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□虚夢
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寸前までとられると思っていた命は損なわれずそのまま残っていた。
刃が触れる前に風のようにのびたしなやかな腕の中にこの命が隠されたためだ。
視界の外でぎゃ、と短い悲鳴が聞こえ、ごとりと何か重いものが落ちた音がした。
「………?」
「聞け」
静かな声はいつもどおりだ。有無を言わせぬ口調までも。私の肩を抱く大きな手も。鳶色の強い瞳も。
「この戦は、負けぞ」
怜悧な美貌に浮かぶ汗は疲労のせいではない。背から胸にかけて生えたそれがそのことを如実に現している。
一拍遅れて咳き込んだ彼の薄い唇は吐き出した血でたちまち真っ赤に染まった。
遠くから兵の怒号と具足のかち合う音が聞こえる。
人を喰らったかのような赤い唇が動いた。
『 』
ゆらりと、傾ぐ背。
動かなくなった彼のそばで私は、鞘から抜いた懐刀で己の胸を貫いた。
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