企画 小説

□秘密の色
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轟と付き合っている
寮生活
皆に愛されている
轟が甘えた










授業中は流石雄英と言うべきか、私語は全く聞こえない。たまに学校でのイベントを伝えられた時には、皆のテンションが上がりワイワイと騒がしくなることはあるが普段の授業ではそんなことは無い。その授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、次は待ちに待った昼休みということであり今までの静かな教室が嘘のように騒がしくなる。その中で轟も席を立ち、斜め後ろの席のめぐの元に行く。







「腹減った」

『だねー、ご飯食べに行こうか』








めぐは鞄からお弁当を出し立ち上がる。この2人が一緒に昼食を食べに行くことも珍しくは無いし、轟の短い言葉でもめぐは理解し一緒に行動することは今思えば入学早々からそんな感じだった。あまり轟は他のクラスメイトとは話さず、この2人はよく一緒に居た。いつの間にかお互い"めぐ""焦凍くん"と呼びあっており、職場体験ぐらいから轟は緑谷と飯田と話すようになり、この男子3人と緑谷・飯田と仲の良い麗日、そしてめぐと仲の良い蛙吹のこの6人で一緒に居るのをよく見かけるようになった。なのでこの6人で一緒にご飯を食べているのもよく見る光景だった。
そして轟は誰かと付き合いを始めたからと、報告するタイプでも無い。めぐも周りの女子達の恋愛話を笑顔で聞いていたりと、見守っているような感じで自ら恋愛話をするタイプじゃない。
なのでクラスメイトの誰も知らなかったのだ、轟とめぐが付き合い始めていたことに。
それが分かったのは、轟がめぐに近づく距離が近くなったからだ。その姿を見た上鳴が冗談で「付き合ってんのか?」と聞いたことが始まりだった。









「そうだな、付き合ってる」

「はあ!?い、いつから!?」

「いつ…」

『多分4ヶ月前くらい…かな?』

「5ヶ月前じゃねぇか?」

『え?本当?』












と、2人とも付き合った記念日も覚えておらずだった。
その事実にクラスは騒然とし、その後轟とめぐ質問攻めにされた。女子(特に葉隠、芦戸)は何ですぐに教えてくれなかったんだ!と問い詰めていた。その言葉に『言うタイミングがなくて…』と応えていた。そしてその事実を知らなかった4人(緑谷、飯田、麗日、蛙吹)は、次の日一緒に食べるのも邪魔をすると思い轟達と別々で食べたら2人に寂しがられたので今も一緒に食べている。
そんな風に、付き合っていることは知っているが、前と大して学校での2人の姿は前と変わらない。人前でベタベタするタイプの2人じゃないので、峰田は付き合ってる事を知った、その時以来血の涙は流してない。
それから2人の様子を見守って早1ヶ月、あまりにも変わらない2人の様子にある1部のクラスメイトは戸惑っていた。










「もっとカップルってイチャイチャするもんじゃないの!?」











葉隠がの制服の腕部分が動き、机を叩いている。それに芦戸は頷き麗日も「確かに…」と呟いた。









「いや!!そんなことされたら俺達が死ぬ!!」









その言葉に否定したのは上鳴だ、峰田は首を縦に動かしている。
皆恋人がいないので、ドラマや漫画、友人からの話で想像したカップル像はもっと違うものだった。











「でもめぐちゃん達がいいなら、私はそれでいいと思うわ」











蛙吹は口元に指を持っていき話す。それに同意するものもいるが、それに否定するものもいる。










「俺達に遠慮してんじゃね?」

「オイラ達に遠慮してるなら轟はもっと久我から離れるべきだと思うぜ」











切島の発言に峰田が突っ込んだ。
変わったと言えば、轟は常にめぐのそばにいる事だ。
だがそれもヒナが親鳥について行くような感じでそばに居るから、見てるこっちは鬱陶しくは思わないなと女子達は思っていた。











「でもめぐって日曜日はなつめがいるし」

「轟さんと一緒にいるところはあまり見たことないですわ」

「轟くんは日曜日はお見舞いに行ってるから…」

「確かにそうだな」












耳郎の言葉に八百万が反応する。それに緑谷と飯田も。それぞれがクラスメイト唯一のカップルに、意見を出す。本人達がいないので何も解決に繋がらないが、クラスメイト達は応援しているのだ。その様子を蛙吹は楽しそうに見ている。大切な友人から皆より一足先に報告を貰っていたことはここでは秘密だ。それにたまに聞く、めぐからの恋の話に轟のことが好きなことも2人が上手くいってることも知っている。だけどクラスメイトが、あの2人のことを心配して話し合ってるこの状況が嬉しくて仕方ないのだ。











***











『なんだか静かだね?』

「そうだな」







轟の部屋で2人して課題をしていたのだが、どうにも寮内が静かなのだ。轟の部屋のある5階はどちらかと言えば静かなメンバーなのだが、隣の瀬呂の部屋に一緒に居る上鳴達の声や、砂糖が作るお菓子の匂いや、その匂いにつられた女子達の声も聞こえない。寮内全体が静まり返っているのだ。
寮で会ったといえば課題を始める前に2人で飲み物を取りに行った時に、共有スペースで爆豪に会ったぐらいで他の誰にも会っていない。
なにか放課後あったのだろうか、と気になるが爆豪も寮に帰ってきていたのでそれは無いかと考え直す。
区切りが付いたところで持っていたシャープペンを置きひと段落だ。ふと、前に座っている轟の顔を見れば目をしばしばさせていた。







『焦凍くん、眠たい?』

「ん…」

『寝ていいよ、ちゃんと起こすから』







そう言うと轟はのそりと動き出し、めぐの右腕に轟の左手が触れた。その事に少し戸惑い、「めぐ」と名前を呼ばれたので顔を上げると轟と唇が重なった。距離が全く無くなったことで、轟の匂いが鼻をすり抜ける。唇が離れると次に視界に入ったのは、眠そうだけれどいつもより緩んだ表情の轟だった。






『…いきなりは心臓びっくりするからダメ』

「わりぃ、じゃあ次はちゃんと言ってからする」







その言葉にめぐは一瞬考えて、言われてからされるのも恥ずかしいと思い『やっぱり言わなくていいです…』と答え、轟は少し不思議そうな顔をしていたがわかった、と頷いた。
キスが初めてな訳では無い。なのに最初は少し轟も緊張していたのに、今は慣れてきたのか不意打ちでしてきたりとめぐの心臓は忙しい。前世の記憶もあるから恋愛に関しては、クラスの皆より経験は確実にある。なのに、高校生の男の子の行動に自分が振り回されていることも事実だ。
少し悔しく感じていると、轟の両腕が腰に回され胸に顔を埋めてきた。







『焦凍くんこの体勢苦しくない?』

「んー」




身長差があるので座っている私に凭れるように、胸に顔を埋めているこの体勢は苦しいはずだ。







『こんな体勢だと体痛くなっちゃうよ』

「膝貸して欲しい」

『しょうがないなぁ…』









体勢を整えれば、ぽすっと自分の膝…どちらかといえば太ももの部分に轟の頭が乗る。
こうやって振り回されることも多いけど、ついつい甘えてくる轟を許してしまうのは仕方の無いことだろう。
丸い形のいい頭を撫でるのは好きなので、好きにさせてもらっていると轟の目がどんどん閉じていく。





「めぐ…」

『ん?』

「それ好きだ」

『頭撫でられるの?ふふ、知ってるよ』

「知ってたのか…すげぇな」







轟は小さく笑い、次に聞こえたのは寝息だった。めぐは近くに寄せていたケータイを持ちカメラ機能を使い、寝ている轟の写真を撮った。その時メールが届き見てみると、蛙吹からのメールで"共有スペースに来て欲しい"という内容だった。その内容に少し頭を悩ませ、めぐは返信した。









放課後の教室で轟とめぐについて話し合っていたが、誰かが言った"本人達がいないと意味がなくないか"という発言にハッとし、寮に戻り共有スペースに呼ぶことにした。そして代表して蛙吹がめぐにメッセージを送った。すぐに携帯が鳴ったので蛙吹が確認すると、ケータイを見て笑った。







「ケロケロ」

「!梅雨ちゃんなんて!?」

「めぐちゃんと轟ちゃんは来れない見たいだわ」





その言葉に周りの皆は不満を言うが麗日は、蛙吹が笑顔なのが気になりチラリと画面を見ると轟の写真があった。






「え!?」

「あらお茶子ちゃん、見ちゃったの」

「ご、ごめん!!やけどちょ!!私見たい!!」






麗日の言葉に周りが反応し、なんだなんだと集まってきた。そこで見えた轟の写真に主に女子のテンションが上がる。









「やばい!轟寝てんの!?」

「かわいい!!」

「「くっそ!リア充してんじゃねぇか!」」









めぐから蛙吹に送られてきた轟の寝顔の写真とこの状態で行けない、というメッセージが書かれていた。女子はワイワイと騒ぎ、男子達は嫉妬したりと様々な反応だった。




次の日上鳴と峰田が轟に絡みに行ったのは、予想通りだった。







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