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□第10話
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◇◆第10話◆◇
(※カタクリ視点+流血表現有り)
地上を赤く照らす謎の光りに、俺は逸早く屋上から下へと下りた。普段は穏やかな草原だというのにそこは先が見えない程に土煙が舞っていてシェリルの姿が確認出来ない。
「シェリル・・・」
何処だ?何処にいる?
周りを注視しながら、ゆっくりと歩みを進めていく。
「・・・ぅ、」
「っ!?」
それはとても小さな声ではあったが、確かに俺の耳にもちゃんと聞こえた。
「シェリルっ!!」
少しずつ晴れていく土煙の中に、俯せで倒れているシェリルを見つけた。すぐに駆け寄り呼び掛けるが反応は無く、口元から血が流れているのが見えたためゆっくりとその身体を抱き起こして仰向けにしてやる。その時、俺はシェリルの身に起きた事態を知る事となった。
シェリルの着ていた白いシャツの胸元は流れ出た血液でべったりと濡れ、皮膚とその下にある肉は裂け、心臓が抜き取られていたのだ。
どうして傷口が再生していない?
いつもなら吸血鬼特有の治癒能力で塞がるはずが、なぜ心臓も傷も治っていないんだ。
「シェリル・・・」
シェリルの細い首に手を置き、脈があるか確認する。
「・・・生きてる」
脈は少し弱く感じるものの確かにあった。
それに、身体は温かく、呼吸もしている。
シェリルが生きている事に安堵し、肩の力を抜いた時だった。晴れた土煙の先に何かが立っているのが見えた。一瞬、あの女吸血鬼かと思い、神経を研ぎ澄まして身構える。
ーーー・・・ドクンッ、ドクンッ
「・・・・・・」
耳に入って来る鼓動に似た音に目を細めた。
何なのだろうか、この異様な雰囲気は。
新月のせいで真っ暗であった周囲が徐々に明るくなってきた時、吹いた風に土煙が流されていく。その中に立っていた物の姿が見えた時、俺は大きく目を開いた。
「・・・・・・!?
黒い布を纏い立っていたのは若い男の姿。眼は開いておらず、生気をあまり感じさせない表情だ。しかし、その顔を見て真っ先に思い浮かんだのはシェリルの異母兄妹であるジーク。男の顔はジークにそっくりだ。
以前、シェリルが言っていたことを思い出す。ジークと父親の顔がとても似ていたと。
・・・まさか、本当に甦ったというのか?
「ラウル兄様・・・」
ゆっくりと歩いてやって来る女吸血鬼は笑顔を浮かべてその名を口にしていた。女は体を痛めているのか、歩き方が妙だ。
「やった、成功した・・・私はやったのよ!」
術の成功に歓喜した女は笑い出す。
それを見た途端に俺はあの女を殺してやりたくなった。身勝手な術にシェリルを巻き込み、心臓を奪ったあの女を許せない。抱き抱えていたシェリルを草むらに寝かせようとした時、閉じられていた瞼が薄く開いたのが見えた。
「・・・・・・カタ、クリ?」
「っ!?シェリル!」
消えそうなくらい小さな声ではあったが、薄く開いた紅い眼は確かに俺を見ていた。地面に下ろすのをやめ、力無いシェリルの体を後ろから支える。よく見ると、シェリルの胸元の傷が塞がっていた。意識を取り戻したことで治癒能力が発動したらしい。
「・・・うっ」
「大丈夫か、シェリル」
「ん、まだ、心臓が・・・」
傷があった箇所を手で押えたシェリルは苦しそうな表情をしていた。そして、突然咽出したシェリルは咳と共に血を吐き出した。
「シェリル、しっかりしろ」
*