裏書庫
□✿意地悪
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「……」
耳元で名前を囁かれる。
普段とは違う、男を思わせる低い声で。
その度にぞくりとして体を震わせてしまう。
「好きだよ」
「……っ」
私がこの声に弱いことを柳宿はもうとっくに知っていて。
夜になるといつもそうだ。
私を惑わせるためだけに、わざと…
「ふふ…分かりやすい子ねぇ、本当に」
「あ、」
内腿のあたりに手を添えられ、ツツ…と指を動かされる。ピクリと反応して今度こそと期待してしまうも、やっぱりそこに到達することはなくて。焦れったくて足をもじ、と動かしてしまう。
「どうして欲しい…?」
囁いてくるその声に、またぞくりとしてしまった。
熱い眼差しを向けてきた柳宿に壁際に追いやられ、立ったままの状態で先程からずっとこうして弄ばれている自分。
すでに半裸状態で、体のあちこちを撫で回されている。その優しくも焦れったい手の動きと、耳元で低く響く声に、毎回どうしようもなくソノ気にさせられてしまうのだ。
「……ね、ぇ…」
いつまで経っても先に進まない状態に堪らなくなって、彼の首元に自ら腕をまわした。
「ン……」
「…」
唇を寄せれば優しく応えてくれる柳宿。
温かくて柔らかい唇と舌が、官能的な口づけを繰り返してくる。
でもそれでも太腿から動こうとはしないイジワルな手。耐えかねて、触れるか触れないかのギリギリのところで蠢いているその手を掴み、恥ずかしさを堪えながらその部分へと誘導していった。
「…なぁに?」
「……っ…」
触って欲しいという精一杯の懇願も虚しく、顔を離した途端にニヤリと笑い尋ねてくる柳宿。
絶対分かっているくせに。
「…い、じわる……」
「うふふ……その顔、堪んないわぁ……♡」
とろりとした眼差しと心底楽しそうな声。
私をこうやっていじめて弄ぶことが、楽しくて仕方ない様子だ。
「!あ、」
不意に指を動かされて思わず声が漏れてしまった。ゆっくりと動く焦れったくも甘いその感覚に、咄嗟にぐっと唇を噛み声を押し殺す。
「何我慢してンのよ…こうして欲しかったんでしょう?」
「ん、ぅ…」
ビクビクと体が動いてしまう。
酷く焦らされていたせいだろうか…すごく感じてしまうけれど、何だか物足りなくて。
つい腰が動いてしまう。
「ふふ、足りないかしら?」
「…」
「……コッチの方がいい?」
「!」
服の隙間からいつの間にか取り出していたモノを、直接肌に当てられている。
暗くて見えないけれど…すっかりと形が変わっているのが分かる。それが私の肌に触れると同時に柳宿の熱い息が首筋にかかるのを感じた。私を弄びながら自身も酷く興奮していたようだ…その息遣いに共鳴するように、期待からぶるりと体を震わせた。
「欲しい…?」
「…」
「ねェ、」
恥を拭いきれずに黙り込むだけの私に、痺れを切らした柳宿がまた低い声を出す。
「欲しいって……言えよ、ほら」
「!あ、」
片足をぐいと上げられ、それを押し付けられる。つぅ…と太腿に伝い落ちるものが、どれだけ自分が期待してしまっているかを証明しているようで、恥ずかしくて顔がさらに熱くなってしまう。でもそれでも言葉は出ずに、ふるふると頭を振った。
「欲しくないの?」
そう言いながらその伝い流れたものを指ですくい取り、意地悪く目の前に見せてくる柳宿。
もう泣いてしまいそうだ…
それでも、夜の彼は喜ぶだけなのだ。
「なんだよ。泣くくらいなら素直に頼めばいいだろ?」
「……う〜……」
普段は優しくてもやっぱりどこかいじめっ子気質な彼。でもそんなところにもどうしようもなく惹かれてしまっているのも、そして興奮してしまっているのもきっとお見通しなんだろう。
「ね、ぇ…意地悪、やめて…」
「もっとして、って聞こえるんだけどォ?」
「そんなこと…ないもん。意地悪な柳宿なんか、嫌い…」
「……へぇ、そう」
「!!あ、あ、あああっ……!!」
「素直じゃないわねぇ…ほんと…にっ……」
思い切り突き上げられて、つい大きな声をあげてしまった。
「……っ、ハァ……あたしのこと、好きで好きで……欲しくて堪らなかった…くせ、に…!」
「あ、あ……!」
腕と両脚を巻き付けるようにして、揺れ出すそのカラダにしがみついた。
「柳……娟……」
「……っ」
耳元でその名を呼ぶと、ピクリと反応をみせる彼。
待ち侘びた快感に翻弄されながらも、名を呼ぶ度に私と同じ様に体を震わせ息を飲むその様子に、密かに笑みを零す。
「柳…娟……、柳娟……っ」
仕返しとばかりに何度も耳元で名を呼んだ。
自然と零れてしまう熱い息と共に、できる限りの甘い声で。
「柳娟……、好きよ………」
彼が果てるまで、耳元で甘く甘く囁き続けた。
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