咲けよ花!

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静かな所で心を落ち着つかせようと少し離れた場所にいたら、いつの間にが時間が経ってしまっていたらしい。
プレゼント・マイクの声に観客の歓声。どうやら最終種目が始まるらしい。




《頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんなばめんばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!》



競技場内の生徒通路を小走りで走っていたら、1回戦目の実況が始まった。
1回戦目は騎馬戦で同じチームだった心操と、仲良くさせてもらっている緑谷だ。生徒用の席まで戻っていたら見逃してしまうと思い、めぐは生徒用の出入口から試合を観戦することにした。

最終種目のルールは場外に落とすか、行動不能にするか、「参った」と言わせることだ。

めぐからは心操の後ろ姿が見える、そして緑谷が出てきたであろう通路側にトゥルーフォーム姿のオールマイトがいた。




『なんであんな所にいるんだろう』







不思議に思ったが、心操が何か緑谷に話しかけたことで2人の姿を見た。何を言ったのか聞こえなかったが、その問いかけに緑谷は応えスタートの合図と共に動きが止まった。







『心操くんの”個性”にかかった…?』







憶測だけれど緑谷くんは尾白くんに、心操くんの”個性”を聞いていたと思う。
それでも心操くんの問いかけに応えた、ということは何か緑谷くんが反応することを言ったのだと思う。
優しい緑谷くんだから、尾白くんの悪口…を言ったとしたらそれに対して反応する。と彼は考えていたのかもしれない。



緑谷は心操に洗脳され、場外に行けと言われたが結果。場外になるギリギリの場所で”個性”が発動し洗脳を解いたようだった。
緑谷の左の指は色を変えていた。
洗脳が解けたことで緑谷は心操に向かっていく。





「俺はこんな”個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ」




表情は見えないが、初めて会話した日に見せた表情を思い出す。




「誂え向きの”個性”に生まれて望む場所へ行けるヤツらにはよ!!」






心操と緑谷は掴みあったが、最後緑屋の背負い投げで心操が場外となった。





《二回戦進出!!緑谷出久ーーーーー!!》




生徒用通路に戻ってくる心操と目が合い、その時上から心操に声がかかった。





「かっこよかったぞ心操!」

「障害物競走1位の奴といい勝負してんじゃねーよ!」






普通科の人達が心操に声をかける中聞こえた、心操に対しての評価はいいものだった。






「なんでこんな所で見てんの」

『ちょっと遠くで心落ち着かせてたら1回戦始まっちゃったから、ここで見てた』

「そう…で慰めてくれるの?」





私の前で立ち止まった心操に手を伸ばす。






『心操くんの”個性”はやっぱりすごいなっと思った』







頭を撫でると、髪の毛は思っていたよりもフワフワしていた。







「俺、あんたの弟じゃないんだけど」

『頭撫でられるのって色んないい効果あるんだって』

「…それじゃあ、もう少し撫でられててあげる」




そう言った心操くんの表情は、少し落ち着いた様子だった。







あれから心操と別れ、みんなのいる観客席に戻ろうとしたけれど私は動けなかった。
なんで最終種目が始まる前に、戻らなかったんだろうと後悔もした。
この廊下を真っ直ぐ歩けば、みんなのところに行けるのだけれど左側の通路で轟くんと彼の父であるエンデヴァーが話しているのだ。






「醜態ばかりだな焦凍」





低いエンデヴァーの声が廊下に響く。轟は目を合わせることなくエンデヴァーの前を通り過ぎようとする。





「左の"力"を使えば障害物競走も騎馬戦も圧倒できたハズだろ。いい加減子供じみた反抗をやめろ。おまえにはオールマイトを超えるという義務があるんだぞ。
わかってるのか?兄さんらとは違う、お前は最高傑作なんだぞ!」

『すいません』







轟が言い返そうとする前にここにいるはずのない声が廊下に響いた。
その声に反応して轟は後ろを振り返ると、いつの間にか自分と父のあいだに久我の姿があった。






「お前は久我の娘の…」

『エンデヴァーさん、いくら自分の子供でも"モノ"でも"作品"でもありません。ちゃんと轟くん…焦凍くんにも意志はあります。』







普通の人ならばNo.2ヒーローと話すだけでもおどおどとするのに、めぐの声は静かで強かった。







「子供が何を…」

『子供…でもわかります。焦凍くんは、焦凍くんです。あなたじゃありません。焦凍くんの人生は焦凍くんのものです』





張り詰めていた様な空気をぶち破るようにマイクの実況が始まった。





「久我…」




ずっとめぐの後ろ姿しか見えていなかったので、どんな表情をしていたのか分からなかったがこの張り詰めた空気が破られた気がしたのでやっと声を出せた。






『轟くん、試合始まっちゃうよ』





振り向いためぐの表情はいつも通りだったことに安心し、一度頷いて轟はその場から離れた。
めぐは轟の姿が見えなくなったところでエンデヴァーの方に振り向いた。





『親子の会話に他人が口を出してしまい、申し訳ありませんでした』




頭を下げためぐにエンデヴァーは何も言わず、その場から立ち去った。
その時「どんまーい」という声が会場から聞こえ、一瞬自分に言われたのかと錯覚した。



試合が終わればまたここを通るだろうと思っためぐはあの場から離れず轟を待っていると姿を現した。





『轟くん』

「久我…クソ親父は」

『エンデヴァーさんはあのあとどっか行っちゃった…それよりも、ごめんなさい』





勢いよく頭を下げるめぐに、轟は何故頭を下げられたのか分からなかった。
だけど、下げるのはこっちの方だと思い頭をあげてほしいと言った。頭をあげためぐは、手で顔を隠した。




『立ち聞きしてしまったことと、会話に入り込んでしまって…』

「それは全く気にしてない。だけど今、あいつに言われたことと久我があいつに言ったことが、胸ん中グルグルしててどうしたらいいのか、わからない」






だからつい瀬呂にも八つ当たりするようなことしちまった…と小さく呟いた。





「でも久我があいつに言った言葉は嬉しかった、と思う」




自分の人生は自分のモノ。それは当たり前のことでわかっているつもりだった。自分の人生は自分のものだから、母の”個性”だけで"一番になる"ことが自分の人生だと思った。
けれどあの時久我が言った"焦凍くんの人生は焦凍くんのもの"という意味はもっと大きなもののような気がした。
でもその"大きなもの"が難しかった。




***



《続いては今回初の女同士の戦い!!優れた身体能力を持っているが今回はまだ発揮しきれていないか!?ヒーロー科芦戸三奈!!
素早い動きで気がついた時に現れ、2位・3位と好成績!同じくヒーロー科久我めぐ!!》




ステージ上に立ち、三奈ちゃんに頭を下げる。こういう時って礼儀大切だと思う。





「めぐー!!負けないからねー!!」





大きな声で叫ぶ三奈ちゃんに頷いた。私も負けられない。
三奈ちゃんの”個性”は酸。身体中から出すことができ、移動にも使えるし近・中距離戦が得意だと思う。私は相手に”個性”を使うには触らなければいけない。ならば






《START!!!》






『"飛べ"』





先手必勝でしょう。





「あれぇぇええ!?」




マイクさんのスタート合図と共に三奈ちゃんの側に"飛び"、三奈ちゃんに触れステージ外へ"飛ばした"





「芦戸さん場外!!久我さん二回戦進出!!」




《一瞬だぁぁああああ!!見たかイレイザー!?》
《おい、うるせぇぞ》





「嘘でしょ!!めぐ早すぎ!!」





場外に飛ばした三奈ちゃんは戻ってきて、握手をした。



「私に勝ったんだから、1位なってよね!!」

『頑張る!!』

「当たり前!!」




ぎゅっと三奈ちゃんと抱きしめあって、ステージから退場した。



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