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□夏風邪
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ピピッと無機質な音をたてた体温計が示したのは38.4という数字だった。
どうりで体が怠いわけだ。
力なく体温計を自身の横に置き、完全に油断したと昨日の自分を少し恨む。


昨日コクリコちゃんとサーティーンに水をかけられてから暑かったから別にいいかなという浅はかな判断で着替えることも自ら乾かすこともなく自然乾燥で過ごしていたのだ。

「まさか風邪ひくとはなぁ。あぁ怠い、暑い。」
そう呟きながら一緒にバトアリに行く約束をしていたまといちゃんに詳細は伏せて断りの連絡を入れた。
返信を確認した後電子画面を見るのすら辛い状態になったため大人しく休むことにした。


少し眠っては目を覚ましを繰り返していると扉をノックする音が聞こえた。
体調を崩していると気付かれたくは無かったけどこの際もういいやと思いながら重い体をおこして扉を開ける。

「こんにちは名無し。具合はいかがですか...その様子だとまだ優れないようですね。」
さっきより熱が上がっているのか少し歩いただけでふらついてしまいアダムに倒れかかってしまった。
「おっと...大丈夫ですか?今ベットまで運びますから。」
そう言って彼は軽々と私を所謂お姫様抱っこというやつで運んでくれた。
いつもなら拒むけど大して体も動かせない今はおとなしくされるがままにしていた。


「熱は?」
さっきまでの穏やかな表情はどこへやら。
厳しい顔で聞かれたもんだから少し怯えつつも体温計を差し出した。
最近は事前に測った体温を記録してくれるから便利だ。
「38.4...まぁ夏風邪でしょう。まったく、水に濡れたままろくに乾かさずに過ごすからですよ。」
「あれ、何故それを...」
「ジャンヌ様に聞きました。なんでもサーティーン殿とコクリコ様に水をかけられたとか。」
「うん。それでそのあとジャンヌにタオル渡して自分はそのまま放置で自然乾燥させてた。」
アダムは呆れた表情を浮かべている。
「後でサーティーン殿はアリーナで凍て付かせて置きます。まぁ風邪をひいたのは名無しの自業自得ではありますけど。」

「うぅ...自分でも後悔してる。正直怠くて辛いし昨日ちゃんと着替えておくべきだったよ。」
そろそろ話すのが辛くなってきて眠気も襲ってきた。それに気づいたのかアダムもこれ以上この話を終わらせてくれた。
「まぁ、名無しが良くなってからでもこの話は出来るので。私は戻りますけど何か欲しいものとかあったら持ってきておきますよ。」
だいぶ眠気で朦朧としながらも水と答えた。あれでもこれでアダムは行ってしまうのか。少しだけ寂しいような。

「...どうしました、まだ欲しいものがありました?」
気がつけばアダムの腕を掴んでしまっていて。
もう少しだけいて欲しいなんていつもは素直に言えないのに今日はするりと言えてしまった。
アダムはキョトンとした後少し頬を朱に染めた。
「仕方ないですね。今日だけは貴女に従いましょう。」
と言って私の頭を撫でてくれた。
その手がひんやりとして気持ちいいと告げた後私は睡魔に負けて意識を落とした。



「普段から素直でいれば良いのに。心臓に悪い。...早く治せよ。」
頬を朱く染めたままアダムがそう呟いたことなど私は知る由もなかった。
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