DREAM

□04.Despair and love
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04.MGS:TPP KAZUHIRA

柔らかい日差しが今日も甲板を照り付ける為
マザーベース上の気温は普段に比べると幾分
暑い様に感じた。

そんな暑さに怠けて、彼女は何時も肌身離さ
ず身に付けている医療用白衣を半ば捨てる様
に脱いで見せた。

一年中蒸し暑い熱帯雨林気候のセーシェル近
海だが、今日は特別暑いのだ。

脱ぎ捨てた白衣を甲板の手摺に掛け、ぱたぱ
たと手で風を起こしてみるが全くと言って良
い程に意味を成していない様だった。

ちらりと直ぐ下を警備する兵士に目を向けて
相変わらずの暑そうな軍服に、見ているこち
らが眩暈で倒れてしまいそうだと彼女はゆっ
くり目を細める。

普段ならば少なからず風が吹いているのだと
言うのに、暑さをより一層実感する今日ばか
りは一吹きもしないのだ。

生温いと文句ばかりを言っているが、無けれ
ば無いで寂しいものだと矛盾ばかりを口にし
てみせた。

背後からこちらに向かって聞こえてくる甲板
に響く足音とロフストランドクラッチの無機
質な音に彼女は直ぐ、相手が誰なのかと言う
事を察した。

ちらりと振り返って見ると、案の定彼女が思
い浮かべていた人物であるカズヒラが立って
居た。

彼女とカズヒラが顔を合わせる時と言えば、
随分気紛れで合わない時は何日も顔を合わせ
ない。

改めて会う時など、お互いが寂しいという感
情や会いたいという感情を胸に宿した時ばか
りだろう。

彼女の顔を見た途端、無表情を決め込んでい
たカズヒラでさえもあの時の様に表情を柔ら
かくして見せるのだ。

「司令部からは距離があったでしょう?」

カズヒラの体力を気遣って口を開いた彼女だ
ったが、そんな事は気にも止めていないのだ
と言わんばかりにロフストランドクラッチを
手放したカズヒラは大きな身体を彼女の華奢
な身体へと預けた。

大きな音を立てて無造作に投げ捨てられたロ
フストランドクラッチも気になるが、彼女は
それどころかカズヒラの身体を支える事に手
いっぱいなのだ。

勿論、そんな彼女の気持ちなど知る由も無い
カズヒラは幾分華奢な彼女の肩に大きな腕を
回し、この距離感に満足している様な笑みを
浮かべるのだった。

「距離はどうでも良い...それより俺くらいの
  男を支えられんようだと、医療班としては
  思いやられるな?」

「私の所に運び込まれる人は担架が必要な程
  重症なスタッフばかりなの、こうして支え
  なくちゃならないのは貴方だけよ」

心配していた自分が惨めだと感じながら、彼
女は皮肉じみた言葉をカズヒラに投げかけた。

が、そんな皮肉でさえも先程から耳に入らな
い程に久々に顔を合わせた彼女に夢中になっ
ているカズヒラはそれどころではない様だ。

浮かれている様に見えるカズヒラの表情に少
なからず嬉しい気持ちを感じさせながらも、
それがバレない様に必死になっている彼女も
素直では無かった。

足元に転がったロフストランドクラッチの先
を爪先で強く踏みあげれば、テコの原理で浮
き上がったロフストランドクラッチは彼女の
手の中へ自動的に戻って来る。

一部始終を見ていたカズヒラは器用なモノだ
と感心して見せながら、彼女の手の中にある
ロフストランドクラッチを自分の腕へとはめ
込んだ。

おかげで、幾分身体の重さを感じなくなった
彼女はちょっぴり視線を落としながら、カズ
ヒラの無き腕の方で宙を舞っているコートの
袖をキュッと掴んで見せた。

「何してる」

「手を繋いでるの」

「繋ぐなら、こっちがあるじゃないか」

何処か視線を外しながら、コートの裾を強く
握る彼女の表情をサングラスの下からじっと
見つめた。

「日本に、三島由紀夫って言う小説家が居る
  事を貴方も知ってるでしょう?」

「あぁ...良く知ってる」

「私の鼻は大きくて魅力的でしょう、などと
  頑張っている女の子より美の規格を外れた
  鼻に絶望して人生を呪っている女の子の方
  を愛します、それが "生きている"と言う事
  だからって彼は書いてる」

「何が言いたい?」

「絶望して人生を呪っている方が、人間とし
  て生きているって言う事」

「今の俺みたいだと?」

「そんな貴方を愛してるって言ってるの」

彼女の理屈ばかりな台詞に苦笑を洩らして見
せるカズヒラだったが、こうして回りくどい
言い方でしか伝える事が出来ないのが彼女な
のだと言う事に改めて気付かされる。

そして何より、そんな彼女から出た言葉に期
待と希望を抱いてしまっているのだからどう
しようもないのだとカズヒラは自分自身に呆
れてしまうのだ。

「愛は絶望からしか生まれない、これも三島
  由紀夫の言葉だ...皮肉だと思わないか?」

「私達の愛も絶望から生まれたんだから、反
  論なんて出来ないわ」

「絶望、なんて...スネークが聞いたら文句を
  言われるだろうな?」

照りつけていた太陽に厚い雲が掛かると同時
に、あれだけ眩しかったマザーベースの甲板
が途端に光を失ってしまう。

それでも尚、吹き続ける生温い風に嫌悪感を
抱きながら隣でも同じ事を感じているのだろ
うカズヒラの表情を彼女はちらりと盗み見た。

絶望の中で生まれた二人の愛は、こうして今
も幸せを夢見ているのだろうかと蒸し暑い風
が知らせてくれている様だった。



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「抜けている様に見えて、物知りなんじゃな
  いのか?」

「抜けてる様にって...失礼じゃない?」

「イメージだ、イメージ」

「イメージなんて言葉で誤魔化されないわ」

「桃...何だ、愛してるよ」

「ボスに相談するわよ」

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