咲けよ花!

□39
1ページ/1ページ










緑谷くんからの一斉送信のメールはきっと応援要請だ。意味無くあんなことする子じゃないから。
エンデヴァーさんに簡単に説明して走り出した瞬間、USJの時に見た脳無と呼ばれていた怪物と同じようなやつが見えた。誰か一人小柄な人が交戦しているみたいだ。でもなんでここに?もしかして、あの時の"死柄木"と呼ばれた人が関わっている?
その時聞こえた小さい子の泣き声に、私の体が止まった。









『焦凍くんごめん!先に行って!!すぐ追いかけるから!!』








それだけを伝えて脳無を"見て""飛んだ"。
近くに行くと1人のおじいちゃんが交戦しており、人々が逃げ惑っていた。








「ママーーー!!!!」








お母さんを求めて泣く小さいこの声は苦手だ。いや苦手になったんだ。
両親が死んでからなつめがお父さんとお母さんを求めてよく泣いた。だけどもうこの世にはいないから、どうしてあげることも出来なかった。ただただ抱きしめて抱っこしてあげることしかできなかった。
だからお父さんとお母さんを求めている声を聞くと、胸が締め付けられる。








「ミハル!!」







きっとあの子の母親だろう、きっと逃げている最中に子供とはぐれてしまったのだ。
おじいちゃんが交戦しているものの、あの脳無の動きは早くおじいちゃんを避けて子供に近づく。










『間に合え!!』









小さい子を"見て、飛ぶ"
そしてその子供を抱きしめて少し遠くに"飛ぶ"。私と小さい子が離れた瞬間、炎にその脳無は包まれた。
きっとこの炎はエンデヴァーさんだ。エンデヴァーさんが来たならばあとは大丈夫。







『大丈夫?痛いところはない?』

「うん、ない」







小さい少しなつめより大きい女の子は泣きながらも答えてくれた。








『答えてくれてありがとう!えらいね!私めぐっていうの』

「めぐ…お姉ちゃん?」

『うん!今からママの所に行くからね!怖くないよ!』









きっとあの子のお母さんであろう女性の前に"飛び"、女の子をお母さんに渡した。
女の子をちゃんと母親の胸の中に返してあげることができた。








「あの!本当にありがとうございました!」

『いえ!ですがココは危険です!私の”個性”はテレポートです。私と一緒に離れた所に"飛び"ましょう!大丈夫、怖くありません!』

「は、はい!」







お母さんの腕に抱っこされている女の子に手を握ってもらう。







『"飛び"ます!3・2・1・0!!!』







自分が見える範囲の遠いところに"飛べば"、近くに警察官がいた。その警察官に親子を頼み、私は急いで"飛んだ"









***









ステインに切り傷を付けられ、その傷から出た血を舐めた為動けなくなった緑谷。だがステインは緑谷には生きる価値があると言い、緑谷の横を通り過ぎステインは飯田に刃を向けた。けれど一足先に位置情報の場所にたどり着いた轟の”個性”でそれを防いだ。
再度轟は氷を使い、緑谷とプロヒーローを自身の後に連れてきた。









「轟くん そいつに血ィ見せちゃ駄目だ!多分血の経口摂取で相手の自由を奪う!皆やられた!」

「それで刃物か、俺なら距離を保ったまま…」






その瞬間轟の左頬をナイフがカスった。そしてすぐ間合いを詰めてきた。それを氷で防いだがステインは上を見上げる。すると刀が自身に向かって飛んできていた。その一瞬に服を掴まれ、左頬から流れる血を舐められそうになるがすぐ炎で防いだ。






「何故…2人とも…何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなきゃ、そいつは僕が…」

「継いだのかおかしいな…」









轟は大氷壁でステインに攻撃をする。







「俺が見たことあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな、おまえん家も裏じゃ色々あるんだな」

『でも飯田くん!インゲニウムの名を継ぐなら!インゲニウムさんみたいに笑顔でいなきゃ!』







突如現れためぐに皆が名前を呼んだ。









「めぐ/久我さん/くん!」

『ごめん!遅くなった!』











その瞬間、轟が出した大氷壁がステインによって切られた。
そして轟の左腕に2本のナイフが突き刺さった。ステインが頭上に飛んだので、めぐは万力鎖を持ち、轟の前に立ったが動けなかったはずの緑谷が動けるようになりステインを掴んだ。
だが、ステインに肘で横腹に1発入れられ手を離して落ちた。その緑谷をめぐは”個性”を使い連れてきた。そのタイミングで轟は氷を使った。










「血を摂り入れて動きを奪う、僕だけ先に解けたってことは」

『血ィ…』

「かんがえられるのは3パターン、人数が多くなるほど効果が薄れるか、摂取量か…血液型によって効果に差異が生じるか…良いかめぐ、アイツに血舐められんなよ」

『うん!』










私達が考察していると、ステインは笑った。











「血液型…ハァ 正解だ」








動けない飯田くんとプロヒーローさんを担いで撤退したいが、焦凍くんの氷と炎も避けられる程の反応速度だ。そんな隙を見せられない、近接を避けつつプロが来るまで粘るのが最善だと話した。








「轟くんは血を流しすぎてる、僕が奴の気を引きつけるから後方支援を!めぐさんもあまり接近しないように、支援お願いしていい?難しいと思うけど…」

『もちろん!』

「相当危ねぇ橋だが…そだな。三人で守るぞ」

「3対1か…甘くはないな」











緑谷くんが走って行き、それを私は追う。
攻撃力が無い私が今出来ることは緑谷くんと焦凍くんに”個性”を使われないようにすることだ。


緑谷とめぐの後から轟が炎を使う。だがステインの動きが先程よりも違い、早く、緑谷の左足を切りつけた。めぐは緑谷に触れ、血を舐められないように"飛ばした"がステインの刀までは飛ばせなかった為、刀についた血を舐められ緑谷は動けなくなった。そしてめぐは右足を切られ、刀についた血を舐められ体が動かなくなり地面に倒れ込んだ。









『いっ!!』

「止めてくれ…もう……僕は……」

「やめて欲しけりゃ立て!!!」







ステインが轟達に向かってきたので氷で壁を作るが、ステインの刀で切られた。







「なりてぇもんちゃんと見ろ!!」





ステインに壁の氷を切られ、炎を使うがこれさえも避けた。









「氷に炎、言われたことはないか?”個性”にかまけ挙動が大雑把だと」







轟に刀が触れそうだったが、効果切れをして動けるようになった飯田が刀を蹴り飛ばし、ステインの頭の方を狙った。






「飯田くん!!」

「解けたか 意外と大したことねぇ”個性”だな」

「轟くんも緑谷くんも久我くんも関係ない事で…申し訳ない…だからもう3人にこれ以上血を流させる訳にはいかない」









飯田が蹴り飛ばし、折れた刀の先が地面に突き刺さった。








「感化され、取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。おまえは私欲を優先させる贋物にしかならない!"英雄"を歪ませる社会のガンだ、誰かが正さねばならないんだ」

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳を貸すな」

「いや 言う通りさ 僕のヒーローを名乗る資格など…ない。それでも…折れるわけにはいかない…俺が折れればインゲニウムは死んでしまう」

「論外」










そうステインは呟いた。だが明らかに様相が変わった。
轟が交戦するがまたもや易々と避けた。だが近づけないように炎を使っていく。









「轟くん 温度の調整は可能なのか!?」

「ひだりはまだ慣れねえ!何でだ!?」

「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」







2人が話している少しの隙を狙ってステインは轟に向かってナイフを投げたが"飛んで"きためぐの左腕刺さる。
轟に向かって飛んできたナイフを庇おうとした飯田にも、先程投げられたナイフよりも長い剣が飯田の右腕に刺さった。
結構深くまでナイフが突き刺さり、そのナイフが突き刺さった所から熱くなってきた。





緑谷は効果切れをしたらしく、立ち上がった。轟は飯田が言っていた通り排気筒を塞がずに飯田の脚を凍らせた。
ステインは轟達に向かってくるが、飯田の脚が緑谷の拳がステインの頬と横腹に入った。それでもまだステインは意識を失っていなかった。









「おまえを倒そう!今度は…!犯罪者として─────」

「たたみかけろ!」

「ヒーローとして!!」










飯田の蹴りと轟の炎をステインにぶつけた。轟が氷のすべり台を作り、飯田と緑谷が滑ってきた。
やっと動けるようになっためぐも立ち上がったが、ステインは動かなかった。












「…流石に気絶してる…?っぽい…?」

「じゃあ拘束して通り出よう、なにか縛れるもんは…」

『私の万力鎖は…短過ぎるかも。もっと長いロープとか』

「念の為武器は全部外しておこう」









各自が動きステインから武器を外したり、ゴミ置き場から縄を調達してきたりした。
その間めぐは轟にそこに座れと言われ、大人しくいうことを聞いていたが何故座らせられたのかわからなかった。












「ほら刺さってるナイフ抜くぞ」

『え…や、やだ!』

「大丈夫だ、きちんと止血できる」

『そういう意味じゃない!!待って焦凍くん!怖い待って!』
















まさかの左腕に刺さったナイフを抜こうというのだ。確かに今も痛い、すごく痛いけれどナイフを抜くことを創造したら痛いを通り越して怖かった。










『待って怖いやだっ!!』

「一瞬だから、な?」










そう言われて左腕を掴まれれば轟の力に勝つことなんて出来ず、路地裏には甲高い悲鳴が響いた。
ステインは縄で縛られそれを轟がひき、めぐも片手で支えていた。めぐも泣きながらも歩いていた。
そして路地からあの時脳無と戦っていたおじいちゃんが現れた。どうやら緑谷くんの職場体験先のヒーローだったらしく、グラントリノと呼ばれていた。
それから数名のヒーローも集まってきた、どうやらエンデヴァーさんに声をかけられ応援に来たヒーロー達だった。









「三人とも…僕のせいで傷を負わせた 本当に済まなかった…何も…見えなく…なってしまっていた…!」

「………僕もごめんね 君があそこまで思いつめていたのに全然見えてなかったんだ 友達なのに…」

「しっかりしてくれよ 委員長だろ」

『ほらもう泣かないで』

「…うん」










めぐは怪我をしてない右手で飯田の頭を撫でた。するとグラントリノが「伏せろ」と叫び、現れた脳無が緑谷を攫った。
早い速度で上空に上がっていくので、めぐは轟を巻き込まないように離れ"飛んだ"

そして脳無の傷から流れ出た血が、女性のヒーローの顔に落ちた。それをステインが舐めたことで脳無の動きが封じられた。
ステインはまだ武器を隠して持っていたらしく、縄を切り脳無の頭部を刺した。











「贋物な蔓延るこの社会も 徒に"力"を振りまく犯罪者も 粛清対象だ…全ては正しき社会の為に」









緑谷にステインが触れている、これじゃあ緑谷だけを"飛ばせない"










「何故一カタマリでつっ立っている!!?そっちに一人逃げたハズだが!!?」

「エンデヴァーさん!」









めぐはステインの前に立った。






『緑谷くんを離して』







そう言うがステインが呟いたのは「エンデヴァー」とだけだった。
エンデヴァーがヒーロー殺しに向かって”個性”を使おうとしたがグラントリノが止めた。ステインは緑谷から離れたのでこの隙を狙って”個性”を使おうとしたが、マスクが剥がれ落ち見えたステインの目は強すぎる想い、信念以上のもの、そして殺気。色んなものが1つとなり放たれていた。








「贋物…」






めぐは無意識に緑谷を自分に向け引っ張り、抱き締めた。







「正さねば───…誰かが…血に染まらねば…"英雄"を取り戻さねば!!」





あまりの迫力に誰も動けなかった。動くことが出来なかった。









「来い 来てみろ贋物ども 俺を殺していいのは本物の英雄だけだ!!」





皆、立つことも難しく尻餅をつくように倒れる人もいた。
そんな中誰かが「気を失ってる」と呟いた。











***









「やっぱり良い目してるなぁ…めぐ」










USJで見た、友人を助けようとした目も、画面越しでしか見れなかったが体育祭の時の力強い目も、そして子供を守ったときの目、ステインに怯えながらも友人を守るために抱きとめた時の目も、仕草も。





「いいなぁ…」






俺もあんな目で見つめられたい、視界に入りたい、守るために動いてほしい、あんな風に守るために抱きしめて欲しい。
きっと自分が知らない温かさなんだ、知らない、母のような…?








「チッ…」








自分の考えにイラついて舌打ちをした。何が母のような、だ。
持っていた双眼鏡を五本の指で触れ、塵にした。これと一緒に自分自身のさっきの考えも塵みたいになってしまえばいいのに、まだ心の中に残っている。
イライラして首を掻き毟るけど、この想いは壊したいような残しておきたいような。わからない、ワカラナイ、ケド






ヤッパリ、ホシイ








「帰ろ」





一緒にいた黒霧に言い、ワープゲートを開いてもらった。






「またね、めぐ」





.



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ