DREAM

□09.Holy night with you
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09.MGS:TPP VENOM

熱帯雨林気候の為に一年中蒸し暑い気温に包
まれているインド洋セーシェル近海にマザー
ベースを構えるダイアモンド・ドッグズにも
冬を感じさせるクリスマスがやって来ていた。

雪など勿論降っていなければ、見る事など有
る筈も無かった。

そんなダイアモンド・ドッグズも今日のクリ
スマスという日には争い事を忘れ去ってしま
い、スタッフの仲間と共にワインを飲み明か
すのだ。

自室にまで聞こえてくるスタッフ達の楽しそ
うな笑い声や話し声をBGMにしながら彼女
はパイプベッドに横たわったまま、耳に当て
た無線機に意識を集中させた。

『今は何をしているんだ?』

「せっかくのクリスマスだって言うのに貴方
  が居ないんだもの、一人で部屋に居るわ」

『それなら俺の部屋に行くと良いさ、今日は
  桃の好きな満月が見える』

「私が満月を好きな理由、知ってるの?」

『さぁ...綺麗だからだろう』

「それもそうだけど、月明かりの下で見る貴
  方は一段と素敵に見えるから」

『プロポーズか?』

「馬鹿ね、そう捉えてもらっても構わないわ」

彼女はクリスマスという特別な日に酔いしれ
る様にして、少しばかりキザな台詞を吐き出
しては、パイプベッドから身体を起こすと無
線機片手に部屋を後にした。

クリスマスには似ても似つかない蒸し暑さは
何時もと何ら変わりが無い。

ただ、隔てていた壁が一枚なくなっただけで
ヘリポートを中心にパーティを開いているス
タッフ達の楽しそうな声はより一層鮮明に聞
こえてくる。

カンカンと態とらしく音を鳴らしながら甲板
へと繋がる階段を降りて行った直ぐの場所に
依然使っていないに等しいスネークの部屋が
ある。

普段鍵など掛けられていないこの部屋には、
彼女を含めた他のスタッフ達の部屋には無い
舷窓が取り付けられている。

外の状況が分からないと、もしもの事があっ
た場合危険だと言う話も出ているがそれ所で
は無いミラーが住居モジュールの改築案を飲
むには、幾分時間が掛かってしまいそうだ。

それでも、スネークも彼女もお互いを部屋に
招き招かれる理由をこの舷窓としているのだ
から全ての部屋に設置されればある意味有り
難迷惑だろう。

相変わらず、鍵の掛けられていない埃っぽい
部屋へと歩みを進めた彼女は迷いも無く自室
にあるパイプベッドの二倍は有るであろう其
れに身を投げた。

『スタッフはどうしてる、楽しんでいるか』

「えぇ...ミラーがこの日の為に沢山のワイン
  を仕入れてくれたの」

『明日に響かなきゃ良いがな』

「二日酔い休暇を適用してあげて、私達は飽
  くまで傭兵でしょう?」

『そう言う時ばかり、傭兵を言い訳にしてい
  るんじゃないのか?』

「気のせいよ、ボス」

『そうだと良いんだが...』

普段ならば無線機を使って話す内容など任務
に関わる決まった事項ばかりだろう。

だが、無線機越しに聞こえるお互いの声は何
処か楽しそうでいて他愛も無いのだ。

仰向けに寝そべった彼女は、舷窓から差し込
む月明かりの眩しさにゆっくりと目を細めた。

スネークと共に見る月明かりとは幾分雰囲気
も意味も違う様に感じた彼女は思わず苦笑を
洩らして見せた。

「クリスマスを貴方と過ごせないくらいで我
  儘を言う程、私も子供じゃ無いわ」

『どうだか』

「何言ってるの...でも、無事に帰って来て」

『あぁ、分かってる』

スネークの返事を最後に二人の会話には沈黙
が続いてしまうが、嫌な沈黙では無い事が二
人の関係性を表している様だった。

彼女の無線機から聞こえる楽しげな声や陽気
な音色とは違い、スネークの無線からは無残
にも大きな銃声が響き渡っていた。

「ボス、聞こえるわ」

『始まったみたいだ、そろそろ切る』

「えぇ...」

『酒の入ったカズには気を付けろ、何時迄も
  昔の武勇伝を話してくるぞ』

「そうね...気をつけるわ」

『また連絡する』

一方的に切られてしまった無線機は、砂嵐の
様な音色を響かせてプツンと無気力に消えた。

彼女は握っていた無線機をベッド傍に設置さ
れているサイドテーブルへと置いた。

月明かりが眩しい程に輝いて、仰向けに寝そ
べる彼女の顔を照らして見せる。

同じ満月を見ているのにも関わらず、どうし
てこんなにも心境が違うのだろうかと彼女は
深い吐息を洩らした。

真っ暗な夜空に悠々と浮かぶ満月から目を逸
らし、ゆっくりと目を伏せる。

次第に近づいてくる睡魔は彼女の意識を段々
と奪っていった。



ポタポタと頬に伝う生温かい血滴に、手放し
ていた意識を戻した頃には既に壁の向こう側
から聞こえて来ていた楽しげな声は消えてし
まっていた。

暗闇に馴染まない目を懸命に馴らした彼女は
ベッドに横たわる自分を見下げている人影に
ゆっくりと手を伸ばした。

ぬるりと嫌な感触が広がると同時に、頬に又
ポタポタと血滴が落ちては彼女の頬を濡らし
た。

「派手にやってきたのね...ボス」

自分を見下げていた正体であるスネークの赤
黒く染まった頬を躊躇いもなく包んで見せた。

「真っ赤なサンタだって言うのはブラックジ
  ョークが過ぎるか?」

「全くよ、貴方に怪我は無い?」

「あぁ、お前が楽しみにしていたパーティに
  は間に合わなかったな...」

サイドテーブルに置かれた小さな置き時計は
既に日付を変えてしまっていた。

彼女はベッドから身体を起こし、スネークと
向き合う様に立つと羽織ったまま眠っていた
為にくしゃくしゃになってしまっている白衣
の裾でスネークの頬に付着した血を半ば無理
矢理に拭い取って見せた。

「私達の夜はこれからでしょう?」

彼女の言葉に笑みを浮かべたスネークは、真
っ白な白衣が自らが手に掛けた血で汚れてし
まった事を気にしているのか、軽々しく彼女
の身体を持ち上げる。

相変わらず、何処か消毒の香りを漂わせる彼
女に愛しさを感じながら幾分早足で、自らを
赤く染めている正体を洗い流す為にシャワー
ルームへと歩みを進めた。

時刻は既に日付けを変えてから一時間が経と
うとしている。

世間とは違い、少し男臭いクリスマスに染ま
っていたマザーベースは等に元の姿を取り戻
してしまっていた。

だが、二人のクリスマスはまだ始まったばか
りなのだ。



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「そう言えば、カズは来なかったのか?」

「貴方に連絡するより前に潰れてたわよ」

「飲み過ぎるなと伝えたんだがな...」

「でも、久しぶりにミラーの笑ってる姿を見
  た気がするの」

「そうか...カズが」

「貴方も今日くらいは笑っていて」

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