咲けよ花!
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雄英体育祭当日の朝。
仏壇の前に座り、リンをリン棒で軽く叩く。線香の匂いが鼻に残る。
お父さん、お母さん。
『「いってきます!」』
いつも通り私の学校の前に、なつめの通う保育園に行く。2人で手を繋ぎながら。
「お姉ちゃん、ゆーえーたいいくさいだね!テレビ映るかなあ?」
『どうかなー?なつめは映ってくれた方が嬉しい?』
「うん!」
『それじゃあお姉ちゃん頑張る、応援してくれる?』
「応援するよ!いっぱい応援する!」
小さい子でも知っている雄英体育祭はもちろん弟のなつめも知っている訳で、保育園でもみらしい。ならば、姉として弟にカッコいい所をみせなきゃ。
1-Aの控室では皆がソワソワと落ち着かない様子が見える。そのため、友達と話して緊張を解そうとしたり、手の平に「人」と書いて飲み込む者もいた。
『はーっ』
「めぐちゃん、緊張してる?」
『そうなの、だからお守りからエネルギー貰ってる』
「お守り?」
蛙吹がめぐの手元を見ると、ラミネートされた押し花に子供らしい字で"おねえちゃん がんばれ"の文字があった。
『これ受験の日になつめがくれてね。それから私のお守りなんだ』
「ケロッ とても素敵だわ」
蛙吹は笑い、それにつられてめぐも笑う。その2人の会話に、周りに座っていたクラスメイトも心が落ち着いたような気がする。
「皆、準備は出来ているか!?もうじき入場だ!!」
クラス委員長の飯田が控室に入ってきて、皆に声をかける。めぐは飯田のその声に、お守りを体操服のポケットにしまう。
「体育祭コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為に着用不可なんだよ」
芦戸の言葉に尾白が反応し、理由を伝えるがそれでも少し納得いかないみたいだ。確かにテレビでも放送される雄英体育祭ではコスチュームを着たくなってしまう気持ちもわかる。
とにかくめぐはお守をポケットから落とさないようにしなくては、と考えていたら轟の声が響いた。
「緑谷」
そんな風に感じるくらいに、轟の声がめぐの耳に入って来たのだ。
ここ最近、轟の纏う雰囲気がピリピリしていることには気づいていた。体育祭が近づくにつれて、その雰囲気が強くなっていったのは彼の父親のエンデヴァーが体育祭にくるからだろうか。
めぐの両親もプロヒーローだったので、スカウト目的で体育祭に行っていたからきっとエンデヴァーも来るのだろう。スカウト目的か、息子の様子を見にくるのかどうかは知らないが。
「…? 轟くん……何?」
緑谷は轟の返事するが、緑谷も轟の纏う雰囲気に気づいたようだった。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!? う、うん」
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねえが…おまえには勝つぞ」
轟くんはオールマイトさんと何か関係があるかも知れない、緑谷くんに勝ってお父さんの”個性”を完全否定して、そして…そしてどうするんだろう、轟くんは。
そんな2人を見てクラスのムードメーカーの切島くんが声を掛け止めに入ったが、轟くんはそんな切島くんに強く返した。緑谷くんがゆっくりと口を開いた。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは、わかんないけど…そりゃ、君の方が上だよ…実力なんて大半の人に敵わないと思う…客観的に見ても…」
「緑谷もそーゆーネガティブなこと言わねえ方が…」
「でも…!」
緑谷くんはさっきまでオドオドしていたのに、急に眼の色に変わった。
「皆…他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で、獲りに行く!」
この緑谷くんの言葉で私の気持ちがキュッと締まった。
皆本気で、それぞれの理由の為にトップを目指している。
轟くんのことも気になるがまずは、自分がすべきことをしなくては。
強めに自身の頬を叩けば、音が大きかったらしく皆がこちらを向いた。
「そんなに強く叩いちゃ痛いわめぐちゃん」
『うん…痛かった』
「赤くなってますわ!」
『気合入れた!がんばる私!』
生徒用の通路でスタンバイする。打ちあがる花火の音、人々の歓声、そして今年の一年ステージの実況をするマイクさんの声が聞こえる。
『どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
皆が歩き出す。
歩け、笑え、目立て、マイクさん、イレイザーさん、オールマイトさんも観てる。
有名なヒーローの目にうつれ。
『ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!?』
カッコいい姉の姿を見せるんだ。
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