ange
□好きなのは
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愛しやる、あなた
美、優、賢を兼ね備えた女性。それが理想…のはず
「名無しさん!」
吸い込まれそうなほどに青い空に、吸い込まれずに響く怒号。
「あ」
無邪気に笑っていられたのも一瞬前まで。しまった、と振り返った名無しさんが握っているのはじょぼじょぼと水が出続けているホースだったが、今来た人がきっちりと蛇口を捻ってしまったため、今は残りの水がちろちろと流れて来るのみだ。
「どういうつもりだ?庭をこのように水浸しにして」
ジュリアスは厳しい表情で名無しさんを見つめる。
せっかくの日の曜日。いつもより少しだけ長く眠ろうと思い、隣にいる名無しさんを抱き締めなおそうとしたら、いない。どこに行った?と思ったら、庭のほうから楽しそうな声と水音が聞こえたので来てみれば。
庭師の手入れが隅々まで行き届いていた広い庭園は、晴天だというのに土砂降りにでもあったかのような有り様だった。
「ごめんなさい」
しゅん、とうなだれた名無しさんも全身濡れ鼠だ。ジュリアスは自分の上着を脱いで名無しさんの肩にかけてやると、少し口調を緩めた。
「何故こんなことをしたのかを聞いているだけだ…訳はなんだ?」
「今日は早くに目が覚めたので…花に水をあげようと思って…」