短編夢
□6月の花嫁
4ページ/4ページ
父様との撮影が無事に終わり、身体の力を抜くように深呼吸した。
「終わった」
「シェリル。まだ終わってないよ」
「え?」
「カタクリくんと撮らないと。ねぇ、カタクリくん?」
当初、撮る予定でなかったため私とカタクリは黙ったまま顔を見合わせる。
「僕とだけ撮って夫であるカタクリくんとの写真が無いなんてダメだろ?折角こんなに綺麗なウェディングドレス着てるんだから撮らないと勿体ないよ!ほら、カタクリくんこっち来て」
「いや、俺は・・・」
「いいから、こっちに来なさい」
顔は笑顔なのに口調は命令形な父様のオーラに室内は静まり返った。私はカタクリに手招きをし、此方へ来るよう促す。すると彼は渋々といった感じで父様と入れ替わるように私の隣に立つ。撮影の終わった父様は何故か女性の所へ行き、カメラに興味が湧いたのかそれを色んな角度から見たり覗き込んで此方を見始めた。
「改めて見ると身長差が凄くあるよね。こういう場合どうするの?」
「そうですね、こういう時は」
父様が写真家の女性と私たち夫婦をどう撮るか相談し始めた。
「なに?」
横からカタクリの視線を感じ彼の方を見るが、何もないと言われてしまう。
「よし、カタクリくん!シェリルを抱き上げてみようか」
父様が笑顔でカタクリに告げた瞬間、私はまたカタクリと顔を見合わせた。
抱き上げる、て。
「お姫様抱っこですね」
ピンキーが目をキラキラさせているが、私は断りたくなった。
せめて他のポーズにしてよ、と言おうした時カタクリが身を屈めて私の膝裏に手を回し、そのまま持ち上げてしまう。
「えぇっ!?ちょっと本当にこれで撮るの?」
軽々と私をお姫様抱っこする彼は何も言わず、カメラがある方を向いている。私はカタクリを見、父様たちを見たりと首をキョロキョロと動かした。
「シェリル様、此方を見て下さい。撮りますよ」
女性は私の方に笑顔を向けながら声を掛けてくる。
撮って良いなんて言ってない・・・。
「まだ、恥ずかしがってんのか」
「貴方は恥ずかしくないの?」
「ああ」
カタクリは前を見たままで話し掛けてきた。私は彼が平然としているのが何だか面白くない。
「シェリル」
「なに?」
「綺麗だ」
私にしか聞こえない音量で囁かれたその言葉に胸の奥が熱くなっていく。
「何で、今言うのよ」
「今言いたくなった」
「何それ」
色んな人に言われたのに彼に言われると嬉しくて仕方がない。私の方を向いた彼に自然と笑ってしまう。
「式の時には言えなかったからな」
「・・・そんな風に思ってたの?」
結婚式の当日、彼がそんなことを思っているとは知りもしなかった。
「今なら何回でも言える」
「恥ずかしいから一回でいい」
一回言ってくれれば全部伝わるから。
「(イチャついてるなぁ・・・)」
「シェリル様もカタクリ様も良い表情ですね。全身よりアップにした方が良いかもしれませんね」
こうして無事に撮影も終わり、写真は後日ということになった。
後日、現像された父様と私のツーショット写真は父様の部屋に素敵な写真立てに入れられてこっそり飾られている。
そして、私とカタクリの写真はお互い誰の目にも触れぬ場所に隠しました。
「勿体無いですよ!」
「飾るべきです!」
「あのね、誰かが見たら根掘り葉掘り聞かれて大変な思いするでしょ」
「「えー・・・」」
ピンキーとシアンは写真を飾れと言うけれど私は飾る気はなかった。私達の大事な思い出として仕舞っておくのが一番良い。
「よぉ、カタクリ」
「ノックも無しかペロス兄」
「ん?今、何見てたんだ?」
「書類」
「・・・写真じゃなかったか?」
「気のせいだ」
鍵付きの引き出しへと仕舞われたそれにペロス兄さんは不思議そうな顔をする。
「あら、ペロス兄さん」
開いていた窓の外から声を掛ければ彼の視線は私に向けられた。
「おぉ、シェリル」
「今ちょうど洗濯物が一段落したからお茶しようと思ってたの。ペロス兄さんもいかが?」
「折角のお誘いで、頂こう。ペロリン♪」
そう言って中から外へ回ったペロス兄さん。彼の姿が見えなくなって私はカタクリに笑い掛ける。
「そんなに頻繁に見なくても」
「俺の癒し」
「恥ずかしいことサラッと言わないで///」
でも、写真撮って良かった。
(2020.06.23)