咲けよ花!

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ヒーロー情報学後──────






「職場体験は1週間、肝心の職場だが指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ」




半分寝袋に入った状態で淡々と相澤は職場体験について説明をする。




「指名のなかった者は予めこちらからオファーした、全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう」






めぐの席の列で葉隠・緑谷・峰田以外は指名があったので、学校側がオファーしたリストの紙が配られた。めぐを含めた爆豪と八百万は指名があったので個別のリストが配られた。めぐ用のリストをみてみると、意外な人物の名前があり目を見開いた。







「それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ、そんで今週末までに提出しろよ」

「あと2日しかねーの!?」






今日は水曜日なので、今週末と言われたらあと2日しかなくあまりの短さに瀬呂が叫ぶ。
提出期限日まで短いが3,000件近くあるリストには知らない事務所もあるので少しめぐは途方に暮れた。
1つ気になっている事務所があるが、まずは知らない事務所のことも調べなければ。











「めぐちゃんはどこの事務所に行くのかしら?」










昼休み、梅雨ちゃんがやって来て人差し指を口元に当てながら言ってきた。












『うんっとね、この事務所に心惹かれてるんだけど…』









大きな声で言えないので梅雨ちゃんを手招きし、机の上の書類にあるリストの中の1つの、事務所を指さす。









『ココなんだけど…』

「ケロ、めぐちゃん一緒にご飯食べましょう?」










その言葉には"ココでは轟ちゃんがいるから話しにくいでしょ?"という意味も含まれている気がした。流石梅雨ちゃんだ。
めぐは鞄からお弁当を取り出し、一緒に食堂へ向かう。










「流石だわ、エンデヴァーからも指名が来てるなんて」

『でも私、体育祭でエンデヴァーさんとその…色々あってね。うーん、いい印象は無いかもしれない…』









めぐは1つ深い溜息を吐いた。

体育祭で焦凍くんへ向けて言った言葉が許せず、ついつい親子の会話に入り込んでしまった。あんだけ生意気なこと言ったのに、なんで指名をくれたんだろう…?この”個性”が珍しいからだろうか?
焦凍くんの家の事情でもあるから、梅雨ちゃんに詳しく話せないけれどそれでも梅雨ちゃんは「大丈夫よ」と笑ってくれた。













『梅雨ちゃんはどこ行くの?水難に関わるところ?』

「そうよ、やっぱり自分の”個性”を発揮できるところがいいと思ったのよ」






”個性”が帰るの蛙吹は水の中が得意だ。





『いいところあった?』

「あったの、そこに決めたから今日の放課後には提出するわ」

『はやい!私も早くしなきゃ、あと2日しかないし…』







蛙吹が既に決定していることで少し焦るが、落ち着けと自分に言い聞かす。なかなか無い機会だ、ゆっくり考えなきゃ。






***










あと2日しかないので、なつめを寝かしつけたあとリスト表を見ながら知らない事務所を調べていく。
北から南までのヒーロー事務所から指名が来ており、改めて感謝だ。こんなに指名をもらえたことに。

ちょっとした休憩にコーヒーを飲もうと席を立つと同時に、インターホンが鳴った。
玄関に行きドアを開ければ予想通りの人がいた。












『あ、おかえりなさいイレイザーさん。お風呂入ってきたんですか?』

「ああ、お前なちゃんと確認してから開けなさいよ」

『イレイザーさんだってわかってたから』

「そうじゃなかったらどうすんだ、って言ってんだよ」











髪をあげたイレイザーさんに"髪切った方が合理的では?"という言葉を飲み込んだ。絶対「うるさい」の一言で片付けられるのだから。

生徒のイベントがあれば必然的に担任は忙しくなる。なので今日は遅いのだろうと思っていたので、"夕飯あるぜ!"とLINEしていたのだ。そしてついでに事務所を教えてもらおう、パソコンは無いので(高い)ケータイで調べているけど速度制限来てしちゃうし。
温め直すだけだったので、ぱっぱっと夕飯を準備する。準備する間イレイザーさんはなつめの寝顔を写真に撮っていた。金取るぞ。














「で、どこの事務所に行くのか決めたのか」

『目星はついてるんですけど、知らない事務所もあるので…』

「目星はどこだ」

『エンデヴァー事務所です、やっぱりNo.2ほヒーローだし、万年とか言われてるけど万年No.2を維持してるだけの力があるってことですよね?それならばNo.2ヒーローを近くで見たいなぁって』

「いいんじゃないか」








ズズッとみそ汁を啜り、鶏肉の照り焼きを口に含む。
イレイザーさんは食事の感想を全く言わないからわからないけれど、多分この顔は美味しいんだ…きっと。
多分「美味しいか不味いぐらい言いなさいよ!!」ってお嫁さんに怒られるタイプの人だ。絶対この人結婚出来ないわ。















「何さっきから百面相してんだ」

『イレイザーさんは結婚できなさそうだなって考えてた』

「する気もない」











その言葉にめぐは口元に手を当てる。








『寂しいね…』

「そんな哀れむような目で見んな、子供もいるようなもんだし、飯作ってくれる奴もいるからいいだろ」

『なんてこった』






そんな無駄話していたら既にもう夕飯を食べあげていた。相変わらず早いな。













「ごちそうさま、そういえばお前が職場体験に行ってる間は俺とマイク、オールマイトさんでなつめを見るから気にすんなよ」











その言葉にハッとした。1週間職場体験に行くということはその間家を空けるのだと。
両親が亡くなってから1週間も、いやなつめと顔を合わせない日なんてなかった。両親がいなくなってからはなつめにさみしい思いをさせたくなかったし、自分が親代わりなのだから。
でもその気持ち以上に自分の心のほうが寂しかった。











『1週間もなつめと離れるとか無理、無理だイレイザーさん。私職場体験行かない』

「何馬鹿言ってんだ」

『だって!1週間も可愛い弟に会えないとか私の癒しメーターが!!』

「お前が羨ましがるような写真や動画送ってやる」

『鬼!!!』












それから私は、一週間分のおかずを作ったりイレイザーさん達に色々とレクチャーしたりと慌ただしい日々を送っていたらあっという間に職場体験当日の日となってしまった。
私はなつめに抱きつきながら癒しメーターを満タンにさせる。頬にスリスリしながら。










『なつめ!!お姉ちゃん寂しいよぉぉおお』

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

『毎日電話するね?お腹出して寝ちゃだめだよ?ご飯いっぱいたべるんだよぉおおお!?


「お姉ちゃん!俺もう赤ちゃんじゃないんだからねっ」








いつのまにそんなこと言えるようになっちゃったの!?と成長に喜びつつ、寂しさが募る。けれど保育園で別れる際に「はやく帰ってきてね」って言ってくれたのでお姉ちゃんすごく頑張れる。

ああ、もう帰りたい。






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