番外編/短編/過去拍手文/

□第64代継承者
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誘拐された日から少し心配している事がある。それを御猫様護衛チームに伝えるべきか否か悩んでいた。

基本的に御猫様の守りはジョナサンが居るから必要ないんだけど、御猫様の護衛担当のジョナサンは、ブチャラティ様に歴史の本を大量に貰ったとか何とか言って部屋に引きこもり続けている。読み終わるまで動かないし、世界が滅ぶとしても読書を続けるだろう。

ジョナサンが不在中にも関わらず、周りはネコ好きの雄だらけ。特にミスタお兄ちゃんは前科アリ、ナランチャ君もセクハラの前科アリ、アバッキオさんも何をしてくるか分からない。つまり、ジョナサンの目が届かない今、我が身は自分で守るしかないのだ。

それに今回の誘拐事件のように、ジョナサンがいつ裏切るかも分からない。裏切り者は常にいる。それが今日の状態だ。


『いこう、承太郎さんのために!』


私は悩むのを止めて行動に移した。あるモノを握り締めて、みんながいる部屋へ。部屋の中に入ると、ブチャラティ様、ミスタお兄ちゃん、ナランチャ君、アバッキオさんが、丸いテーブルを囲んで座っていた。

ここまでメンバーが揃うと威厳的な空気を感じる。でも承太郎さんの威厳には遠く及ばないので、真剣な顔をしてテーブルに近づいた。


「お嬢様、どうした」

『大事なお話があるの』

「大事な話?」


敬語も取れてそれなりに親密度が上がったブチャラティ様の太ももに腰掛けた。ミスタお兄ちゃんが「うわあああ!!羨ましいぜコノヤロー!!」と叫んだけどスルーして、とあるモノをテーブルの真ん中に置いた。みんなが息を飲んだ。


「お、お、おおお嬢様、これは」


あのブチャラティ様がドモッている。きっとみんなもブチャラティ様もこれが何なのか分かってる。疑うほどのモノをみんなの前に置いた。その自覚はある。だからこそ、これを置いた理由を説明しなければならないのだ。


『見てわかるように、【第64代北斗神拳伝承者】と書かれたコンドームです』

「そんなこと分かりたくなかったよ」


背中からブチャラティ様の小さな嘆きが聞こえた。チラッと振り向くと、ブチャラティ様は遠い目で天井を見上げていた。まるで「ニ、抜けた!」って言わんばかりの雰囲気なので、ブチャラティ様は放っておいて差し上げよう。


『これについて説明しましょう』


改めて顔を正面に戻し、コンドームを置いた理由を説明した。


『御猫様の貞操を守るのはジョナサンの役目ですが、本日はワケあって不在です。ジョナサンが居ない今、男女の間で何が起きてもおかしくありませんので、もしもの時の為にコンドームは必要という判断に至りました。例えそこに愛がなくともコンドームという名の愛は必要です。しかし!ここに雄が4匹いるのに、手持ちのコンドームは1個しかありません。そこで!このコンドームを持つ人のみが御猫様を襲えるってことにしますので、貴方達の誰が【第64代北斗神拳伝承者】コンドームを持つか、決めてほしいのです!』

「もう全くもって意味が分からないよ、お嬢様」


背中からブチャラティ様の覇気の無い声が聞こえてきたけど、その声は三人の声によってかき消されてしまった。


「「「……デ、デカイ……」」」


三人は世にも恐ろしいモノを見るような目で、冷や汗を流しながらコンドームを見つめている。


「な、何だこのデカさは。もはや人間もモノじゃあねえ」と、ミスタお兄ちゃんが呟いた。そりゃそうだろう。このコンドームは承太郎さんと使う時のモノ。このサイズが合う人なんてそうそう居ないってことは調査済み。

だからこそ、このコンドームがピッタリ合う人が【第64代北斗神拳伝承者】の権利を頂けるってワケだ。合わなかったらそれまで。使わないに越したことはないのだけれど。

しかし、ミスタお兄ちゃん、ナランチャ君、アバッキオさんの反応を見る限り、誰もサイズが合わないっぽい。せめて一人くらい居ると思ってたのに残念である。

その感情が表に出てしまって、呆れた口調で、『誰も居ないの?』と言うと、ナランチャ君がドモりながら言った。


「お、おお俺のサイズにピッタリだぜ〜」


目がめっちゃ泳いでるし、冷や汗ダラダラだし、どう見ても嘘だって表情に出てる。サイズの問題は大変重要なので注意しようとしたらアバッキオさんが言った。


「嘘を吐くな、ナランチャ。どう見てもお前はコレより小さいだろ」

「はああ!!?全ッ然小さくねーし!」

「いや、小さい。前に便所で見た時、お前のこんなんしかなかったぜ」

「いいいいやああああ!!」


アバッキオさんが指で長さと太さを表してくれたけど、それならサイズ違いだ。【第64代北斗神拳伝承者】に相応しくない。


「俺は膨張率がスゲーの!普段はこんなんでもイザとなるとムックムクに伸びるの!伸びしろのある男なの!」


きっと彼の心の中で世紀末勃発しているんだろう。涙目でそう訴えるナランチャ君に同情の眼差しを向ける他なかった。

それはミスタお兄ちゃんもアバッキオさんも同じ。3人で、ただ黙ってナランチャ君を見つめてた。


「うわああああん!!」


ナランチャ君、脱落。大泣きしながら去っていく背中に3人で合掌した。ってことで話を戻そう。


「まっ、俺は余裕よ、こんなの。スッポリ収まるしぃ〜。あっ、そーいうスッポリじゃあねぇーのよ、少しきつめのジャストフィットって意味のスッポリね〜」


ミスタお兄ちゃんは不敵な笑みを浮かべながらコンドームに手を伸ばすと、ミスタお兄ちゃんのスタンドであるセックスピストルズが現れて、コンドームを渡さんと引っ張り始めた。


「な、何をしやがる!離せ、セックスピストルズ!これは俺ンだ!【第64代北斗神拳伝承者】を手にするのは俺なんだ!」

「ミスタ、ダメダヨ!コレ以上ハユルサレナイ!」

「プライドアルノワカルケド!ソレシタラヨケイニナサケナイコトニナルヨ!」

「プークスクス、ソモソモサイズアッテナイシ」

「ダセェ、ミスタオニイチャン」

「コノヘンタイロリコン」

「ヤ、ヤメヨウ!イマナラアノヒトにナイショニシテテアゲルカラ!」

「嫌だ!俺はこれが欲しいの!【第64代北斗神拳伝承者】があれば俺の夢が叶うのッ!いいから離せ、セックスピストルズ!言うこときかねーと今日の昼メシ抜きだかんな!おやつもあげねーからなッ!」

「「「「「「イィーーヤァーーー!!」」」」」」


コンドームで綱引きを始めるミスタお兄ちゃんとセックスピストルズの光景は、なかなか可愛いものだ。でも内容が内容なので何とも言えねえし、あまり引っ張るとコンドームのパッケージが破れそうだ。

あまり横やりを入れたくないけど、コンドームを取り上げようとすると、アバッキオさんが我先にコンドームを取り上げてミスタお兄ちゃんに言った。


「セックスピストルズが言うほどミスタのサイズはショボいんだろ。んじゃ、これは俺のだな」

「ああ?何言ってんだ、アバッキオ」

「聞こえなかったのか、ミスタ。【第64代北斗神拳伝承者】は俺だって言ってんだよ」

「ふーん、お前のアレがこのサイズに合うと思えねーけど」

「ああ?」

「小さそうじゃん、お前」

「あ?」


お互いを睨み合ってる二人から不穏な空気を感じる。やはりサイズの問題は世紀末を発生させてしまうんだろう。

そもそもこのサイズに合う人の方が少ないのが問題だ。ジョースター家の面子はラオウ様サイズだが、大体みんなケンシローで時々トキ。ラオウ様なんてレア中のレアなんだと思う。いっそのこと全サイズあればこんな事にならなかったのに。

でもどう足掻いても、手持ちのコンドームは一個しかない。【第64代北斗神拳伝承者】に相応しい人に渡すべきだ。

考えた結果、この中で【第64代北斗神拳伝承者】に近い人を【第64代北斗神拳伝承者】にすればいいんじゃねって案を思いついた。どうやって?って考えてみたけど、考えるのがめんどくさくなってきたので、手っ取り早く確認をすることにした。


まずはブチャラティ様。

立ち上がるフリをして上手いこと転けてみた。その際に思わず何かを握るフリして股間付近をさわさわぁ〜っと確認。ふむ、なるほど、今宵は右手は洗うまいよ。


「大丈夫か、お嬢様」

『うん、ごめんね。滑っちゃった』

「気をつけろよ」


股間の確認をされたなんて思ってもないブチャラティ様の優しさに罪悪感を覚えたけど、今、ここで立ち止まるワケにはいかない。私はホクホクしてる右手をぎゅっと握り締めて、次のターゲットの元へ。

次はアバッキオさん。


『アバッキオさんのお膝に乗せて』


返事はないけども乗せてくれる気はあるらしく、手を広げて待っている。あと3歩でたどり着くって所で、わざと転けた。倒れる身体を支えようと、アバッキオさんの股間辺りに左手をついて、そっとさりげなくさわさわぁ〜っと確認。ほうほう、なるほど、これがアバ茶製造機か。


「危ねえ、大丈夫か?」

『うん、ごめんね。転けちゃった』

「ネコはいつもボヤッとしてるからな、気をつけろよ」


わざと転けたってのに心配してくれるアバッキオさんに罪悪感を覚えたけど、今ここで立ち止まるワケにはいかない。私は決意を新たに、左手をグーパーしながらミスタお兄ちゃんの元へ向かった。

ラストはミスタお兄ちゃん。

ミスタお兄ちゃんの確認なんて簡単だ。一応全裸を見たことあるし、気を使う必要もないので、ミスタお兄ちゃんのそばにいって、『ミスタお兄ちゃん、起立』と声をかけた。


「ん?立てばいーの?」

『うん』


ミスタお兄ちゃんは何も疑わずに立ち上がった。だから私も何も言わずにミスタお兄ちゃんの股間に手を伸ばして、さわさわぁ〜っと確認。


「……ぎゃああああ!!?ネコが!ネコが俺の股間にィィイイイ!!?」


叫びだしたミスタお兄ちゃんがうるさいので、『うおっほん』と咳払いをして、ミスタお兄ちゃんを静めた。これで【第64代北斗神拳伝承者】が決まった。

私は確認の為、もう一度ホクホクしてる右手をぎゅっと握り締めて、左手をグーパーグーパーした。やっぱり【第64代北斗神拳伝承者】は変わらなかったので、【第64代北斗神拳伝承者】に相応しい人物の右腕を掴み、バッと上へ持ち上げた。


『【第64代北斗神拳伝承者】はミスタお兄ちゃんである!』


ブチャラティ様は遠い目をして天井を見上げていた。アバッキオさんはテーブルに顔を伏せて何を言うわけでもなく、バンバンとテーブルを叩き始めた。

ミスタお兄ちゃんはといえば、何故かブルブル震えて、でも感極まったらしく、ガッと右の拳を天へと掲げて、堂々とした口ぶりでこう言った。


「わが生涯に一片の悔いなし!!」


それ拳王様死ぬ時のセリフだよ。天に召されるの?ってツッコミしてやろうと口を開きかけると、ミスタお兄ちゃんのポッケから、どこぞのベイダー卿のテーマソングが流れてきた。

どうやら着信メロディらしく、ミスタお兄ちゃんは今にも泣きそう&世界の終わり&真っ青な顔で、通話ボタンを押した。


「【第64代北斗神拳伝承者】になろうとしてるミスタオニイチャンに忠告だ。悔いる人生にされたくなけりゃ、今すぐ手を引け。そしてお前がネコの見張りをしろ。ジョナサンが変なことしねーか、逐一報告してもらうと助かる。もちろん、やってくれるよな、ミスタオニイチャン」


ガタガタ震えて、冷や汗ダラダラで、この世の終わりのような顔してるミスタお兄ちゃん。誰が何の話してるのか全然分からないけど、よほど恐ろしい人だと見受けられる。

でも、ミスタお兄ちゃんの変わりようも気になるけど、さっきから扉をほんの少し開けて、誰かと電話してるナランチャ君とセックスピストルズも気になる。恨めしそうにミスタお兄ちゃんを睨んでるのだ。


「あーそうそう、ストーカーと勘違いされたくねーから言っておく。お前の優秀な後輩と優秀なスタンドが今の状況を教えてくれたんだぜ。今もテメーの様子を教えてくれてる。これで嘘も吐けねーな。わかったのなら、そこにあるコンドームを引きちぎって捨てな。お前の働きを期待してるぜ、ミスタオニイチャン」

「……」


電話は終わったみたいで、ミスタお兄ちゃんはケータイをポケットにいれて、【第64代北斗神拳伝承者】と書かれたコンドームを手にとった。すると、なんとミスタお兄ちゃんはコンドームを破り始めたではないか!


『ミスタお兄ちゃん!?』

「こんなモノッ!こんなモノッ!俺が!何したって言うんだ!俺だって!ネコと遊びてーだけだってのに!クソッ!クソッ!」


一心不乱にコンドームを破るミスタお兄ちゃんに引いてしまった私は、これ以上言葉を掛けてあげることは出来なかった。

でも今回分かったことがある。サイズのデリケートな問題は、憎しみや嫉妬を生み出し、世紀末に発展させるってことだ。

以後気をつけようと心に決めて、

『【第64代北斗神拳伝承者】は、ミスタお兄ちゃんがコンドームを破ってしまったので無効!ジョナサンが復活するまで、誰一人として御猫様に触れるべからず!』

と、みんなに伝えた。


「元から誰も襲ったりしねーよ!!」


っていう、ミスタお兄ちゃんのごもっともな返事に、ようやく自意識過剰な自分に気づいた。

ちょっと恥ずかしくなったので、私もジョナサンと一緒に、しばらく引き込もってようと思いました。
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