DREAM

□06.Let's go home together
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06.MGS:TPP VENOM

場所はアフガニスタンカブール北方、ダイア
モンド・ドッグズから輸送されていた戦闘部
隊の一部が重傷を負ってしまったと言う話を
知らされた彼女は、数名のメディックを引き
連れ戦地へと赴いていた。

戦闘ヘリでは近付けない場所にてテントを張
っていた戦闘部隊を治療するには、唯一医療
班の中でパラメディックとし医師と同等の技
術を持ち合わせている彼女が必要とされた。

長年培われて来た経験を頼りに戦地へと向か
った彼女達は数日間の間、別テント内にて負
傷をした兵士達の治療に専念していた。

筈だったが、重たい銃声が鳴り響くと同時に
甲高い悲鳴や視界を覆う血飛沫で少なからず
安全だと思われていた治療用テント内は直ぐ
様、戦場へと化してしまった。

気が付けば何処か知りもしない独房に入れら
れ、身柄を拘束されていた彼女は助けを求め
る事も出来ないまま、冷たいコンクリートの
床に頬を寄せる事しか出来ないでいた。

瞬間的に起こった出来事に、今自分自身がど
の様な環境下に置かれているのかなどと言う
情報は一切分からなかった。

唯一分かってしまうのは、この薄暗く冷たい
場所に数日監禁されているのだという事実だ
けだった。

虚ろな意識の中で、仲間達の悲痛な叫び声が
こだまする様に聞こえて耳から離れてはくれ
ないのだ。

視界を覆った血飛沫も、思い出すだけで気分
が悪くなってしまう。

他のメディック達はどうなってしまったのだ
ろうか、無事逃げられたのだろうかと考えて
いた矢先。

カツカツと遠くから聞こえてきていた足音は
彼女を拘束し、監禁している部屋の前でゆっ
くりと止まった。

重たい鍵が開けられる音がした数秒後に、錆
ついて建て付けの悪くなったドアが半ば無理
矢理に開けられた事が分かった。

助けを乞わなくてはならない、と本能的に考
えた彼女は重たい身体を懸命に動かしながら
開けられたドアの方へと少しずつ近づいて行
こうと試みる。

が、捉えている兵士に捉えられている者の気
持ちなど分かる筈も無い。

無造作に腰を蹴られ、転がされた彼女に向か
って銃口を向けた兵士はマスクの下で不気味
に笑みを浮かべるのだ。

「全て吐け、何処のメディックだ?」

兵士の言葉がペルシア語だと咄嗟に理解出来
たのは、以前ボスであるスネークから話を聞
いていたからだった。

ペルシア語で何を言われているかという事は
ある程度理解が出来ていたがダイアモンド・
ドッグスの一員として内部の情報を漏らすな
どという事は言語道断なのだ。

女である事を良い事に尋問と拷問を繰り返し
ていれば、何か情報が聞き出せるとでも思っ
ていたのだろう。

何かを失ったとしても、ボスであるスネーク
の為ならば何をされようが決して口を開いて
はいけないと言うのが鉄則だった。

「そんな事、教えてどうなるって言うの」

挑発的に言葉を返した彼女は半ば無理矢理に
笑みを浮かべて自らを見下ろす兵士を睨み返
して見せる。

勿論、反抗的態度を取られた事が気に食わな
い兵士は彼女へと向けていた銃口で思い切り
頬を叩く。

痛々しい音が冷たい部屋に響くと同時に、口
いっぱいに血の味が広がった。

どうやら血が出ているのは口内だけではない
らしく、頭部が嫌に暖かく感じるのだ。

「女だと思って調子に乗りやがって...」

段々と遠退いていく意識の端で、ペルシア語
が聞こえてくるが今の彼女には聞き取ってい
る様な余裕は無い。

痛みが段々と和らぐと同時に、彼女はゆっく
りと意識を手放していった。



スネークが現場に到着した頃には、医療班が
張っていたテントは既に原型を留めていない
程の破損を起こしてしまっていた。

辺りは無惨にも血の海に染まり、地面にちら
ばる薬莢が足の踏み場を無くしている原因に
なっている。

カズヒラの無線や生き延びたメディックの情
報から彼女の居場所を探し出す頃には、既に
随分の時間が過ぎてしまっていた。

眉間に皺を寄せ、最悪の場合が無い様に願い
ながらスネークはD-horseの手綱を引いた。

勢いに任せて砂を舞わせ、生温い風を切って
走る事数千キロ。

ダイアモンド・ドッグズの兵士やメディック
が襲われた拠点付近に位置するワンデイ集落
から随分南下した場所へと辿り着いていた。

時刻は既に正午を迎えようとしているが、熱
帯雨林気候特有の不安定な気圧のせいか今に
も雨が降り注いでしまいそうだ。

このまま雨が降ってしまえば足音や気配、ヘ
リのローター音ですら幾分緩和されるだろう。

少しながらの期待に曇った空を見上げながら
彼女が監禁されているであろう朽ち果てた廃
屋へと歩みを向けた。

『ボス、桃はこの地下に居る』

無線から聞こえるカズヒラの声に、何時も以
上に耳を傾けるスネークは大きな身体を辺り
に同化させ姿を眩ませて見せる。

「あぁ...分かってる」

『必ず救い出してくれ、俺からの願いだ』

無線越しでも分かるカズヒラの切実な物言い
に深く同意する様にして、スネークは身を潜
めながら彼女の待つ地下へと向かい突き進む。

と、雨が降ってきたのか朽ち果てた廃屋の剥
き出しになった鉄骨に雫がボタボタと音を立
てながら地面へと滲みを作った。

どうやら見張りは持ち場を離れている様で、
人質を取っているにしては無防備だと物静か
でいて無人である屋内を見渡し直す。

地下へと繋がるコンクリートで作られた、今
にも崩れてしまいそうな階段を下って行くと
突き当たりに一つだけ部屋がある事が分かる。

他の部屋とは明らかに違うと感じる壁は分厚
いコンクリートの上から何重にも鉄格子がは
め込まれていた。

武器も何もかもを奪われてしまった捕虜等が
入れられてしまえば、幾ら抵抗したとしても
出られる保証など無いだろうと言う事が見た
だけで分かってしまうのだ。

そんな分厚い鉄格子から、ちらりと目を離し
たスネークは壁に沿ってはめ込まれたドアを
半ば無理矢理に壊して見せた。

重たいドアがゆっくりと開くと同時に冷たく
硬いコンクリートの床に転がされる彼女の衰
弱し切った姿が目に入る。

「桃...しっかりしろ、桃」

何日もの間拘束され、此処で尋問ならぬ拷問
を受けてきたのだろう。

身体中に付けられた傷は生々しいものばかり
であり、右頬は殴られたか蹴られた時に切れ
たと思われる血で真っ赤に染まっていた。

スネークの呼び掛けに虚ろながら目を開ける
彼女は、顔を歪めながら真っ直ぐにスネーク
の目を見つめ返した。

溢れる涙が乾いた頬の血に滲み、ゆっくりと
垂れてコンクリート上に丸く深い滲みを作っ
ては消えていった。

「ボス...迎えに来てくれたの?」

口に広がる血の味に苦笑を洩らす彼女は精一
杯の強がりとして、そんな言葉を口にする。

強い女だと、彼女の苦笑につられる様に笑み
を洩らすスネークは辺りを警戒しながらも彼
女の華奢でいて酷く衰弱した身体を強く抱き
締めた。

「帰るぞ、桃」

スネークの言葉に深く頷いた彼女を抱き上げ
来た道を戻ろうとした時、近くから数名の兵
士達の声が聞こえた。

カズヒラの情報内にもあった様に、カブール
で主な主要言語として使われているペルシア
語が聞こえてくる為に耳を澄ませる。

腕に抱かれ、虚ろにスネークを見つめている
彼女から視線を外し、腰に付けているハンド
ガンを構えて見せた。

彼女を抱えたまま最大限に気配を消し身を潜
める事数分、段々と近づいてくる声と同時に
身を乗り出したスネークは勢い良くトリガー
を引いた。

既に壊れてしまったサプレッサーは役に立っ
て居らず、大きな銃声が何も無いコンクリー
ト家屋に響き渡るがスネークの手に掛かって
しまえば、その様な事など気にする必要も無
いのだ。

呻き声を上げながら、その場で倒れていく兵
士達を一瞥したスネークは唖然と一部始終を
見ていた彼女から目を離し、止めていた歩み
を進め直した。

地上に出ると同時に大粒の雨が二人の身体を
襲うが、スネークは自分の首回りを覆ってい
たスカーフを引き抜き彼女の身体を覆い隠す。

『こちらピークォド、ランディングゾーンに
  到着...待機する』

彼女の身体に負担を掛けない様にと、ランデ
ィングゾーンまで慎重に歩みを進めて行く。

ランディングゾーンにて待機しているヘリの
中へと身体を押し込めてしまえば、彼女を抱
いたまま飛び立つ態勢へと着く。

『上昇、離脱します』

ピークォドの言葉を合図に上昇していく機体
を確認し、スネークはようやく安堵の吐息を
洩らすのだ。

深い吐息を吐き出しながら、自分の腕の中で
虚ろにスネークを見つめる彼女をさっきより
幾分強く抱きしめ直した。

「心配させないでくれ、どうにかなりそうだ
  った...」

「ボス...ううん、エイハブ」

伸びてきた華奢でいて小さな手は沢山の傷で
覆われ、手先は血で染まってしまっていた。

そんな彼女の手を強く握り、自分の頬へと持
っていったスネークはゆっくりと目を伏せる。

「大丈夫だ、俺は此処に居る」

確かめる様に呼ばれたエイハブという名前に
スネークは自分自身を見出し、彼女の必要性
に気付かされるのだ。



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「心配掛けるな、こんなになって...!」

「ミラー...ちょっと辞めて、痛いから」

「ボス、ボスも言ってやってくれよ」

「まぁ...カズも心配したんだ、今は許してや
  ったらどうだ?」

「だからって、それを理由にしてベタべタし
  ないで!」

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