咲けよ花!
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保須事件から2日後、ヒーロー殺しの素性はあらゆる角度から暴かれ始めた──────
ヒーロー殺しステイン 本命・赤黒血染
オールマイトのデビューに感銘を受けヒーローを志す。私立のヒーロー科高校に進学するも「教育体制から見えるヒーロー観の根本的腐敗」に失望。1年の夏に中退。10代終盤まで「英雄回帰」を訴え、街頭演説を行うも「言葉に力はない」という諦念。以降の10年間は「義務達成」の為、独学で殺人術を研究鍛錬。この間に両親は他界(事件性はなしとされてある)。
氏の主張 「英雄回帰」
ヒーローとは見返りを求めてはならない
自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない
現代のヒーローは英雄を騙るニセモノ
粛清を繰り返すことで世間にその事を気付けさせる。(週刊誌より抜粋)
***
私の足と腕はダメージは幸いにも酷くなかった。私は焦凍くんより1日遅れて退院した。その際はまさかのエンデヴァーさんが自ら迎えに来てくれ、その車には焦凍くんも乗っていた。私が車に乗ったことで焦凍くんの眉間のシワが緩まったので、きっと車内は殺伐していたのだろうなと思った。
後頭部に私と焦凍くんが座り、シートベルトを締めて車が道路を走り少し落ち着いたところで私が口を開いた。
『後から申し訳ないのですが、今回の件でご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。』
「こんな奴に頭なんか下げなくていい」
「こんな奴とはなんだ焦凍ぉぉおおお!!!」
『いやいや、迷惑かけたのは本当…ってエンデヴァーさん前見てください!』
「こんな奴に頭なんか下げなくていい」
『何回言ってるの、あ 焦凍くんも謝った?』
「こんな奴じゃないだろう!!」
「…悪かった、って言った」
待って何このカオス。というか焦凍くんは一応謝ったんだ。焦凍くん的には…頑張ったんだよね。そうだよね。
そしてエンデヴァーによく話を聞いたら、今回の件は不服らしい。まあ、エンデヴァーさんなら何となくわかる気がする。
それからはわたし達はまたエンデヴァー事務所の方々にお世話になりながら、パトロールや訓練などに参加させてもらった。サイドキックの皆さんも時間を作ってくれ、色々と私達に指導してくれた。
『1週間、本当にお世話になりました。ありがとうございました。』
「ありがとうございました」
私と焦凍くんは頭を下げる。今日で1週間の職場体験は終了だ。
「焦凍くんの方はエンデヴァーさんの息子だから、いつでも来れると思うけどディサピアーちゃんの方もいつでも来てね!」
『ありがとうございます』
「本当、今すぐ来てもいいくらいだよ。テレポート体験したら本当に凄かったもんな」
サイドキックの皆さんからも優しい言葉を頂いて、とても嬉しくなった。そう話していると、1番後ろにいたエンデヴァーさんが前に来たのでサイドキックさん達はおずおずと後に下がる。…やっぱり、怖いんだな。
『エンデヴァーさん、本当にありがとうございました。お世話になりました。』
「まだまだ君の”個性”は延びる。それは君自身もわかっているだろう。それを学生の間に完成させて、卒業後はココに来い。」
『!は、はい』
「後は焦凍、きちんと嫁にするように他の奴らに出遅れるな」
「わかってる」
『・・・いや、わかっちゃダメだからね?』
サラリと轟親子はそんな会話をするので後ろにいるサイドキックさんたちの顔が、これこそ鳩が豆鉄砲を食ったようっていうことわざを、ここで使うんだなと思ったくらいに驚いている顔をしていた。だよね、驚くよね。私も1番驚いている。
サイドキックさん達に事情を説明すると、何故か悟ったような顔をしていた。
そんな感じにグダグダとたが、職場体験は終わった。
「それじゃあ俺はこっちだ」
『うん!送ってくれてありがとう!』
焦凍くんのお家は事務所からそんなに遠くないらしかったが、私をわざわざ駅まで送ってくれた。
「ああ、ほらなつめに会いてぇんだろ?気をつけて帰れよ」
『うん!!焦凍くんも気をつけてね!』
さあ、やっとなつめに会えるぞっと意気込んでいたら手を引かれた。何事かと思い見上げたら急に頭を撫でられた。
『?』
「なんか見てたら撫でたくなった」
『…なるほど?よし、じゃあ私も撫でたる!焦凍くんお疲れさま!』
「お」
ワシャワシャと撫でたら、なつめの頭を撫でた時にする 嬉しそうな恥ずかしそうな表情をした。その顔がいつもより幼くて。けれど凄く綺麗で、幼いのにカッコよくてドキッとした。
「どうした、顔が赤いぞ?熱か?」
『うへっ…だ、大丈夫!熱じゃない!元気!元気だから!!だからまた明日ね!』
「あ、ああ」
焦凍くんに手を振りながらバビュンッと駅の改札口に向かった。熱もないのに少し頬が熱い、そして撫でられた頭も。
『なんてこった…』
駅のホームの強い風た当たりながら1人呟いた。
***
ただ少し"触れたい"と思っただけ。それなのに気づいたら腕を伸ばしていて、めぐの腕を掴んでいた。だけど咄嗟に何も言葉も出なかったし、振り向いた時になびいた髪が柔らかそうでまた気づいたら触っていた。少し驚いていたようだったけれど"撫でたくなった"と言えば笑って、俺の頭に手を伸ばしてきて頭を撫でられた。
お母さんに会った時も頭を撫でられたけれど、少し撫で方がお母さんに似ていた。だけどお母さんよりドキドキした。
その後にみためぐの顔は赤くて、熱かと思ったけれど否定はしていたし元気そうだったので安心した。
帰ってしまったことに少し寂しく思いながら、俺も久しぶりの家路についた。
掴んだ腕も細くて、髪も柔らかくて、赤らんだ顔も
「可愛かった…」
何かわからないけどこの気持ちは多分悪いものじゃない。嫌な気はしないし、むしろ嬉しかったり、楽しかったりする。
でも少し嫌だったのはステインが脳無を殺した時めぐが緑谷を守るように抱きしめていた時。あの時はそんなふうに思わなかったのに、落ち着いて考えてみると少しモヤモヤした。めぐも危機感を感じてから無意識に抱きしめてたって話していたし、緑谷とお互い謝っていたから特に何も無いはずなのになんで嫌な気分になったのかわからなかった。
***
「お姉ちゃんっ」
『めぐ〜!!』
家のドアを開けると待っていてくれていたのかなつめが玄関に立っていた。持っていた荷物を放り出して、なつめを抱きしめたのは当たり前のことだ。
『ただいまめぐ!』
「おかえりなさいっ」
「そんなところに居ないで、入って来い」
ぎゅうぎゅうと玄関で抱きしめてめぐを堪能していると、イレイザーさんの声が聞こえた。
『イレイザーさん、ただいまです!』
「ああ、おかえり」
やっと家に帰ってきたと実感した。その後仕事を終えたマイクさんとオールマイトさんも集まって、久しぶりに5人でご飯を食べて、家のお風呂になつめと入った。なつめはたくさん1週間の出来事を話してくれた、少し寝る時にグズっていたけれど今は眠ってくれている。
後にマイクさん達から話を聞けば、この1週間はどこか寂しそうで電話をしたあとはよくぐずっていたらしい。この1週間、私もなつめに会えなかったのが寂しかったのだ、きっとなつめは私以上に寂しかったんじゃないのだろうか。
これからまだ色々と学校の行事で家を空ける日が多くなるかもしれない。なら、家にいる間は少しでも多くそばにいてあげよう。
布団を掛け直して、頭を撫でた。
『ごめんね、頑張ってくれてありがとうね』
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