咲けよ花!

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コスチュームの入ったケースと、緊張品や少しの必要なものを入れたカバンを持った。皆北から南までらしいので駅で解散するようだ。
めぐは職場体験先を、エンデヴァー事務所に決めた。







「コスチューム持ったな、本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!!」






相澤の言葉に芦戸が元気よく返事した。








「伸ばすな「はい」だ芦戸 くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」







各自が行く場所のホームを目指し解散していく。その中で一番最初に飯田がな離れて行くが、緑谷と麗日が話しかけているのをめぐは眺めていた。
ここ最近の飯田の表情が、目が、とても気になっていたから。
蛙吹とまた1週間後に!と声をかけ合い、緑谷・麗日と別れた飯田の背中を叩いた。

過去は変えられない、亡くなった人も戻って来ないし傷つけられた人の傷が無かったことになる訳でもないのだから。大事な人が傷つけられて恨めしいのはわかる。私もその時期はあったけれど、恨んでいても明日は来るのだ。生きていかなきゃいけなかった。弟にご飯を食べさせて、寝かせて、育てて、守らなきゃいけなかったから、言い方は悪いけれど恨んでる暇なんて無くなっていった。
でもそれは両親が最後に敵を捕まえて、今刑務所に入っているからそう思えたのかもしれない。まだ自分の兄を傷つけた敵が逃走中ならば、自分が捕まえてやろうともしくは"殺して"やろうと考えてしまうかもしれない。
その気持ちは痛いほどわかるから、だからこそ飯田の背中をもう1度叩いた。言いたいことは沢山あるけれど、これは飯田が自分自身で気づかなきゃ止められない。











「久我くん…?」

『飯田くんもいってらっしゃい!元気に帰ってきてね!』

「あ、ああ…」










めぐは飯田の横を通り抜けた、最後相澤には手を振ってエンデヴァー事務所に向かう方面の改札口を抜けた。
新幹線に乗り、窓際の席に座りケータイを見ると女子のグループLINEの通知が来ていた。
それぞれが"頑張ろうね!"とか"緊張する!"という内容のものが送られていた。
それに返信していると「めぐ」と声をかけられた。







『焦凍くんもこの新幹線なの?隣座る?』

「ああ、めぐも何だな。どこの事務所なんだ?」







その言葉にギクリとする。全く轟とは職場体験の話をしていなかったので、エンデヴァーの事務所に行くことは伝えていない。
めぐは頭を掻きながら『エンデヴァー事務所…』と小さく呟いた。















「めぐにも指名入ってたのか…」

『そうなの、生意気なこと言ったのになんでかなぁ〜って』

「今からでも変更した方がいいぞ」

『それ私が相澤先生に怒られるから…あ!焦凍くんは!?焦凍くんはどこの事務所!?』











轟の目が怖かったので話をすり替えた。
すると轟も小さく呟いた。












「エンデヴァー…事務所」

『お』









一緒か、一緒なのか。この親子に挟まれて1週間過ごすのは胃が痛くなりそうだなぁっと遠くを見つめた。

それから色々とお喋りをしていればあっという間についた。轟が事務所の場所を知っていたので迷わずたどり着くことができた。ビルが沢山ある中でも驚くほど大きいビルを見つめた。これがNo.2ヒーローなのか、と。









『立派…ですね』








サイドキックの他にも色々事務的なお姉さん達やたくさんの人が働いているのだろう。小さい頃に両親の事務所にも行ったが、どちらかというアットホーム感溢れた事務所だった。
ビル内に入ると内装も立派で入ると受付のお姉さんがいた。






『雄英高校から来ました久我めぐです』







綺麗なお姉さんに言えばエンデヴァーさんの元まで案内してくれた。広いし、豪華だし、お姉さんは綺麗だしと落ち着かなかった。
案内された部屋にたどり着けばエンデヴァーさんがいた。横で轟は小さく舌打ちをした。エンデヴァー事務所と聞いた時に、少し父親のことを理解しようと轟から歩み寄ったことに感動したがやはり嫌なものは嫌らしい。
ここは女は度胸だと自分に言い聞かせた。あの時は怒りで自ら話しかけたけれど、改めて会うと威圧感半端ない。でかい。









『雄英高校1年A組、久我めぐです。指名ありがとうございました。一週間宜しくお願いします!』





頭を下げるとエンデヴァーさんが口を開いた。









「君の父親、久我飛馬は俺も一目置いている人物だった。同じ希少なテレポートの”個性”を持つ君の試合も見せてもらった。君の戦い方は父親に似ているな」










エンデヴァーさんの言葉に驚いた。実際戦っている父の姿は見たことなかったのだ。見てもテレビで映った時だけで、自分の戦い方が父に似てるなんて知らなかった。











「テレポート系の”個性”は貴重だ。どこの事務所でも必要とされるだろう。だから君を指名した、はっきり言って俺の事務所にも欲しい”個性”だからな」











確かに私自身というよりは私の”個性”が必要なのだと思う。けれど”個性”も私のもの、私の力なのだから。きっと今回指名くれたヒーロー達も同じ考えだろう。だけどいつか久我めぐ自体が必要だと言われるヒーローになろう。

心の中でそう決意すると、エンデヴァーさんが再び口を開いた。










「それと」

『はい?』

「君が焦凍と結婚し子供を産めば、半冷半燃とテレポートの最強の子が産まれる…っどうだ?焦凍の結婚相手にならないか?!」

『なんてこった』









いきなりのエンデヴァーの話にめぐは敬語を忘れた。待って、私は職場体験に来たはず。なのになんで結婚の話になっているの。少女漫画じゃないんだからさ。










『私、恋愛結婚したいので』

「焦凍じゃ不満か」

『いえ…そういう意味では…』

「顔もいいと思うが」

『いや…えっと』

「めぐこの前俺のことイケメンって言ってくれただろ?」

『待ってここで話に参加するの焦凍くん』










全く今まで口を開いていなかったのに、いきなりこのタイミングで口を開くなんて何を考えてるんだ。











「名前で呼びあってるのか」

『お友達なので…』

「俺、他の女子は名前で呼んでねぇ」

『しー!静かにしなさい!無いだろうけど、無いだろうけどこのまま結婚することになるかも知れないでしょ!?』

「俺はめぐと結婚したい」

「焦凍ぉぉおおおおおお!!!」

『エンデヴァーさんうるさいです。焦凍くんもそういう言葉はきちんと大人になってから言いなさい』

「「…はい」」








ピシャっとめぐが轟親子を叱り、やっと次の話に進んだ。これからヒーローとしての仕事を教えてくれるらしい。その前に更衣室でコスチュームに着替える。今回は万力鎖も持ってきた。
父の形見である万力鎖はなかなか長い。名がければ長いほど遠くいる敵を捕獲できる、いつかこの長い万力鎖を使いこなせるようにならなければ。
更衣室から出て轟のコスチュームを見ると変わっていた。前は左側が氷で覆われていたがそれが無くなっている。







『コスチューム変えたんだね』

「ああ」

『似合ってる』

「ありがとう」





軽く会話をしてエンデヴァーのもとへ向かうと、これからヒーローの仕事内容とパトロールを体験させてくれるらしい。








「仕事を始める前に聞こうか、ヒーローネームは」

「ショート」

『ディサピアーです』

「!そうか、ショート・ディサピアーついてこい!!」







これから始まる職場体験で、私たちは思ってもいなかった体験をすることになる。




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