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□夏祭り
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辺りどこを見渡しても温かみのある電球を輝かせている光でいっぱいで、何とも美味そうな匂いで包まれている。

先程匂いにやられて唐突な食べたさに買ったイカ焼きを頬張ると、隣の彼女は「焦凍も好きなんだね、イカ焼き」と笑った。


「だって美味いしよ。まぁ、祭りなんていつぶりだって感じだから、食べたのは久々だな」

「それなら良かったよ。誘って正解だった〜」

無邪気に笑う名無しさんの横顔。なんつーか、可愛かった(歌でこんな歌詞あったな、確か)

名無しさんの言う通り、誘ってもらえて良かった。
彼女の浴衣姿を見れるなら、尚更。

名無しさんから祭りに誘われた時 当時は普通に私服で行くつもりだったらしい彼女に、俺は「名無しさんの浴衣姿が見てぇ」と言ったら恥ずかしながらも了承してくれた。(こういうリアクションが見れたのも尚更良かったな)

何年ぶりかっつー祭りだが、結構良いもんだ。
屋台の飯も、想像以上に美味ぇし。


「焦凍、あのさ」

「なんだ?」

「アレ、アレやりたい!てか、やってくる!」


目を輝かせながら名無しさんが見つめる先には、射的屋の文字。
最初は、少女漫画とかで見る彼氏に取ってもらうみたいなシチュエーションしてぇのかな。と考えたが、真っ先に射的屋のおじさんにお金を払い、自ら鉄砲を手にした名無しさん。

本気で取りたいらしい。

どうやら名無しさんのターゲットはフワフワとしたクマのぬいぐるみで、彼女の好みのやつだなと頷ける。

ただ、まぁ………


「あぁ〜取れない…惜しいとこまで、いってるんだけどなぁ…角度変えた方がいいのかな」

「名無しさん、あのクマ取りてぇのか?」

「うん、なんとしてでも!」

これは、スイッチが入って駄目なパターンかもしれねぇ。
どうやら彼女はあのクマの可愛い風貌に惚れ込んでしまったらしい。

だが射的の1回の値段を見ると、そんなに何度もやれるもんでもねぇ。

3回くらいやって、諦めがついたのか名無しさんは「あー…やっぱ難しいな……まぁ、こんなもんかなぁ」と少し残念そうな表情をして射的屋を離れようとした。

だが何故だか"あのクマを取ってやろう"と使命感が湧いた俺は、屋台のおじさんに「1回分お願いします」と告げて、小銭を渡した。

「え、焦凍?ごめん私が熱くなっちゃってやってただけだから そんな無理しなくていいよ?」

「無理してねぇよ、ただ名無しさんにあのクマのぬいぐるみ、取ってやりてぇって思っただけだ」

「わぁ……どこまでイケメンなの、君」

少し感動している様子の名無しさんの頭を少し撫で、鉄砲を持ち標的を定める。
射的屋の看板にはデカデカと"個性禁止"と書いてあったから、個性を使って取るってのは出来ねぇ。

別段こういう系統のものが得意ってわけじゃねぇが、狙いを定めるって部分では普段やってる訓練と似たようなもんだ。

ココだと、思った所で引き金を引いた。

一発目はちょっと動いた程度だったが、二発目であと少しの所までいった。

そして最後の三発目……



「わぁ、ほんとありがとう!」

「あぁ、取れて良かった」

「焦凍凄いよ!このクマほんと可愛い!」

「いや、喜んでもらえてなによりだ」

最後の弾で、取れた事に少し安心した。
なにより名無しさんが凄く嬉しそうな、幸せそうな顔をするものだから、正直射的に挑戦してみて本当に良かった。

「名無しさん」

「ん?」

「来年、また祭り行かねぇか?」

今度は俺から誘ってみると、名無しさんはまた嬉しそうに「勿論!」と笑った。

夏祭り
(とりあえず、名無しさんの浴衣姿 写真撮らせてくれ)

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