短編

□守ってあげるA
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夢主目線








あれから俺はまずバイト先を変えた。
本当は引っ越した方が良いのかも知れないけれど、両親に心配させたくなくてストーカーのことは言えないままだ。なので少しでも、と思いバイト先を変えたのだ。今日でバイトを初めて1週間、俺はなかなか雰囲気の良いカフェでバイトをしている。
入口のドアが開いた音に反応し『いらっしゃいませ』と言った。入ってきたのは雄英生2人組で1人は前に同じテーブルで飯を食った紅白頭の男子だった。名前は轟というらしい。
この前あった体育祭でやっとその存在を知ったのだ。知らないのは俺ぐらいだったことに少し驚いた。体育祭では2位で、氷と炎を出していた。すげぇって言葉しか出なかったけれど、本当に凄かった。
もう1人の方は女子で、この女子も体育祭で目つきの悪い男子と最後まで必死に戦っていた子だったから俺もよく覚えてる。名前は忘れたけど。
へー彼女居たんだ、確かに男からみてもイケメンだからな。俺は納得し、接客した。
女子の方はこの店の雰囲気とかにキョロキョロしていた、反応が可愛い。一方轟の方は、俺の方をガン見している。俺が雄英生の、あの時の奴だと気づいたんだろうか?
女子の方は申し訳なさそうにしながら1つ注文し、轟もあまりカフェとかには慣れてないのかその女子と同じものにしていた。
その日は轟の奢りで、2人でお茶して帰っていった。それからは轟が毎週日曜日に来るようになった。俺も1日バイトを入れてるので毎回会う。そう言えばあの彼女は?と思った俺は、今は客が少ないので注文したメニューを渡しながら話しかけた。







『轟、彼女どうしたの?別れたの?』

「は…?」

『あ、もしかして俺わからない?』




やべ気付いてなかったのか、そりゃ俺は轟みたいな派手な髪してないしな。
そう思いやっちまった、と思っていたら轟は否定してきた。それは俺のことがわからない、の方ではなく前に一緒に来た女子の方らしい。








「彼女、じゃねぇ」

『え、そうなの?それはごめん。てっきり彼女だと思ってて』




どこか轟は不貞腐れたような顔をして、席に座ってしまった。ああ、やっちゃったな。ほとんど初対面なのに、ズケズケと突っ込み過ぎた。
そう思ったが次から次へとさっきまで客が少なかったのが嘘のように、どんどんと客が増えなかなかタイミングも掴めずにいつもより帰りが遅くなった。
俺が明るい時間に変えるようになってから、ストーカーの動きが大人しくなった。そう言えば何度か家の近くで轟を見かけた気もする、もしかして家が近いのかな?
『お先に失礼します』と声をかけて、裏口から出れば店の入口に轟が立っていた。もし家が近いなら、一緒に帰ってくれたりするかな?
ストーカーにあいだしてから、俺は夜道がすっかり怖くなった。情けない話だけど。俺は体育祭での轟の戦闘力の高さと、これ以上ストーカーにあいたくない気持ちと、さっきのこと謝らなきゃという気持ちで轟に声をかけた。




『と、轟──ちょっとイイかな?』




話しかけた轟にまず先ほどのことを謝った、すぐ許してくれた。そしてほとんど初対面で申し訳ないのだけれど一緒に帰ってほしいとお願いしたらすぐ了承してくれた。もちろんきちんとストーカーのことも話た。





「俺が守ってやる」






ヒーロー科って流石だな、と思った。







***







あれから轟と仲良くなった。轟は何故か俺が好きなものを当ててくるのだ。好きな歌手とか、どんな服が好きだとか。ドンピシャで。
なんか本当に俺たち、昔からの親友みたいな感じで一気に距離が近くなった。
轟の家がここからまだ電車に乗らなきゃいけないことを知った時は、申し訳なくなったけれど。
その時、じゃあなんで俺の家の近くで轟を見かけたりしたんだろ?とは思ったけれど、轟には轟のなにか事情があるんだろうなと思い俺は何も聞かなかった。
それから驚くことに誰かに追われることも、部屋が突然綺麗になってることも無くなった。その代わりに轟が家に遊びに来た時に俺の部屋を片付けてくれている。申し訳ないな、と思うけれど俺がすると余計に汚くなるのでお任せしている。








『すごいね、俺がどこに物を置いてるのかもわかるんだ』

「まあな」







俺の脱ぎっぱなしの服を焦凍は洗濯機に持っていった。
俺はベッドにゴロンと横になる。今日は土曜日で俺はさっきまでバイト、そして焦凍はヒーロー科なので午後も授業があり、焦凍が俺を迎えに来てくれてそのまま俺の家に来た。








「なまえ」

『うわ、焦凍重い──』







ベッドに横になっている俺に、焦凍が覆いかぶさるように乗ってきた。
あれから仲良くなった俺たちは、焦凍に告白されてから恋人という関係になった。びっくりでしょ?焦凍は俺のことが好きだったみたいで、だから今のバイト先に来たのもカフェに行き慣れてなかったので、麗日さんを誘ったらしい。ちなみに俺は恋愛対象は女子だった、けれど焦凍に堕とされてしまったのだ。
結構嫉妬深くて、同じクラスで仲のいいアイツにも嫉妬する。アイツは俺と焦凍の関係性を知っている。馬鹿にされたり、軽蔑もしなくてとても有難かったけど、あんまりアイツは焦凍のことを良いように思っていないらしい。






焦凍が動き自分の耳に焦凍の熱い吐息がかかり、腰の当たりがゾワっとした。





「なあ、なまえ…好きだ」

『──ッ』






俺の頭を撫でながら言う焦凍が、焦凍の目が"逃がさない"とでも言っているような気がして俺の体は少し震える。そんな俺の体を抱きしめて、焦凍の唇が俺の唇と重なった。目を開けば焦凍の白い髪とその隙間に見えた、クマのぬいぐるみと目が合った。
その時誰かに見られているような感覚がした。






「愛してる」



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