咲けよ花!
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この2日間で体育祭での疲れもとり、ゆっくりとなつめとの時間も取れた。
「今日雨だから長靴ー?」
『そうだね靴じゃ濡れちゃうからね、レインコートも着てね』
今日の天気はあいにくの雨なので、水たまりに突っ込んでいっても大丈夫なようになつめには長靴を履かせた。
『履いててね』
「うん!」
自分のバッグと付けっぱなしになっていたテレビの電源を切るために、リビングに戻ればここ最近持ち切りとなっている"ヒーロー殺し"についてのニュースだった。
〈先日、東京都保須市で"ヒーロー殺し"の被害にあったターボーヒーロー・インゲニウムさんが重体と…〉
このニュースを2日間で何度も見た。飯田くんのお兄さんであるインゲニウムさんが襲われ、重体だと。なので体育祭の閉会式の時にいなかったんだと分かった。
インゲニウムさんは両親の葬式にも来てくれ、そして私たちを心配してくれているようだった。インゲニウムさんはもちろん心配だ、だけどそれと同じくらいに飯田くんが心配だった。
「お姉ちゃーん!長靴はいたよーー!」
『!はーい!』
なつめの声でどこか遠くいに行っていた意識を取り戻し、玄関へ向かった。
保育園に連れていった後私はよく行くスーパーに行った、まだ開店時間ではないがそこで人と待ち合わせをしているからだ。
『轟くん!おはよう』
「はよ、悪ぃここまで来てもらって」
なぜ待ち合わせしたのかと言うと昨日轟くんから電話が来たからだ。何か話したいことがあるから、と朝一緒に登校することになったのだ。
一緒に学校まで歩き出し、轟くんが話し出すのを待つ。2日ぶりに会った轟くんの表情はなんだか少し柔らかくなった気がする。
「この休みでお母さんに会ってきた」
緑谷くんとの試合の中で昔お母さんに言われた言葉を思い出したらしい。血にとらわれなくていい、なりたい自分になっていいと言ってくれてたお母さんの言葉を思い出し、あの試合で"左側"が使えたと。でも自分だけが縛られていたものから解放されるのは違うと思ったから、お母さんに会いたくさん話をしてきたらしい。
「驚くぐらいにあっさり、赦してくれたんだ。もっとぎくしゃくするのかと思ってた…」
『それが母親ってものなんだよ、きっと』
きっと轟くんのお母さんは沢山後悔し、そして謝りたかったと思う。けれど自らは轟くんに会うことはできなかった。だから轟くんの方から歩み寄ってくれて、すごく嬉しかったんだと話を聞いて思った。
「久我ってなんか、姉さん…いや、お母さんみたいだな」
一瞬精神年齢のことを言われたのかと思ってドキッとした。確かに精神年齢的には轟くんくらいの子がいてもおかしくないかな!?
『…それはいい意味で?』
「いい意味だ」
『焦凍ったらいつの間にこんな大きくなったのかしら?』
「それ」
『それ?』
「焦凍って、名前で呼んで欲しい」
軽く屈んで傘をさしている私を覗き込むようにして、首をかしげていた。
『い』
「い?」
『イケメンこわぁぁあっ!!!』
この後お互い名前で呼び合うことになった。焦凍くんは策士だと思う。とても怖い、これでは世にいる女性を泣かす気がする。怖い、イケメン怖い。
***
包帯の取れた相澤先生が教室に入ってきて、梅雨ちゃんが声をかける。相澤先生はリカバリーガールの処置が大袈裟だとは言っていたけど、日常生活もまともに送れなかったのだから大袈裟ではない。
そして今日の"ヒーロー情報学"は特別らしくヒーロー名の考案だと言った。
その言葉に皆テンションが上がったらしくはしゃぎ出すが、相澤先生の髪が上がった途端に静かになった。
コードネームの考案は、体育祭が終わったあとに話していたプロからのドラフト指名に関係してくるみたいだ。
「指名から本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2・3年から…つまり今回来た"指名"は将来性に対する"興味"に近い」
だけど卒業までに興味が削がれたら一方的にキャンセルされることもあるらしい。
それに峰田くんは机を叩き「大人は勝手だ!」と叫ぶ。
そしてその指名の集計結果が黒板に現れる。それ、どうなっているんだろう。
「例年はもっとバラけるんだが3人に注目が偏った」
轟 4,123
爆豪 3,556
久我 2,873
思った以上をはるかに超えて指名をもらえていることに驚いた。これはきっとテレポート(瞬間移動)の”個性”が珍しいからだと思うけれどそれでも嬉しかった。
「1位、2位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
切島くんと瀬呂くんの言葉に爆豪くんはキレる。プロでもビビるもんはビビると思うよ。
百ちゃんが焦凍くんに「流石ですわ」と声をかけるが「ほとんど親の話題ありきだろ…」
と答えた。
私ももしかしたらそうかもしれない、エンデヴァーさんもだけど私が誰の子供かわかっていた。それを知っているプロヒーロー達も実は多いのかもしれない。結構いろんなプロヒーロー達と関わりはあったみたいだし。改めて両親に感謝した。これなら有名どころから指名が来ているかもしれない。
「これを踏まえ…指名の有無関係なく いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して より実りある訓練をしようってこった」
USJの事件、まだまだ何も知らない私達が生きていることは本当に良かったと思う。
「まァ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!!この時の名が!世に認知されそのまま プロ名になってる人多いからね」
「「ミッドナイト!!」」
「まァそういうことだ、その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」
そう言えばイレイザーヘッドっていうコードネームはマイクさんが付けたんだっけ。
相澤先生は寝袋を出しながら話す。寝る気満々だなこの人。
「将来 自分がどうなるのか名を付けることでイメージが固まりそこに近づいていく。それが"名は体を表す"ってことだ」
名は体を表す…
「"オールマイト"とかな」
15分後にミッドナイトさんから出来た人から発表と言われた。先陣を切ったのは青山くんだった。え、もしかしてもう皆できちゃったの?
「輝きヒーロー "I can not stop twinkling"(キラキラが止められないよ☆)」
「「短文!!!」」
「そこはIを取ってcan'tに省略した方が呼びやすい」
「それね マドモアゼル☆」
短文…はちょっときついな。
青山くんが席に戻ると次は三奈ちゃんが前に出た。
「じゃあ次アタシね!エイリアンクイーン!!」
「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」
「ちぇー」
最初になかなか個性的なのが来たからか大喜利っぽい空気になった。その空気に負けず梅雨ちゃんが発表した。
「小学生の時から決めてたの、フロッピー」
「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!」
『フロッピーかわいい!』
というか皆小学生の時から考えてたの!?その事実に軽くショックを受けつつ、梅雨ちゃんのおかげで空気が変わり次々と皆がコードネームを発表していく。
ほとんどの皆は前から決めていたらしくリズムよく発表していく。
ちなみに私は何も思い浮かんでいない、いや一つは浮かんでいるのだけれど本当に私はこの名でいいのか悩んでいるのだ。
「爆殺王」
『ヒーローなのに"殺"ってどゆこと』
「そういうのはやめた方がいいわね」
「なんでだよ!!」
ヒーロー名なのに怖すぎる。けれど皆”個性”に関わる名前だな。個人的に峰田くんのグレープジュース好きだ。美味しそう。峰田くんの頭がブドウにしか見えない。
「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪くんと…飯田くん、久我さん、そして緑谷くんね」
『なんてこった』
どうやら残りは私達4人らしい。
皆のコードネームを見ていると”個性”に関係しているの名前が多い。
飯田くんは自身の名前、緑谷くんはまさかの"デク"だったけれど。
ボードに書いた名を何度もみて悩む。でも相澤先生も"名は体を表す"と言っていたし、私はヒーローになるならばあの人のようになりたい。いつも笑顔だったあの人のように。
この名は今の私には似合わない、それは百も承知だ。だからこそ、この名恥じないヒーローになるために。
「久我さんどう?」
『あ、はい!』
前に立ってボードを見せる。
『ディサピアーです。姿を消すという意味です。そして名を受け継ぎたいと思います』
久我 飛馬、ヒーロー名はディサピアー。”個性”はテレポート。
Disappearは姿を消すという意味だ。
『私の父の名を』
お父さんを超えるヒーローになるために。
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