咲けよ花!

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シャーペンが走る音と、教科書をめくる音、時折わからない所を教えあったりする声が飛び交ったりしている。
テーブルを2つくっつけ、それを囲むように6人が座っている。その中でなつめは轟の膝の上に乗っている。




『なつめ、そこに居たら焦凍お兄ちゃん勉強しづらいよ』

「大丈夫だ」

「轟くん懐かれてるんやね!」




最初来た時は久しぶりの再開に喜んでくれたが、まだ会ったことない麗日・蛙吹・緑谷・飯田に人見知りをしている。そんな中勉強を始めてからなつめが轟にベッタリになり膝の上に座らせたのだった。
めぐは謝るが、轟には下の兄弟が居ないのでこうやって懐いてくれたのはとても嬉しい。

テストの順位が高い者が多いのでスラスラと勉強を進めていく、わからない所を聞いてもすぐに理解をして普段より早いペースで理解ができている。教える人達の教え方もわかりやすく、麗日もいいペースで進んでいる。これが教える側に爆豪が居たら「あ?そんなもん1回見ればわかるだろうが!!」と才能マンらしい教え方をして教えて貰う側が理解できないかも知れないが。
それでも今詰めても良くないので休憩となった。




「つ、疲れた…」

「麗日さん大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫!デクくん達の教え方わかりやすいから自分でも驚くくらい進んでるんよ!」

「頑張ってるものね、お茶子ちゃん」

「うん!林間合宿行きたいし!」






わいわいと話していると、飯田は服を引っ張られた感じがして後ろを振り返った。





「お兄ちゃん」

「ぼ、俺のことかい?」






コクコクとなつめが頷いた。今まで飯田は近くに小さい子はおらず"お兄ちゃん"と呼ばれたことがなかった。自分が末っ子なので呼ぶことは多いけども。





「あのね天哉お兄ちゃんは、足早かったお兄ちゃん?」

「うん?」





飯田は子供によくある、うまく文章が成り立ってない話し方に聞き返した。




『天哉お兄ちゃんの”個性”は足が早いの?って』

「ああ!」





めぐの言葉に飯田は理解した。そして自分の”個性”について詳しく説明をするがイマイチ5歳児には理解出来なかったらしい。最初見た時は思い出さかなかったが、何度もみた体育祭の録画で今日来た人達に似ていると思い同一人物なのかと聞いたのだ。
男の子として足が早い、とか力が強いというのには興味があるらしく特に男子組の”個性”を聞いては目をキラキラさせていた。
それからなつめに懐かれた3人は遊んで!となったが末っ子と一人っ子の3人はどう遊べばいいのかわからず困惑していた。






「ふふ、3人とも困惑してるわね」

「その中ではデクくんが1番子供の扱いは上手い…?」

『そうかも』






緑谷はなつめに目線を合わせながら、自信が昔よく遊んでいた"ヒーローごっこ"を提案したりしていたが、末っ子2人組はなつめが飛びついてくるのにハラハラしていた。





「おい、めぐ。これ俺たちなつめ潰さねぇか?」

『力の加減をしてくれれば潰れないよ』

「力の加減…」

「めぐちゃん、私たちはお昼の準備でもしときましょ」

『あ、そうだね!』






家に来てくれるのならお昼はご馳走すると約束していたのだ。今ならなつめの面倒を見てくれているし、時間もいいのでチャンスだ。
女子は台所に移動し、ひっそり携帯の動画機能を起動させていた。





「なつめくんはどのヒーローやりたい?」

「俺イレイザーヘッドやりたい!」

「「相澤先生!?」」




意外なヒーロー名に緑谷と飯田は驚いた。轟はそういえば、めぐ達と昔から面識があると話していたことを思い出した。






「イレイザーヘッド知ってるの?なつめくん」

「うん!俺はドライアイなんだ!って言ってる」

『ぶふっ』

「詳しいね!?」




待て、どうしてそのセリフをチョイスしたのだ弟よ。気になったがこれはもうスルーだ。めぐは気にしないふりをしながら、鶏肉を切った。
それから飯田の様になった敵役の声が聞こえたりと、女子達は笑いをこらえながら昼食を作った。






『ごめん、昨日の残り物もあるや…』

「ぜんぜんいいよ!美味しそう!」






和食メインの昼食を食べ終え、勉強を再開した。それになつめもお絵かき帳を持ってきている。





「なつめちゃん、何を書いてるの?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんたちの名前!」

「私の名前も書いてくれたのね、嬉しいわ」





お絵かき帳に"つゆ おねえちゃん"と書かれており、それを見て蛙吹はケロと笑った。






***




夕方になりめぐとなつめは皆を見送るために一緒に家を出た。




「お姉ちゃん手つなご!」

『もちろん!』

「焦凍お兄ちゃんもつなご!」

「お」

「お姉ちゃん真ん中ね」

『え』





何故か自分が真ん中で左手になつめ、右手に轟だ。何故かなつめの顔はどこか満足げだ。




『ごめん、焦凍くん。嫌なら離してくれていいからね?』

「いやじゃねぇ」

『…そう』





即答してくれたことに喜ぶべきなのか、恥ずかしがるべきなのか悩んだ。
前を歩く麗日がチラチラと後ろを見てくる。何を言いたいがなんとなく分かるけどちょっと待って、お茶子ちゃん。梅雨ちゃんはなんか優しい笑顔だし、緑谷くんは少し顔が赤いねピュアだね!飯田くんは全く気にもしてないみたいだね!飯田くんありがとう!!




なつめの手とは違う、長くて少しゴツゴツした手はやっぱり男子なんだなぁと思ったら少し手汗をかいた気がする。
あまり意識しないように歩けば駅に着いた。



「今日はありがとうねめぐちゃん」

『いやいや、こっちも何もおもてなしできなくてごめんね!』

「そんなことないよ!お昼美味しかった!」

「うん!明日からのテストも頑張れるね!」

「うむ、また明日から改めて頑張ろう!」



皆で林間合宿行くぞ!っとテンションを上げているあいだ、焦凍くんとなつめは何やらこそこそと話していた。



「じゃあまた明日ね」

『うん、また明日〜』

「今日はありがとな」

『いえいえ、また来てね!』



なつめとの会話も終わったのか焦凍くんも皆と一緒に改札口を通っていった。
皆に手を振りながら見送り、来た道を2人で帰った。



『なつめ、なに焦凍くんと話してたの?』

「秘密!」

『えーお姉ちゃんも知りたいなぁ』

「ダメ!男同士のお約束!」




***


飯田くんと麗日さん、蛙吹さんが先に降り電車に僕と轟くんの2人になった。
どこか轟くんの表情は明るい気がする。なんとなく、だけど。



「緑谷」



轟くんに呼ばれて、急いで返事をしたら少し声が裏返った気がする。帰りに轟くんは久我さんと手を繋いでいた。なつめくんに言われたからだったけど、もし僕だったらあんなにすました顔で居られない。だけど轟くんは、いつもの爽やかな顔でいたのだ。これがイケメンなのか。





「なあに?」

「俺、めぐのこと好きみたいなんだ」

「そうなんだーってえぇえ!!?」

「さっきなつめに聞かれたんだ、めぐのこと好きなのか?って」

「え!?なつめくんに!!?」

「緑谷声でけぇ」





轟の言葉で口を両手て塞ぐ。そうだった電車だったよ、まだ。僕と違って本人の轟くんの方が淡々と話していく。なんでそんなに落ち着いてるの!?




「好きだなとは思ってたんだが、これが恋なのか?」

「い、いや…僕も恋したことないからわからないけど…友情の好きもあるよね…」

「キスしてぇと思ってもか?」

「キ!!!?」




ボボボッと緑谷の顔の方が赤くなる。
まずこんな友人と恋愛話とかしたことないのだ。恥ずかしいのと胸のあたりがムズムズする。緑谷は顔を隠しながら「それは恋かな…」と呟いた。




「そうか、いつか緑谷にこの気持ちについて聞いてみようと思ってたんだ丁度良かった」



轟は小さく笑った。入学当初には考えられなかった轟の笑顔をみた。


「…轟くんは久我さんに気持ち伝えるの?」


口からポロッと出た言葉に緑谷は慌てた。



「ご、ごめん!なんか口からポロッと!!!!」

「いや、今はまだ伝えねぇ。ヒーローになったら伝えたいと思う」

「そ、そうなんだ!」

「それに職場体験の時に、結婚してぇっつったら"そういうのは大人になってから"って言われたからな」

「へ?け、結婚????」




なんか話の順序がグチャグチャで緑谷の脳内はフル回転だ。やばい、今の会話で今日勉強したことをすべて忘れてしまいそうだと思った。イマイチ理解出来ず、どういうことかと聞こうと思ったが轟の最寄り駅につき「じゃあまた明日な」と言い轟は降りて行ってしまった。




「う、うん…」




このあと緑谷は悩みすぎて、最寄り駅で降りるのを忘れそうになった。




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