DREAM

□05.With the night sky
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05.MGS:TPP VENOM

一年中熱帯雨林気候であるインド洋セーシェ
ル近海に位置するマザーベースにも、冬がや
って来ていた。

冬と一言で言ってしまっても、なにせ一年中
夏と変わらない気候をしている為なのか暦で
確認しなければ、今が冬かどうかなど分かる
筈も確かめようも無いのだった。

強いて言うならば、夏場に比べると降水量が
増えた事くらいだろうか。

今が冬なのだと言われなければ分からない環
境下で生活する事に慣れてしまっている彼女
は、ふわりと呑気な欠伸を洩らしながらココ
アの入ったマグカップ片手に医療プラットフ
ォームの甲板から、目の前に広がる壮大な海
を見つめていた。

冬とは思えない暑さの中で湯気の立つココア
に口を付けているのは、彼女なりに考え出し
た冬の感じ方なのだと言えるだろう。

黄昏ながら、ココアで冬の雰囲気を感じては
ふと、今日は早めにシャワーを浴びて自室で
読書でもしながら夜を楽しもうかなどと良い
事を思い付く。

何せクリスマスが近い事もあり、こう見えて
もマザーベース内はやけに浮かれているのだ。

今ばかり、そんなクリスマスの浮かれ具合に
少し乗ってしまっても許されるのではないか
などと、ちょっぴり悪い事を考えて見せた。

彼女は未だ半分しか減っていないココア入り
のマグカップから口を離すと、踵を返す様に
して甲板を後にした。

向かった先は彼女が普段出入りしている第二
甲板の治療室だった。

此処へ送られてくるスタッフは、ボスである
スネークが戦地へ任務を遂行する為に赴いた
際、フルトン回収をされた者ばかりなのだ。

重傷を負っているスタッフが少ない事もある
のか、此処に数ヶ月も止まる様な者は未だ出
てはいないが、彼女の手元にはスタッフの数
え切れない程のカルテと未完成の研究資料ば
かりが残っていた。

今日は夜の有意義な時間の為に、少しばかり
無理をしてでも片付けなくてはならないのだ
と気合を入れる。

全てを終わらせる事が例え出来なかったとし
ても、カルテを片付ける事だけは終わらせて
しまいたいと意気込んだ時。

背後から腰に回された太く逞しい腕に身動き
を封じられてしまう為、彼女は思わず身体を
強張らせて見せた。

が、自分の腰に回された腕がバイオニックア
ームだと気付いた彼女は、安心を表す吐息を
吐き出した。

「ボス...」

腰に回されたバイオニックアームに自らの手
を重ねた彼女に対し、ボスことスネークはそ
れが合図だったと言わんばかりに彼女の肩に
顔を埋めた。

「どうだ、見つけるのが上手いだろう?」

自信たっぷりに言われたスネークの言葉に、
彼女は苦笑を洩らしながらも自らを求めてこ
の広いプラットフォームを歩き回っていたス
ネークを思い浮かべると、苦笑でさえも段々
笑みに変わってきてしまうのだ。

「でも、どうして此処に居ると?」

「それはカズに聞いたんだ...それより、今か
  らそれに手を付けようとしているな?」

「せめてカルテだけでも片付けようかと...」

彼女のデスクテーブルに広げられた沢山のカ
ルテや研究資料に目を向けたスネークは、幾
分彼女の腰に回している腕に力を込め直す。

勿論、そんなスネークの動作を見逃したりし
なかった彼女は首を傾げながら返事を待つが
返事の代わりにそのままの勢いでお姫様抱っ
こをされてしまう。

「時間はたっぷりある、カルテの片付けは後
  日こなしたら良いだろう」

「待って...何処に行くの、ボス?」

「何処が良い?」

意地悪に聞き返されてしまう為、彼女はそれ
以上何かを言葉にする事も出来ずに口を噤ん
で見せる。

そんな彼女の大人しい態度に含み笑いを浮か
べるスネークは、少しばかり力を入れただけ
でも折れてしまいそうな彼女の華奢な身体を
しっかりと支えながら歩みを進めた。

医療プラットフォームを抜け、貨物車に乗せ
られた彼女とスネークが向かったのは中央に
位置している甲板、司令部プラットフォーム
だった。

お姫様抱っこをされて歩いているのだ、甲板
ですれ違うスタッフは不思議そうに彼女を見
つめながらもスネークに向かって姿勢を正す。

二人の関係を知っている者も少なくは無いが
マザーベース内の全スタッフが知っているの
だと言う訳でも無い。

不思議な顔をされて当然だろうと思ってはい
るが、改めて二人でいる所を見られてしまう
と彼女からしてみれば、堪らなく顔が熱くな
り恥ずかしかった。

そんな彼女とは裏腹に寧ろ堂々としている様
に見えるスネークは、こちらを見つめるスタ
ッフを横目にズカズカと歩みを進めて行った。

向かっている先など彼女にとっては到底分か
らなかったが、こうしてスネークの腕に抱か
れている事が事実なのだと言うだけで今まで
に無い程の優越感を感じていた。

また、そんな彼女同様にスネーク自身も自分
だけが彼女の特別なのだと言う事を分かって
いる為、今が堪らなく有意義だと思っていた。

中央甲板を抜けて、スネークが向かった場所
は普段誰も立ち寄る事の無いスネークの自室
だった。

任務の為に戦地へ赴く事ばかりであるスネー
クにとって、自室と言う感覚は寧ろ無いに等
しいと言えるだろう。

使わない方が多い自室は今や彼女を連れ込む
都合の良い場所へと成り果ててしまっている。

半ば無理矢理に押し開けたドアからは、普段
手入れを怠っているのだと直ぐに分かってし
まうほど埃っぽい。

彼女や他スタッフに配給されている部屋とな
んら作りは変わらなかったが、唯一違う所と
言えば寝具であるパイプベッドの横壁に設置
された丸い舷窓がある事くらいだった。

「悪い、ここ最近使っていないんだ...シーツ
  は新しい物を用意させたから平気だろう」

申し訳無さそうに呟いたスネークは、彼女の
身体を綺麗に整えられたベッドの上へと優し
く下ろして見せた。

真昼間からスネークに拉致をされ、自室のベ
ッドに下されてしまったのだからこれから何
が始まるのかなどと言う事は鈍感な彼女です
ら理解出来てしまう。

けれど、下される前から気になっていた舷窓
に彼女は夢中になってしまっている。

「ボス...此処で寝起きしてないの?」

「あぁ、使わない方が多いかもしれないな」

使わない方が多いと言う事は、スネーク自身
がマザーベースに帰還する事も最近怠ってい
たのだと言う事に間違いは無い。

彼女の言葉に、そう言う意味なのだろうと捉
えたスネークはまるで機嫌を取る様にして舷
窓から外を見つめる彼女の身体に身を寄せた。

「きっと、此処から見える夜空は綺麗よ...」

ぽつりと呟きながらまだ明るい空を仰ぎ見る
彼女の綺麗な横顔に、スネークは思わず息を
飲んだ。

「今晩、たっぷり見ておくと良いさ」

スネークの言葉に反応する様に窓の外から目
を離した彼女は、照れ笑いを浮かべて見せる。

そんな彼女の表情を合図とし、スネークは細
い彼女の腕を引いて硬いベッドに押し倒した。

「まだ夜空を見るには早過ぎると思わない?」

「今から捕まえて置かないと、お前は直ぐに
  隠れてしまうだろう?」

「何時も突然だからよ、居なくなるのも帰っ
  てくるのも...」

「俺には成し遂げなければいけない事が沢山
  あるんだ、分かってくれていると思ってる」

「勿論よ、そんな貴方に...ボスに惚れたの」

舷窓から入り込む暑苦しい太陽の光が、彼女
の白い肌を照らしスネークの目に焼き付いて
離れない。

バイオニックアームではない方の手から、普
段着用しているレザーグローブを器用に口で
外し、ベッドの下へと投げ捨てる。

割れ物を扱う様にして彼女の柔らかく白い頬
に手を触れさせて見れば、ドクンと胸が熱く
なった事がスネーク自身にも理解が出来た。

「ボスでもスネークでも無い、今は俺達二人
  だけだ」

「...エイハブ」

彼女の口から出た優しい" エイハブ"という名
に、スネークは目を細めながら彼女に相応し
い柔らかいキスを降らせる。

舷窓から美しい夜空を見るには、まだ幾分時
間が早過ぎるだろう。

冬とは思えない蒸し暑く、埃っぽいこの部屋
で二人は幾度と無くお互いを確かめ合うのだ。



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「桃...甘い物でも食ったか?」

「どうして?」

「キスがやけに甘ったるい」

「あぁ...さっき、ココアを飲んでたの」

「この暑さの中でか?」

「そうよ、冬を感じなきゃ...貴方も飲む?」

「いや、遠慮しておこう」

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