夜が帷を降ろすまで
□はじめまして
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「お疲れ。」
部下想いな男から温かいコーヒーを手渡されて、慰められている気がした。
「幻影旅団だったんだって?」
「はい。」
ヨルマは、彼女用にと要らぬ砂糖が大量に入ったコーヒーを口につける。
「旅団相手で、お前もよく逃げられたな。タルカネも無事だし上出来だろ。」
「ありがとうございます。」
当のタルカネは、ヨルマが戦闘に持ち込まず安全を優先したことで大変腹を立て、さっさと帰ってしまった。
ヨルマの中には、お金持ちのする事はよく分からないとか、ボディーガードは専門外とか、理不尽とか、色々言いたいことがあったが、明るいシャンデリアの下で自分を不特定多数に晒したことが一番恐ろしかった。
“誰かに見られていたかも知れない”
あの幻影旅団がどこかの物好きたちが始めた少額の賞金を狙って、個人に執着する事はほとんどないだろうけど、これからの仕事に障るようなら困る。
ぐるぐる頭の中で巡らせていると、
「ま、大丈夫だろう。」と、頭にポンっと手が置かれた。
…ポンポンと、さらに二回追加される。
優しいけれど、この人の大丈夫は大丈夫じゃない事が多い。
ヨルマは、舌に残った甘ったるい苦味を気持ちと一緒に飲み込むことにした。