咲けよ花!
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少し疲れた体に鞭を打って、今日は少し小走りで慣れた道を走る。ごめんねとありがとうと早く伝えなければ。
ブランコや砂場がある園庭を抜けて、季節に合わせた動物達やお花の切り絵が貼られてあるドアを開ける。
『こんにちはー久我です。なつめ迎えに来ましたー』
ワイワイと子供たちの声が聞こえる部屋のドアを開けると、一斉に子供達が振り向いた。
「お姉ちゃん!!」
走ってきたのはなつめで、胸元に飛び込んできた。
「お姉ちゃん見てたよ!!すごかった!かっこよかったよ!!」
『ほんと…?』
「なつめくんのおねえちゃ!かっこよかった!!」
「すごかった!シュンってきえて!!」
「どうやったのー??」
なつめと同じ組の子たちに囲まれた。
ここの保育園の子供たちはヒーロー関係の仕事をしている人たちが多く、急な仕事でも預かってくれる。なので雄英体育祭も見てくれていたらしい。
みんなにありがとう、とお礼を伝えて家路に向かった。
『なつめ、手つなご。ここ車の通り多いから危ないよ』
「お姉ちゃん、手痛い?」
差し出した右手を見てなつめの眉が下がった。大丈夫だよ、と伝えたが納得出来ないなつめ私の怪我してない左手を引いた。
『どこ行くの?』
「いいから!」
よく休みの日に行く家の近くの公園まで手を引かれる。公園で遊びたかったのかと思ったがどうやら違ったらしく、ベンチに座れるよう言われた。
「お姉ちゃん座って!」
『座って、どーするの?』
「俺がお姉ちゃんの怪我治す!」
『ええ?でもなつめは”個性”を使うといっぱい疲れちゃうんだよ?』
「大丈夫、だから!」
右腕に触れた手はあたたかくて、少し痛みが引いた。でもなつめの”個性”は自分の体力を使い傷を癒す。
使い過ぎれば倒れてしまうと母が教えてくれた。
『なつめ、もうお姉ちゃん痛くないよ』
「…ほんとう?」
『本当、だからもう”個性”使うのおしまい。ね?』
「うん…」
手を離せさせて、なつめの頭を撫でる。少し汗をかいているから、やっぱりまだ小さい体にはきついようだった。
『なつめ、応援してくれてありがとうね。なつめの応援とお守りのおかげでお姉ちゃん頑張れたよ。って3位だったけど』
「お姉ちゃんは1番かっこよかった!1位のお兄ちゃんよりも!焦凍お兄ちゃんよりも!」
ぎゅっと強くズボンを握り、顔を赤くさせながら話すなつめは今にも泣きそうで。
「だからお姉ちゃん泣かないで」
『…お姉ちゃん泣いてないよ?』
「心が悲しいって言ってるの、俺わかるんだからね!ママと同じ”個性”だから…だから」
母の”個性”はヒーリングで肉体的な怪我と心のダメージの治療するというものだった。
自分の体力を使い怪我を治療し、災害等でパニックになる人達を落ち着かせることを専門としたヒーローだった。
だからわかってしまったのだろうだろうか。
『ごめんね、なつめが応援してくれたのに優勝できなくって。だからお姉ちゃん、なつめとどう顔合わせたらいいんだろうって悩んでたの』
「なんで?お姉ちゃんいっしょうけんめいだったでしょ?なんで謝るの?謝るのは悪いことしたらだよ?」
『…うん、そうだね。お姉ちゃん一生懸命頑張った』
なつめの言葉にまた涙が出る、今日で何回泣けばいいんだろうか。
「もーお姉ちゃん泣かないのー俺のタオルかしてあげるからー」
『うっ』
顔に押し付けられたのは保育園バッグに入れた手拭き用タオルだった。使用済みの。
でもいつの間に泣いてるひとにタオルを渡せれるようになったんだろう。
「ほらーお姉ちゃんかえるよ!」
『はーい、ありがとうね』
「どういたしまして!」
傷が少し癒えた右手でなつめの左手と繋ぎ家に帰ると、何故か家のドアの鍵が空いていた。もしかして朝鍵を閉め忘れたのか、それとも泥棒か…?
試合の時とは違う緊張でゆっくりドアを開けると
「あ?遅かったな」
『は?』
「!イレイザーさんだあ!」
「おお!めぐになつめおかえりーー!!!」
何故かイレイザーさんがいた。それも包帯に巻かれていないイレイザーさんが。そしてリビングの方から顔を出したのはマイクさん。そしてもう一人声はしたからきっとオールマイトさんだ。
『なんで家に?ってかイレイザーさん包帯取れたんですか!?いつ!?』
「HR終わった後にばあさんにな」
『へ、へー』
HRの時はまだミイラマン状態だったので考えればわかることだったがつい聞いてしまった。というかまだ治ったばかりならゆっくりしとけばいいのに、何故玄関で仁王立ちしてたんですかね?
「めぐ、ここ座れ」
『は、はい』
座れと言われた場所は廊下だったが、顔が怖いので大人しく従う。大事なことだったのでもう1度言う、顔が怖かったので。
座った私に目線を合わせるように廊下に座ったイレイザーさんにますます恐怖を覚える。私、なにかしましたか。
「病院で"手治ったら覚えてろよ"って言ったこと覚えてるよな」
『…はい』
忘れない、目しか見えてなかったのにすごく怖かったし肝が冷えた。え、まさかの今からお説教パターンですか。ちょ、マイクさんもオールマイトさんも見てないで助けて!なつめの目を隠したのはナイス判断だと思う!!
「よし、じゃあ」
『…これはえっと、なんですかね』
ガッという効果音が付きそうな勢いで前髪を上げられた。その手が強いのなんの。
「あ?デコピンだ。本当は拳骨にしようかと思ってたが今日3位だったことでデコピンにしてやるんだ」
『いやイレイザーさんのデコピン痛いじゃないですか!なにその降格してやった、みたいな言い方は!!』
「ああ?敵の前に飛び出したこと俺が許してやったとでも思ってんのか」
『思ッテナイデス。顔チカイデス』
「相手のおでこの中央部分に中指を垂直に当たれば痛ぇらしいぞ。ほら3ー」
『なんでカウトダウン!?』
「2ー」
ベチンッ
『〜〜〜っっ!!!な、なんで2でするんですか!!』
「合理的じゃねぇと思って」
あまりの痛さに涙目になる、本当に今日はよく泣く日だ。
赤くなっているであろうおでこをマイクさんは冷やしてくれ、オールマイトさんは夕飯を作ってくれているらしい。そして今日もまたケーキを買ってきたらしい。
『プロヒーローがすることじゃない…』
「言ってもわからねぇからなお前は」
『うぐっ』
「まあまあ、ケンカすんなよー?今日はめぐのお疲れ様会とイレイザーの怪我が治ったお祝いするぜー!!!」
「ケーキも買ってきちゃった」
「俺チョコのケーキがいいー」
「ちゃんとあるよ〜」
座れ、と言われみんなで食卓につく。また今日は豪華な夕飯だ。そして最早喋るとこが特技なマイクさんが、皆にコップを持つように言う。
「ほら飲み物持ったかー?よし、それじゃあ、めぐのお疲れ会とイレイザーの怪我が治ったことに!!」
「『乾杯/!』」
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