夜が帷を降ろすまで
□はじめまして
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「ところで、噂に聞いたのだが、どうやら君のところには、腕利きの女スパイがいるらしいじゃないか。」
「タルカネさん、それは単なる噂話ですよ。」
「ごまかさなくても構わんよ。こっちは信頼の出来る筋から聞いたんだから。ま、君たちが委託を行っている機関の1つからとしか言えんがね。」
「…。」
「隠密には勿体無いぐらいの美人らしいじゃないか。
その彼女に今度のオークションのボディガードを頼めないかと思っているんだが、どうかね。礼ははずむし、そちらとしても特に悪い話ではないと思うがね。」
薄暗い応接間で、重厚なテーブルを挟むやり取りが続く。
「…彼女は、防御型でも攻撃型でもない。ボディガードには向かないと思いますよ。隠密を外に晒して、こちらとして何も良いことはないはずですが。」
「ワシとしては、夜の闇に紛れさせたら無敗の"暗闇の女王"を連れて歩いてみたい、それだけなんだがね。ワシはこう見えて見栄っ張りだから。」
「…。」
…見栄に振り回されてたまるかよ。
光る眼鏡の奥で、男の目がそう言っている。
「君の大事な部下と言うなら、そうだな。君んところでは、ミツグロ商事の案件も扱っていたな。事情を知る者に引き合わせてやってもかまわないぞ。」
「…。」
眼鏡の男のこめかみに、力がこもる。
「いやいや、断るのは構わんよ。君の上にも私の知り合いがいるのでね。
ここで断られたところで、結果は変わらん。」
「…。」
汚物にまみれたこの豚が…
いつか徹底的に取り調べてやる。