私の前に手を差し出して、「散歩でも行きませんか?」と。『セクハラするの?』って聞くと、「手と手が触れ合うんだぜ。俺にとってはかなりのセクハラ〜、ダセーだろ」って言って、ニコニコ笑ってた。


『じゃあ、そのセクハラ、ナイショにしといてあげるね!』

「ラッキー!」


差し出された手を振り払うなんて出来ない卑怯な自分の手。それを重ねて立ち上がると、手を繋いだまま海辺へと歩き出した。

夕陽が辺りをオレンジに染めてる。いつも聴いてる波の音も何だか今日は違って聞こえる。いつもよりとても心地よく、優しく心に響く。

チラッとジョースケ君を見上げると、バチッと目が合って、二人してオレンジに染まった顔をプイッとそらした。ってナンダコレ。


「……」

『……』


お互い何を言うわけでもなく、波打ち際まで行く。足元まで波がきそうな所ギリギリでしゃがみ込んだ。二人でただ夕陽を見つめる。あの日を思い出させるような、綺麗な夕陽を。ってナンダコレ。

何だか居たたまれなくなって、いろいろなものを誤魔化したくて、夕陽を見るのをやめて、砂に落書きをしてた。ってナンダコレ。


「……月が」

『え?』


ジョースケ君の声に顔を上げると、上空に月が出ていた。今にも消えそうなほど、細い三日月。それを眺めてると、ジョースケ君が言った。


「俺の想いを聞いたからって、気まずくなるの止めようぜ。いつも通り、知らなかったフリしてろよ」

『……ジョースケ君……』

「お前の答えなんて知ってるし。でも今の俺には、それを聞く勇気も、お前を諦める覚悟も出来てねーんだよ。情けねーけど」

『……』

「だからさ、変な距離とか置くのだけは絶対に止めてな?お前の存在が近くにないのって、マジで堪えんだわ。メールとか電話だけでいいんだ。それで満足するし、……お前の声だけでもいいからさ、まだ……もう少し聞かせてくれよ」

『……うん、わかった』

「ありがとう」


お礼を言うのはこっちなんだけど、これ以上私の言葉を紡いでも、全てが嘘っぱちに聞こえる気がして、黙るしかなかった。

【いつも通り】、ジョースケ君がそれを望むならそうしよう。それしか出来ることがないのだ。それしかない。


「あんなに遠くにいる月が波を渚に運ぶのだから、近くにいるあなたが、ボクの心を誘うのは当然ですね」

『……』

「……」

『……』

「……」


本当に唐突に、話の流れすら関係なく、理解出来る出来ないとかそんな次元を通り越した言葉に頭が真っ白になった。どうしていいものか全く分からないので、『いい波だー』って、どこぞの艦長の真似をしてみた。


「…………」


ジョースケ君は何も言わずに、その場に体育座りして夕陽を眺めてる。その哀愁漂う情けない姿に、男の不器用ってやつを感じて、何かこう、猛烈にキュンってした。

しかし、今日のジョースケ君はすごく変だ。ぶっ壊れてる。これはさすがに心配だから、いつも通りを装って悩みを聞いてみることにした。


『どうして今日はそんなにも頭がイカれちゃってるの?』

「……そうっスね、そうやってマジでいつも通りな感じで、平気で傷口を抉ってくる辺りが、何かこう、猛烈に腹立つっスね」

『そういうの八つ当りって言うんだよ』

「そうっスね、何かもう八つ当りしてねーとやってらんねーっていうか、何で俺ってバシッと決めれないんだろ……」

『バシッと決めたいから変なこと言ってるの?』

「……だって、……お前ってそーいうのが好きなんだろ?」


はて?そんなこと言ったっけ?って考えてると、「だから俺も……かっちょよくバシッて言ってやろうって……」って、照れながら小さい声で呟いた。何かこう、猛烈にキュンってした。

私がそーいうの好きだって思って、普段と全く違うことをしてくれてた。慣れないことして大スベリ事故を起こしてたけど、慣れないことしてまで、想いを伝えようとしてくれてた。

それが分かると、今まで大スベリ事故を起こした言葉一つ一つが、とても可愛く、愛しく思えて、でもバシッと決めれてないジョースケ君らしい言葉たちに自然と笑いが出てしまった。


『あははは!そりゃ惨敗だわ!私がキミに惨敗だわ!』

「笑うな〜〜!」

『いやいや、いいよ、それでいいのよ、キミはそれでいいのよ、ジョースケ君。可愛い、可愛い!』

「絶対に!もう2度とキザな言葉なんて言わねえ!」

『そうしなよ、人には向き不向きがあるんだよ』

「お前もそーいうの不向きだろ」

『どうだろーね』

「じゃあ、何か俺にキザっぽいこと言ってみろよ」

『言葉にしないと分かんないなら、いくらでも言ってあげる。でも、この想いを言葉にしたら、きっと陳腐な恋物語になっちゃうよ』

「……おおう、これは予想外〜。スラスラっと出てきましたね〜〜」

『だからあんたはダメなのよ』

「何で(;゚∇゚)!?」


よっこいしょと立ち上がると、ジョースケ君も立ち上がった。そろそろBBQの準備でも始めようと夕陽に背を向けたら、ジョースケ君がギューッと抱きしめてきた。

何かを確かめるように、何かを伝えるように、小さく震える身体。あの頃と同じように抱きしめ返したくなったけど、もう私には何も出来ない。

ジョースケ君もそれを分かってる。

私がそれについて触れないようにしてることも、忘れようとしてることも、きっと全てお見通し。つまりそれがどういうことなのか、それを分かってるから、ジョースケ君もその事に触れずにいるんだと思う。

それが本当の答えなのか今の私には分からないけど、これが今の私に出せる精一杯の答え。ハッキリと言えない、本当に自分本意のワガママな答え。


「陳腐でも何でもいいよ。お前がいてくれさえすれば、どんな悲しい物語でも、俺は幸せなんだ」

『何だ、やれば出来るじゃん』

「だから聞かせて〜」

『えー、何を〜?』

「……うそつき」


夕陽は海の中へと潜っていってる。オレンジと暗闇のグラデーションに包まれた私たちを、今にも消えそうな月が見守ってる。


『【運命】って何でこんなにも陳腐で残酷なんだろうね』

「でも……きっと何度繰り返しても、アホみてーにお前に恋しちまう、それが俺の【運命】ってやつかもなぁ」

『あうッ(*/□\*)』

「まっ、【いつも通り】頼んますよ」


こうして、本当のことを言わずに、お互いに嘘をついたまま、陳腐な恋物語の幕を下ろした。【いつも通り】この願いを受け継いで。



▼▼▼▼▼▼


〜エピローグ〜



『夜ご飯の準備してくるね!』

「俺はもう少し散歩してる」

『はーい!』


【いつも通り】の様子で、走って家へ戻るハルを見送る。小さい姿が見えなくなってようやくその場に座り込んだ。

残酷な答えに気づいてるからこそ、知らんフリをしていたいのも確かだ。前はあんなにも伝わってほしいと願ったのに、伝わった途端、お互いに知らん顔して。嘘つきだぜ、お互いに。でも、これでイイ。

これ以上想いを言葉にしても、陳腐で嘘つきな言葉に生まれ変わる。真実の想いなんて伝わることもなく、それが叶うこともない。もう二度と、二人で一緒に居たあの日には戻れねーんだ。

でも俺は、それでも俺の想いは、あの頃と何も変わっちゃいない。【好きな女に幸せになってほしい】っていう根本がどーしてもあって。やっぱりその為ならこの身でも命でも何でも差し出してしまう。本当にバカな男だぜ、俺って。


「陳腐過ぎるだろ」


ここで俺も大魔神&大魔王コンビを見習って闇に染まればいいのに、それが出来ない時点で、もはや負け。サイテーなクズ野郎になりきれなかった俺の完敗だ。今回こーなることを見越してるからあの二人は俺の邪魔をしなかったんだろ。クソッ、腹立つな。


「あーあ、そうですよ、どうせ俺はトラウマを抉りにいったドMですよ。でもその純粋聖人ドM男に助けられてんのはソッチっすからね」


砂浜に座ってボケーッとしてブツブツ言ってると、トリ吉が隣にやって来た。俺は生き物と話せる能力なんてないけど、「いいのか?」って聞かれた気がして、苦笑いしながら答えた。


「好きな女の笑顔が見れてよかった、それは本当だぜ」

「……」

「あそこに俺は入れねーけど、守ることは出来んだろ。惚れた女の笑顔くれー守ってやりてーのよ、ジョースケ君は」

「……」

「ホントにもう、……どれもこれも陳腐過ぎて笑えるけど……」

「……」

「……マジで好きなんだよ、……アイツのこと、……本気で……」


トリ吉が羽で肩を叩いてきた。その温もりが妙に心に沁みて、トリの前だっつーのに、不覚にも泣いてしまった。
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