DREAM

□02.I want to see you
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02.MGS:TPP KAZUHIRA

セーシェル近海にマザーベースを構える、ここ
ダイアモンド・ドッグズでは今日も相変わらず
何処と無い緊張感で溢れていた。

声帯虫を原因とした未だ謎の深い感染病はボス
であるスネークの手により終結へと向かっては
いたが、完治したと思われる声帯虫を医学的に
調査している医療班は未だ篭ったまま医療プラ
ットフォームから出て来やしない。

ここ数日、研究や調査の為に篭りっぱなしの医
療班と誰しもが顔を合わせて居ない事と同時に
ダイヤモンド・ドッグズにて副司令官を任され
ているカズヒラこと、カズヒラ・ミラーも医療
班にて身を置いている彼女の顔を随分見て居な
かった。

「おいカズ、聞いているか」

「ん...あぁ、ボス」

「そう言う事だ、もう少し医療班を気遣ってや
  ってくれ」

半ば上の空で聞いていたスネークの言葉に曖昧
な返事を返して見せながら、カズヒラは握って
いたロフストランドクラッチに力を入れ直し歩
みを医療班のあるプラットフォームへと向けた。

気持ちの全てを任務に集中してもらう為にも、
マザーベース内の不祥事等はカズヒラやオセロ
ットが対応を施し解決へと押し切って来た。

だが、スタッフの士気を上げる為にはカズヒラ
やオセロット相手では何の意味も為さなかった。

スタッフは飽くまで、ボスであるスネークの下
で責務を果たしているのだ。

カズヒラが今、医療班に顔を出したとしても士
気は落ちるばかりでは無いだろうかとすら思う
のだが、彼女に会う為にはこうした口実が無く
てはならなかった。

幾分遅い足取りで辿り着いた医療プラットフォ
ームには相変わらず消毒液の独特な香りが漂っ
ていた。

慌ただしく動き回る医療班スタッフの間を抜け
ながら、目当てである彼女の姿を探し始める。

「お疲れ様です、今の進行状況ですが」

何時もの様に状況を把握する為に来たのだろう
と思っているスタッフは、動かしていた歩みを
止めて半ば早口にそう言った。

「いや、それより... 桃は居ないか」

「呼んできます、少々お待ち下さい」

足早に消えて行くスタッフを送り出しながら久
しぶりに口にした彼女のコードネームに、カズ
ヒラは胸を焦がしている最中だった。

彼女がボスであるスネークに連れられMSFにや
って来たのはかれこれ、9年前になるだろうか。

あの頃の出来事を思い出してしまうと、何だか
嫌に気恥ずかしくなってしまうカズヒラは彼女
がやって来る間、何事も考えて居なかったかの
様にして目の前に広がるインド洋に目を移した。

「ミラー副司令」

態とらしく呼ばれた名称に、振り返ってみれば
真っ白な白衣を纏った彼女がカズヒラに向かい
歩みを進めている最中だった。

海風に吹かれ、靡く彼女の黒髪や色白な肌の色
そして何より嫌味ですら嫌味に聞こえたりはし
ない物腰の柔らかい言葉の選び方に日本人らし
さと、彼女の育ちの良さを感じさせた。

「医療班の動きはどうなってる、順調か?」

「発症していたスタッフ達は回復に向かってい
  ます、が...」

「結果が出ていない事は俺達も重々分かってい
  るから大丈夫だ、それより...俺が言いたい事
  が分かるだろう?」

カズヒラは曖昧な態度を取りながら、彼女へと
一歩づつ歩みを進めて見せた。

距離が幾分近づいた事で変わった様に見える雰
囲気に、お互いドギマギしてしまっている。

「会いたかったなんてらしくない事、言わない
  でしょう?」

「いいや、今日は言わせてもらう」

「誰にでも言ってるくせに...」

ぽつりと呟いた彼女の表情は、副司令官とメデ
ィックと言う関係性を感じられるものでは無く
一人の女としての表情を浮かべていた。

そんな彼女の表情の変化を逸早く感じ取ったカ
ズヒラは、既にだらしの無い笑みを浮かべてし
まっている。

「今はお前だけだ」

半ば無理矢理に引き寄せられた彼女の華奢な身
体は、カズヒラの逞しい腕の中へと飛び込んで
行くが耐え切れず、その場で倒れ込んでしまう。

生憎ロフストランドクラッチを使用しているカ
ズヒラには、彼女の身体を支えられる程の力を
持ち合わせていないが故に仕方が無い事だろう。

カズヒラの身体に覆い被さっている彼女は、見
下げた所で可笑しそうに笑みを浮かべるカズヒ
ラに釣られる様にして、苦笑を洩らした。

「今はって何なの...今まで誰かに言ってたの?」

「言ってたらなんだ、今の俺がお前だけだと言
 っているんだからそれで良いだろう」

「パリジェンヌがタイプだって事、忘れてない
  んだから...」

「セシールの事をまだ気にしてるのか?」

「もちろん...ばか」

何処か自分を見つめる彼女の視線が弱々しく見
えてしまう為、カズヒラは手を伸ばし彼女の頬
へとゆっくり触れた。

生暖かい海風に晒されていた頬は、何処かカズ
ヒラが考えていたより温もりに溢れていたのだ。

「隣に居るのはお前だよ、桃」

ふわりと柔らかく微笑んだ彼女の存在が、何も
かもを失ってしまったカズヒラの心の拠り所に
なっている事は相変わらず、確かの様だった。



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「カズ、医療班を気遣ってやれとは言ったが...
  誰も桃だけだとは言ってないだろ」

「スネーク...何だ、違ったのか?」

「他のメディックがお前らの姿を見たらしい、
  今じゃその話で持ち切りだ」

「良いじゃ無いか、息抜きも必要だろう」

「何が息抜きだ...司令室へ戻れ」

「スネーク!」

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