咲けよ花!
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翌日私となつめは集合時間より早く電車に乗りこんだ。夏休みに入る前に色々思い出を作ってあげたくて、木椰区ショッピングモールに一足先にやってきた。休日ということで沢山の人がいる。
『今からなつめの行きたい所行って、その後ご飯食べて、お姉ちゃんの友達と一緒にお買い物するよ良い?』
「うん」
皆と合流した時にはもう疲れた、と駄々をこねそうな気がするがそれもしょうがないだろう。もう暑いので、きちんとなつめに帽子を被せて歩く。私も普段なかなか大きいところで買い物できないし、久しぶりに少しお洒落をしてみた。やっぱりこういうのは楽しい。
『なつめどこ行きたい?』
「あの」
急に声を掛けられ振り返ると知らない女の人だった。
「あの雄英の久我さんですよね!?」
『そうですけど…』
「テレビで見て応援してました!男子とガチ勝負しててかっこよかったです!」
どうやらその人は雄英体育祭を観てくれていて、そして私を覚えてるらしかった。まだ覚えている人いことに私は驚いていたけれど。それから近くにいる人達も反応し、色々と優しい言葉を貰った。握手を求められたことにも驚いたけれど、応援してくれていることは素直に嬉しい。少し派手めなお兄さん達は、テンション高くて驚いたけれど。
「お姉ちゃん有名人みたいー」
『そうかなー?』
「うん、皆がお姉ちゃんのこと知ってた…あ!」
どこに行こうかとブラブラ歩いていたら、なつめが足を止めた。その視線の先には夏の男子達の王者カブトムシがいた。
なつめは虫好き(女の子にもあげるぐらい)だ。基本自然のものとか生き物が好きなのだ。私もふわふわした犬や猫は好きだ、動物園も。だけど虫は…
「お姉ちゃん!俺カブトムシ欲しい!」
大の苦手である。
『カブトムシ…か』
夏に売られているのをよく見る。確かに値段的にはおもちゃに比べるととてもお財布に優しい。けれど私の精神面では優しくない。
「お姉ちゃんみて!幼虫!!」
『あああ…幼虫…かぁ…ねえ、なつめカブトムシさん買ったら多分ご飯屋さん入れないから…後に買いに来よう?』
不服そうな顔を見せたが、とりあえず虫から意識をそらせるために早めの昼食を食べた。それでも虫から意識をそらすことはできなかった。
『お姉ちゃん触れないからね!?なつめがちゃんとお世話してね!?無理だからね!?』
「うん!俺お世話する!」
その言葉お姉ちゃん忘れないからね、覚えてるからね。それに飼うならイレイザーさんの家に置かせてもらいたい。怖い、カブトムシ。
「お姉ちゃんありがとう!」
カブトムシのオス・メスと書かれた幼虫入りのビンを持ちなつめは笑顔だ。その笑顔は可愛い、とても。持ってるものが可愛くないけれど。
『ちゃんとカブトムシも命だからね?なつめがご飯あげないとカブトムシはお腹減って辛いんだよ?きちんとお世話してあげてね』
「うん!」
目線を合わせながらなつめに説明しているとき、沢山の人がいるので色んな人が歩いているのはわかるが。何故か今、なつめの横を通った黒い長袖を着た人に恐怖心が湧き、なつめとその人の間に自分の手を入れた。その人の指が私の手の甲に触れた。
「お姉ちゃん…?どうしたの?」
『え?うんうん、何も無いよ』
「ほんと?ちょっと怖い顔してる」
『えー本当ー?』
少しおどけて言ってみた。もうその人は居なかった、黒い服を着ていたことしか私は覚えておらずその人を探したもう居なかった。
『…なつめ、移動しようか?本屋さん行ってみよう?』
だけど私は少しでも早くこの場から離れたかった。
***
「あ!めぐちゃん!なつめくん!こっちこっち!」
お茶子ちゃんから連絡をもらい、皆がいる所に集まった。普段見ない私服姿でとても新鮮だ。
『お茶子ちゃん連絡ありがとう!』
「いえいえ!」
「おー?この子がめぐの弟くんだなー?」
服だけ浮かんでいる姿になつめは目をぱちくりさせている。そうか初めて見たら驚くか。
『なつめ、葉隠透ちゃんだよ』
「はじめまして!」
「久我なつめです」
「めっちゃいい子じゃん!!?」
『ふっふっふー三奈ちゃんそうでしょ!?いい子で可愛いでしょ!?』
他のみんなも集まってくれてなつめに挨拶をしてくれた。その後なつめはキョロキョロとあたりを見回した。
「焦凍お兄ちゃんは?」
「あ、轟くんは今日用事があってね来れないんだって」
「そうなんだ」
『なつめいつの間に焦凍くんのことそんな好きになったの…?もしかして焦凍くんがライバルに!?』
「それは無いと思うよ久我さん」
緑谷くんに宥められたが、少し私は納得いかないぞ緑谷くん!
「はいはい、まー轟のことは今は置いといて、めぐはもう買い物済ませたの?」
『うんうん、私はみんなと一緒に買おうと思って』
「なつめくんは何を買って持ったんですの?」
「カブトムシのね!幼虫!」
その言葉に響香はドンマイ、と百ちゃんは何故か興味が湧いたのかなつめの話を真剣に聞いていた。
あのあと本屋さんに行ってカブトムシの本買いました。
「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」
「あらでは一緒に回りましょうか」
「俺アウトドア系の靴ねぇから買いてえんだけど」
「あー私も私もーー!」
上鳴くんの言葉に飯田くんは突っ込む、今日も全力だね委員長。
「ピッキング用品と小型ドリルってどこに売ってんだ?」
『え?そんなのいる?』
「久我、峰田のことは放っておけ。」
峰田くんの言葉に突っ込んだが、障子くんに気にするなと言われた。そうだね、やめておこう。
『私は旅行用のシャンプーとか歯ブラシとか、細々しいものが欲しいな』
「俺もだ、それじゃあ一緒に回るか」
『そだね!そうしよう!』
「目的バラけてっし、時間決めて自由行動すっか!」
切島くんの言葉にそれぞれが動き出した。待ち合わせ時間も決め、またここに集まることになった。
「障子、久我!俺も一緒にいいかー?」
『もちろん!』
「さんきゅ!なつめもよろしくな?」
「うん!鋭児郎お兄ちゃん?」
「そう!あってるぜ!」
「目蔵お兄ちゃん?」
「ああ」
***
2人ともなつめに優しくしてくれ、これはいるかいらないかと話をしながら買い物をしていたら3人の携帯が同時になった。最初にケータイを開いた障子くんが私たちに言った。
「どうやら緑谷が死柄木と遭遇したらしい」
『え?』
「まじかよ!?」
緑谷くんが死柄木と遭遇したということは、死柄木がこのショッピングモールに来てたということだ。
その時、なつめに触れようとした手を思い出した。
「久我大丈夫か?」
「顔色悪いぜ?」
障子くんと切島くんが私の顔を覗く。それに慌てて、大丈夫だと言った。
『大丈夫だから!まずは早く緑谷くんのところに行こう!?』
この後お茶子ちゃんが通報してくれたおかげで警察やヒーローが集まり、ショッピングモールも一時的に閉鎖した。だが、死柄木は見つけられず緑谷くんは警察署に連れていかれた。そして私達も今日は解散となった。
「大変だったな、大丈夫だったか?」
その日の夜、イレイザーさんが家に顔を出した。学校にも連絡が行ったようだ。
『私と…なつめは大丈夫だったよ』
その時きちんと昼間に感じた恐怖心を、イレイザーさんに話しとけば良かったのに私は気のせいだと思いたくて、イレイザーさんには何も話さなかったのだ。
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