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□木人
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「こんな森の奥です。迷ってきた人に悪さをしようとする余裕なんてないですよ」
「だとよいが、な。世の中皆が先ほどの旅人のような人間とは限らぬぞ」
「あれ?知っていたのですか」
「ヒヒッ、あれほど大きい声ならば遠くにいても聞こえるであろうな」
「随分と磊落な方でしたね」といいながら 名無しさんは茶器と菓子を用意していく。
「こんな森の奥なのに吉継さんは全然迷いませんね」
「付き合いが長いゆえな、ここはわれの庭よ、ニワ」
独特の引き笑いを漏らして椅子に座った吉継は、淹れたての茶を啜る。
その様子をじっと見ながら 名無しさんがつぶやく。
「吉継さんは、何歳なんですか?」
「ヒヒッ急にどうした」
「父さんや母さんより若い?ような気がするのに、なんだか妙な貫禄みたいのがあるし…まさかとんでもなく若作りとか」
「ぬしは怖いもの知らずよな」
そう言いながら気分を害した様子はなく、茶器ををおいて「そうよな」と顎に手を当てている。
「ぬしの父母よりも年は上だぞ」
「ああ、やっぱり」
「ぬしの祖父の祖父よりもっとな」
「へ」
「ヒヒッ、今日ココに来た用事とあながち関係ないともいえぬ。ちと、われの昔話を聞け」
間の抜けた顔をした 名無しさんは「はあ」と頷いて椅子に座った。
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