短編夢

□6月の花嫁
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『6月の花嫁』


ジューンブライド。
“6月に結婚する花嫁は幸せになれる”という言い伝えがある。意味や由来は諸説あるらしいが、結婚・出産を司る女神が守護している月が6月だという。


「はぁ〜、ジューンブライド。女の憧れよね」

目の前で何やら妄想し始めたのはシャーロット家23女のローラ。その隣で双子の姉、22女のシフォンは少し呆れた様子で紅茶を口にしている。


「ローラったら。結婚願望あっても相手が居ないと」

「これから運命の相手を探すんだから!」

ローラの目にメラメラと火が灯っている。
シャーロット家の子どもたちは皆、政略結婚が主だ。結婚相手を決めるのは全てママのため、恋愛結婚という選択はとても難しいのだ。


「ジューンブライドって単なる言い伝えでしょ?」

「それでも6月の花嫁になりたいの」

「私は9月に結婚したけど、今幸せよ」

「そりゃあ、相手がカタクリ兄さんだもの」


確かに相手がカタクリで良かったと心底思う。


「兄さんと姉さんの結婚式、凄く素敵だった」

「私も覚えてる。ゼウスに乗って入場して来た時、天女が現れたかと思ったわ」

「私には純白の女神に見えた」

残念ながら私は天女でも、女神でもない。
吸血鬼ですが。


「シェリルは産まれた瞬間から天使だよ」


ローラとシフォンの間にスッと現れたのは父様。二人は突然やって来た父様に硬直していた。


「「お、おじ様!!?」」

「やあ♪」


最近、父様がやたらと自由気ままにやって来る。けれど、ちゃんとママに許可を貰っているので何も言えない。仕事もちゃんとしているし。昨日は感染症の予防接種で、注射嫌いのクラッカーを鎧から引き摺り出して遂行していた。(ほとんど脅してたけど)


「お嬢さん方、ご一緒しても宜しいかな?」

「どうぞ!!」

即答したのはローラ。私とシフォンは苦笑する。


「父様、紅茶飲む?」

「レモンティーを貰おうかな」

父様用のお茶を淹れている間、ローラの視線は父様に釘付け。


「今日もおじ様カッコイイ♡」

「ローラ、落ち着いて」

目をハートにしているローラの肩をシフォンが揺するもなかなか治りそうにない様子。


「どうぞ」

「ありがとう」

レモンティーを優雅に口にする父様を見、私はチョコレートを口にする。


「僕も見たかったなぁ、シェリルの花嫁姿」

「何処から話を聞いていたの?」

「離れていても耳がいいからね」

クスクスと笑った父様も一つチョコレートを口へと運んだ。


「ローラちゃん、シフォンちゃん。シェリルの花嫁姿、どうだった?」

「すっごく綺麗だったわ!溜息が出るくらいに」

「あまりに綺麗だったから、家族のみんなが見惚れてたわよね」


聞いていたら恥ずかしくなってきたわ・・・。


「写真とか無いの?」

「そう言えば、」
「無いわね・・・」

三人の視線が私に向けられる。


「写してないから写真なんてないわ」

結婚式にはモルガンズのようなゲストは呼んでいないし、まず、写真に残そうという気も全くなかったので一枚も無い。


「一枚も無いの?」

「無いわ」

「・・・そうなの?」

そう言われても無いものは無いのです。
明らかに落胆している父様は気を紛らわすかのようにまたチョコレートを口に入れた。


「そんなに見たかった?」

「そりゃあそうさ。娘の晴れ姿は見たいものだよ」

「そう・・・」


この時はあまり気にしていなかったけれど、時間が経つに連れて父様の残念そうな表情が頭に浮かんできてしまうのだった。



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