咲けよ花!
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朝の準備でなつめの保育園バッグに連絡帳やお弁当を入れていると、鞄の隅に一枚の手紙があった。見てみると小さい子の字で"なつめくんへ"と書かれている。
『なつめ、これどうしたの?』
「もらったの」
『う、うん。貰ったのはわかるんだけど…』
名前も書かれていたので同じクラスの女の子ということはわかる。なつめは特に気にしてないようで首を傾げている。中身を見れば"なつめくんすき"と書かれてあった。ひらがなが反対になってたりはするが、これはこれで子供らしくて可愛い。ってちがう、そうだけど今は違う。
『ラブレター!!?』
まさかのラブレターに雷を打たれた衝撃が再び走った。
***
『爆豪くん、見て』
「あ?」
来て早々、爆豪のもとへ行っためぐはポケットから1枚の手紙を出した。それを見た恋バナ好きの芦戸や葉隠が反応する。
めぐは保育所に寄ってから来るのでめぐが来た時にはほとんど全員が登校している。
「え、待ってめぐちゃんって爆豪のことが!!?」
爆豪の前の席の葉隠の上履きが上下に動いているので多分足をバタバタさせているのだと思う。その葉隠の声にクラス中が反応し、轟も見ていた。
『いや、透ちゃんごめん。私から爆豪くんへのラブレターじゃない、ごめん。』
「ちぇー!つまんない!」
『でもね、これ私の弟が貰ったラブレターなんだよ』
「ええ!!!?」
『朝先生に聞いたら女の子はおませな子多いみたいでね…爆豪くんどう思う!?』
「知らねぇよ!!!」
女子達は集まりラブレターの内容を見て可愛い!!とキャーキャーしている。爆豪は机の周りに女子に集まられ「散れ!」と叫んでいた。そんな爆豪を見て峰田は唇を噛んでいる。
『凄いよね…でもまだなつめには恋心は宿ってなかったみたい』
「おい、ここに集まんなや…」
『まだ上手く字がかけないから、お礼であるものを渡したらしいんだけど…なんだと思う?』
「え、なんだろー?お花とか?」
「おい聞いてんのか」
麗日がめぐの質問に答える。だがめぐは顔を横に振った。
『バッタ』
「「バッタ…」」
『まだ女心はわかっていなかったみたい…』
「てめぇらいつまでここに集まるつもりだ」
『爆豪くんだったら何お返しする?』
「なんもやんねぇわ!!」
『うわひど』
「いいから女共散れ!!」
丁度そのタイミングでHR10分前のチャイムが鳴り皆が席につく。
轟はめぐも席に着くのに自分の横を通るのでそのタイミングで挨拶をした。それにめぐも返してくれ、隣の席の八百万と話しながら席についていた。最初爆豪に手紙を見せている時、ドキッとした。葉隠の言う通り爆豪が好きでラブレターかと思ったのだ。それをめぐは否定し、なつめ宛の手紙だったということを知って安心したのだ。なんの安心かはわからないけれど、これは緑谷達に聞けばわかることなのだろうか。
もし本当に気になって仕方なくなってみたら聞いてみようと決め、入ってきた相澤に目線を移した。
***
「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間一か月休める道理はない」
何か相澤は冊子を捲りながら説明する。その言葉に教室内はざわつきだす。
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「「知ってたよーーーー!!!やったーーー!!」」
皆がワイワイと喜ぶ中、1人めぐだけ目をまん丸にして驚いており周りを見回していた。各自がやりたいことを叫ぶ。肝試しや花火はわかるがその中で「風呂!」と叫ぶ者がいたが皆無視だ。そんな中、めぐは右手を挙げた。
『イレっ…相澤先生!質問いいですか!』
「なんだ」
『林間合宿は何日間ですか!』
「1週間」
『いっしゅうかんっ!!!』
相澤の言葉をオウム返しし、めぐは黙った。またこの前のようにどこかぽけーっとしている。
「久我はほっといて」
「ほっといていいんすか」
「その前にある期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」
相澤の言葉に歓喜でない方の叫びが上がる。
「皆頑張ろーぜ!!」
「補習やだ!!」
「女子ガンバレよ!」
峰田の"ガンバレ"はどこか違う気がする。だけど皆は林間合宿に参加するため、期末テストを共に頑張ろう!とテンションを上げている。だがその中でめぐだけはずっとぽけーっとしていた。
HRが終わり相澤が教室を出るとめぐも教室を出て行ったが、それに気づいたのは数名だけだった。
皆林間合宿で何をしたいか、と話が盛り上がっている一方めぐは職員室で駄々をこねていた。
『私林間合宿行かない』
「行きたくない奴は無理矢理にでも連れて行かせる」
『なんでぇ!!』
「そーでも言わねぇとお前は期末テスト手を抜こうとするだろ」
『うぐっ』
「皆真剣にやってんだ、そんなことしていいと思ってるのか?」
『…だめ』
「じゃあ全力でやれ」
『全力でやって合格点満たなかったら?』
「ぶん殴るし、さっき言っただろうが行きたくない奴は無理矢理にでも連れて行かせるって」
『どっちにしても連れて行くんじゃん!私行かない!!』
雄英の教師は勿論めぐ達が職員のアパートに住んでいることも知っているし、その関係でほかの生徒達よりは関わりが深い。だけどめぐがこんなに相澤達に駄々をこねるのは初めて見た。
「めぐったらどうしたの?」
ミッドナイトはオールマイトに近づきコソコソと聞いた。この中でめぐとの関係が1番深いのは相澤、マイク、オールマイトだ。めぐは相澤に駄々をこねており、隣の席のマイクも間に入っていたのでミッドナイトはオールマイトに聞いたのだ。
「うーん、あれは多分なつめと離れたくなくて駄々捏ねてるんだと思うなぁ」
「なつめと?」
「この前の職場体験で1週間そばにいれなくて、寂しい思いさせたんじゃないかってめぐも気にしててね。確かに少しいつもよりなつめも違ったからね、私達も気にしてたんだけど私達じゃめぐの変わりはできないからね」
これで父と母がいるのなら何も問題はないが、いないのだ。いくら相澤達と関係性が出来ているとしても、めぐの代わりも両親の代わりも100%はできないのだ。そしてめぐもどこか大人で、全力で自分たちに甘えてこないし頼ろうともしてこない。それをなつめもどこかわかっているように自分たちは感じるのだ。
他に親代わりになれる人間はいない、祖父祖母でもいたらまた違ったのかもしれないがいない。本当になつめが我儘を言える存在はめぐだけなのだ。
「マイク、今からお前A組の授業だよな?」
「そうだけど?」
「めぐと話するからこいつは一限の授業には出ねぇ」
「ヘイヘイ」
相澤はめぐの手を引き、どこか空き教室の鍵を持って出て行った。
マイクは腰に手を当ててため息をついた。
めぐは相澤に手を引かれ空き教室に連れてこられた。その教室にある机に相澤は腰をかけ、近くの椅子を引っ張り座れと言われ大人しく座った。
「お前がどうして林間合宿に行きたくねぇなんて駄々こねてんのかはわかってる」
『駄々…』
「そうだろうが」
相澤に痛くはないが頭を叩かれた。
「なつめはまだ小さいがお前が思ってるほど子供じゃねぇよ。大丈夫だ、ちゃんとわかってる」
『でも私、高校に入ってからなつめに寂しい思いばっかりさせてる…』
「それでもお前にはお前の人生があるんだ、それにまだガキだろお前は。もっと甘えろ俺らに。お前が俺たちに気使ってんのなつめもわかってるぞ」
『…甘えるってどうやってするのか、わからないです』
「本当不器用だな、お前は」
イレイザーさんは私に近づいて自分の方に凭れるように腕を引っ張った。自分の頭がイレイザーさんの胸に凭れる。
「こんな風に甘えればいいんだ。…ちゃんとそばにいる間、お前はきちんとなつめに愛情を注げてる。一緒にいる時、きちんとお前はできてるんだ。また林間合宿で1週間会えなくても大丈夫だよ。それに俺はお前に、きちんと他の生徒と同じように学校行事に参加してもらいたいんだ。担任として保護者としてな、林間合宿の間まだ他の奴らには言えねぇが嫌っていうほど”個性”を使う訓練するんだ。ここで参加出来ねぇと皆に置いてかれるぞ、ヒーローになるんだろ?」
めぐは頷いた。
『うん…参加したいけど、なつめのこと考えたら我儘言っちゃった…ごめんなさい』
「わかればいい」
『うん、ありがとう…。ねぇ、イレイザーさん』
「なんだ」
『1つ言っていい…?』
「…なんだ」
下から見上げるように自分を見るめぐと目を合わせた。
『……傍から見たら教師と生徒の禁断の恋みたいだよね』
「お前は余計なことしか言えねぇのか…」
『痛っ!痛い!!この雰囲気を柔らかくしようと思って!冗談!冗談です!!』
拳にして頭をグリグリされる。あ、すごい痛い。
『ごめんなさい!!』
「…ったく、ほらもう大丈夫だろ。マイクが授業してるから行け」
『はーい、ありがとうイレイザーさん』
イレイザーさんに手を振って教室を出た。
大丈夫だ、私もなつめも。すぐそばで見てくれてたイレイザーさんが言ってくれたんだ。期末テストも林間合宿も頑張ろう。みんなに置いていかれないように。
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